ACLに懸ける神戸のベテラン酒井高徳「たとえ今の力は横浜FMが上でも――」

元川悦子

水沼など質の高いサイドアタッカーを擁する横浜FMだが、カウンターの対応には脆さも見せる。まずは立ち上がりにゲームの主導権を握りたい 【(C)Y.F.M】

まずはリズムをコントロールしたい

――横浜FMにも弱点はありますよね。

 そうですね。僕がずっと見ていて感じるのは、カウンター(の対応)に弱さがあるのかなと。攻撃力がすごく高い分、背後を突いていけば勝ち目があるのかなと思っています。

 僕らにはF・マリノスほどのコンビネーションはないけど、しっかり守った中で攻撃ができる力強さはある。多彩に攻められる方が勝つか、守れる方が勝つか……。そこが勝負のポイントになります。お互いのメリット、デメリットがぶつかり合った結果がどうなるか、見る人には楽しみにしてほしいですね。

――横浜FMはリスタートの守備が課題だと見る向きもあります。

相手がどうあれ、一発勝負のACLではセットプレーが大きなターニングポイントになるのは間違いない。まったくチャンスが作れないような展開から、いきなりゴールの流れをつかめますからね。今はヘディングの強いリュウホがいませんが、マッキー(槙野智章)みたいに大舞台で点を取ることに長けている選手はいるので、その強みを最大限、出せたらいいと思います。

――大一番での試合運びのイメージは?

 開始10~20分で自分たちがどれだけ勢いを見せられるか。そこは非常に重要な部分です。両チームとも序盤に懸けていると思うし、“勢い合戦”になるくらいの立ち上がりになるでしょう。そこでアグレッシブに攻撃されたり、守備をされたりすると、相手にリズムを持っていかれる。サッカーにおいてリズムをつかむことの重要性は、見ている人以上に、中にいる選手の方が強く感じるもの。まずはリズムをコントロールしたいですね。

 そこからはしっかり守ることが肝心。コンパクトで規律正しい守備ができれていれば、相手が我慢できなくなったり、焦れてバランスを崩したりっていうケースが多くなるかもしれない。2年前のACLでも、しっかりとした守備から攻撃に出て行く形がうまくハマっていた。バランスを崩さなければ崩さないだけ勝機はあるし、それが今のヴィッセルのベースの1つ。そこを突き詰めてやることが重要かなと思います。

2年前のACLは初出場でベスト4と躍進を遂げたが、延長の末に蔚山現代に敗れた悔しさを酒井は忘れていない。「あの時よりもいい景色が見たい」 【Getty Images】

決勝に辿り着きたいと全員が思っている

――横浜FMに勝てば、準々決勝では韓国の全北現代やマレーシアのジョホール・ダルル・タクジム(JDT)と対戦する可能性があります。グループステージで傑志(香港)やチェンライ・ユナイテッドFC(タイ)と戦った経験から言えることはありますか?

 グループステージを振り返ると、実力差を考えても、傑志とチェンライは2試合とも勝たなければいけない相手でした。特にチェンライに関しては、1戦目を大差で勝ったのに(6-0)、2戦目は引き分けてしまった(0-0)。あの時のヴィッセルはロティーナ監督が就任したばかりで、いろんなことを試行錯誤しながらやっている時期だったし、向こうも対策をしてきた。とはいえ、ドローという結果はやはり不甲斐なかったと感じます。

 ただ、アジアのチームと対戦してみて、Jリーグでは絶対に来ない距離感で相手が来たり、意表を突くプレーをしてくるなと感じることはありましたね。「普通はそういうところに蹴らないだろう」とか「えっ、そこからシュート打ってくるんだ」と思った場面は少なくなかった。「これくらいで大丈夫かな」という感覚が裏目に出てしまったし、川崎フロンターレとJDTのゲームを見ても、そういう部分があったのかなと思いました。

――感覚的な違いは確かにありますよね。

 日本人は少し、固定概念にとらわれながらプレーする傾向が強いと僕は感じています。相手を見たり、分析したうえで「自分たちのやるべきことをしっかりやれば大丈夫」と思っていても、対戦相手が変わればサッカーも変わる。そこで臨機応変な対応ができていないところがあるんです。

 その結果、試合を難しくしたり、入りが悪くなったり、最後のところで緩んでしまったりする。Jリーグと同じ感覚で、様子見でスタートして、相手がバーンと勢いよく来たら、「いつもと違うぞ」って慌てて対応する。それでは遅い。まったく違うテンポで来るんだってことを、戦う前からしっかりと頭に入れて取り組まないといけないと僕は思います。

 幸いにして、ヴィッセルにはアンドレス(・イニエスタ)やサコ、(山口)蛍、僕のように国際経験が豊富な選手がたくさんいるので、引き締め方はよく分かっているつもり。みんなで声掛けをしながら「まったく違う競技になるから切り替えて迎え撃つんだ」と言い聞かせて臨んでいきます。

――この8月はルヴァンカップ、J1、ACLと3つの異なるコンペティションが同時並行で行われるだけに、頭の切り替えが重要になりますね。

 本当にそう。ACLに関しては、とにもかくにもF・マリノスにしっかり勝つことが最優先。先を見る余裕はないというか、目の前の相手を1つ1つ倒すだけなんで。まずはF・マリノスに勝つための準備に集中したいと思います。

 僕らは今、J1で残留争いをしていますけど、ACLのタイトルを目指していることに変わりはありません。昨季、苦しい思いをしながらつかみ取ったACLの切符なので、簡単に手放したくない。「相手がJ1首位のF・マリノスだから負けてもいいよね」なんて気持ちはさらさらありません。少しでも上を目指してぶつかって、決勝まで辿り着きたい。そこまで勝ち上がるんだって気持ちは全員が持っているので、その思いを試合にぶつけるだけですね。

――最後に、ACLの戦いをスタジアムで観戦したり、『DAZN』で試合を視聴してくれるファン・サポーターに向けてメッセージをお願いします。

 2020年のACLで負けた時(準決勝敗退)、サポーターの方々は僕らと同じくらい悔しさを感じたはず。それを一緒に晴らせたらいいと思うんです。簡単な試合は1つもないし、僕ら選手の力だけじゃ勝ち上がるのはムリです。サポーターと気持ちを1つにして、1試合1試合、勝ち進んでいきたいと今、強く思っています。

 まだスタジアムで声を出せなかったりとか、いろいろ難しさもありますけど、J1で残留争いを強いられる中でも、諦めずに応援してくれる方がたくさんいる。僕らはそういう人たちに結果で応えなきゃいけないんです。

 今回のACLはノックアウトステージの日本開催が決まって、大勢のサポーターが来ていただける環境になった。20年はカタールでの集中開催で、コロナ禍によって無観客試合でもありましたが、今回は日本の地で勝ち進んでいく姿をみんなに見せられる。DAZNで視聴される方とも一丸となって、2年前に成し遂げられなかったことを果たしたい。そのためにもいい準備をして、しっかりと戦っていきたいと思っています。

(企画・編集/YOJI-GEN)
酒井高徳(さかい・ごうとく)
1991年3月14日にアメリカ・NYで生まれ、2歳で新潟県三条市に引っ越す。アルビレックス新潟ユースで育ち、2008年11月15日の天皇杯・FC東京戦で公式戦デビュー。11年12月にブンデスリーガのシュツットガルトへ期限付き移籍し、15-16シーズンからの4年間はハンブルクに在籍。4シーズンにわたってSBやボランチとして活躍するとともに、キャプテンの重責も担った。19年8月にヴィッセル神戸へ完全移籍。1年目に天皇杯優勝を成し遂げる。日本代表としては、12年のロンドン五輪で4位入賞に貢献すると、同年9月6日のUAE戦でA代表デビュー。14年ブラジル大会、18年ロシア大会と二度のW杯にも出場した。日本代表通算42試合・0得点。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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