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J1月間MVP 横浜FM水沼宏太、変化のワケ「信じてやり続ければ未来は変えられる」

舩木渉

鳥栖で初めて経験した「チーム一丸」

本当の意味での「チーム一丸」を知ったのは、12年シーズンから4年間在籍した鳥栖時代。当時の経験は「今の自分にすごく生きている」と話す 【写真は共同】

――今の横浜FMには、水沼選手のように「とにかくチームを勝たせたい」という強い思いを持った選手ばかりがそろっています。外から見ていても、一体感は抜群です。若手もベテランも、試合に出ている選手も出ていない選手も、全員がひとつの方向を見ています。水沼選手自身が、どんな状況でもチームに尽くせるようになったのはいつ頃からですか?

 僕はもともとみんなで何かを成し遂げるのが好きなタイプなので、自分みたいな性格の人間がどうやってチームの中で生きていけるか、チームにプラスの働きができるかを早い段階から考えていました。

 今になってみると、前回F・マリノスに在籍していた当時(ユース出身で10年7月に栃木SCに期限付き移籍するまでプレー)はチーム内で最も若かったんですけど、縮こまっていないで元気よく盛り上げていこうとしていたなと。試合に出られない時期も、自分はチームのために尽くすのはもちろん、「この時間にも絶対に何か意味がある」と思ってやっていました。

 サガン鳥栖(12~15年シーズンまで在籍)での経験もすごく大きかったですね。当時の鳥栖はJ1に上がったばかりのチームで、J2で苦労していた選手や、なかなかJ1で試合に出られなかった選手、初めてJ1の舞台で戦う選手がすごく多かったんです。個の能力やチーム力はJ1で最も劣っていると言われていて、完全にチャレンジャーでした。

 周りから「劣っている」と言われることで、「じゃあ、見返してやろうぜ」という一体感が生まれて、みんなで戦っていくというのはこういうことなんだというのを体感しながら、先輩たちにも学ばせてもらいました。本当の意味での「チーム一丸」は鳥栖に行って初めて経験したことだったので、それは今の自分にすごく生きていると思います。

――年齢を重ね、横浜FMではチームの先頭に立つ機会も増えました。最近はゲームキャプテンとして試合に出ることも多いですよね。

 まさか自分がキャプテンマークを巻いて、F・マリノスの選手として戦うとは想像していませんでした。本当に幸せなことだなと思いますし、F・マリノスというビッグクラブでキャプテンとして試合に出場することには、間違いなく重みと責任を感じます。

 とはいえ、自分のキャラクターを信じて任せてもらっているのであって、キャプテンだからこうしないといけない、ああしないといけないというのはないと思うんですね。自分らしくやることが責任を果たすにあたって最も重要だと思うので、それだけを考えています。いつも声を出したいから出しているし、ピッチ上でサッカーを楽しみたいから楽しんでいる。キャプテンマークを巻くことによるプレッシャーはまったく感じていないです。

――いつも試合を見ていると、交代した後も「下がったから自分の役目は終わり」ではない水沼選手の背中が印象的です。試合終了の瞬間までピッチ上の選手たちと一緒に戦う姿勢は、他の仲間たちにも伝播している気がします。

 キャプテンマークを巻いたからには、最後までピッチに立って戦いたいのが本音です。プラスアルファでパワーが湧いてくるので、キャプテンマークは間違いなく自分の100パーセント以上のプレーを引き出してくれます。

 でも、キャプテンマークを巻いていようが、巻いていなかろうが、チームのためにという姿勢はまったく変わらない。途中交代すると悔しい思いもあるんですけど、F・マリノスでは本当に信頼できる選手たちが代わりに出てきますし、だからこそ「交代したら終わり」じゃないなと思うんですね。僕が昨年ずっと途中出場していたから、そういう思いが余計に強いのかもしれません。

 やっぱり途中出場する選手たちには、それぞれに思いがありながらどこかに絶対悔しさを持っている。だけどチームとして、一緒になって戦って鼓舞してくれる仲間がいると感じられると、「よし!」という気持ちに切り替わるし、「自分のためだけじゃないな、チームのためにだな」という気持ちにもなるというか。

 僕にはチームのためだったら何でもやりたいので、交代してからもベンチからみんなに声をかけるし、それを見て何かを感じ取ってくれる仲間がいたら幸せなこと。夏場はベンチから声を出していると本当にキツくて倒れそうになるんですけど、そういうときは「お前、俺より声出てねえぞ」と言って、オビ(・パウエル・オビンナ)にも一緒に声を出させたりしています(笑)。

――やっぱり周りをどんどん巻き込んでいるんですね。

 オビに限らず、選手たちはみんな僕が言わなくても率先して声を出してくれますよ。交代した選手が疲れていても一緒に立って応援したり、第4審判に注意されるくらい前に出たり、F・マリノスはそういうチーム。そういうみんなの姿勢が一体感を生んでいると思います。

 チームが勝つためには、試合に出ていない選手の振る舞いや行動がめちゃくちゃ大事になってくる。試合に出ている選手、出ていない選手できっぱり分けるのではなくて、みんな一緒だよという雰囲気を作ることが強いチームになる秘訣だと僕は思っています。僕はJリーグで優勝したことがないですけど、優勝するための近道はそこにあるのではないかと信じてやっています。

もっと自分をギラつかせていきたい

横浜FM再加入3年目はゲームキャプテンを任される機会も増えた。チームのために全力で戦い、「獲れるタイトルはすべて獲りたい」と意気込む 【写真は共同】

――横浜FMを見ていると、サッカー選手はどんな状態で幸せを感じるのだろうと考えることがあります。ずっと試合に出続けることが保証されている立場なのか、それとも、控えでも強いチームで一緒に戦えれば幸せなのか。いろいろな立場を経験してきた水沼選手は、サッカー選手にとっての幸せのあり方について、どう考えますか?

 人それぞれ考え方は違うと思いますけど、試合に出られなくてもチームにいられればいいと思っている選手は、F・マリノスにはいません。だからこそ、こうやって高いレベルで競争し合っているのではないでしょうか。

 19年にF・マリノスはJ1で優勝して、20年に僕が移籍加入してきたとき、自分のポジションには前年のリーグMVPと得点王を獲得した選手(仲川輝人)がいました。そこに飛び込んできた僕が何を思ったかというと、一緒に戦うことで絶対に自分がレベルアップできるな、ということなんですね。

(前所属の)セレッソ大阪には自分でつかんだポジションがあって、試合に出られていたので、居心地の良さはもちろんありました。けれど僕はJリーグでチャンピオンになりたかったし、自分のレベルをもっと上げるための刺激がめちゃくちゃ欲しかった。F・マリノスからオファーをもらったとき、間違いなく厳しい戦いが待っているのは分かっていましたが、活躍できる自信はあった。競い合うことで、自分が想像できない未来に到達できると信じてやってきました。

 今年でF・マリノスに再加入して3年目になりますけど、「やっぱり来て良かったな」と思っていますし、僕と同じような選手がこのチームには本当に多い。途中から試合に出る選手が絶対にインパクトを残すようなチームにもなっているので、常に「俺も負けられないな」と思うし、もっと結果を残さないといけない、もっとチームのためにやらないといけない、もっとチームに必要とされる選手にならないといけないと、みんなが感じているはずです。それがF・マリノスが強くなってきた大きな要因のひとつだと思います。

――先ほど「日本代表になりたい」という言葉がありました。現在の日本代表は海外組中心ですが、目の前には国内組のみで臨むEAFF E-1サッカー選手権(7月19日開幕)という大きなチャンスがあります。あらためて日本代表への思いを聞かせてください。

 日本代表はずっと目指してきたところなので、チャンスがあるのであればつかみ取りたい。ただ、日本代表になりたいという思いにばかりとらわれてしまうと、自分らしくいられない。サッカーを楽しめば、きっと明るい未来が待っていると、僕は信じてやっています。

 今は海外組が多くなっていますけど、Jリーグの価値を上げるためにも、Jリーガーが日本代表に少しでも多く入っていくことが大事ですし、日本でやっているからこその味が出る選手はたくさんいると思います。国内組の選手たちが日本代表に食い込んでいくことが日本サッカーのレベルアップにもつながるので、僕にとって日本代表はサッカーを辞めるときがくるまでずっと目指し続けたい目標です。

――最後に、今シーズンのチームと個人の目標を聞かせてください。

 チームではタイトルを獲ることが目標ですし、チャンスなのは間違いない。自分たちのやるべきことをしっかりやれば、結果はついてくると信じています。ACL(AFC チャンピオンズリーグ)もありますし、リーグ戦もルヴァンカップも、F・マリノスで獲れるタイトルは全部獲りたいという気持ちがすごく強いです。

 そのために何をすればいいかというと、今まで通り、目の前の1試合1試合に全力で取り組むこと。それが間違いなくタイトルを獲るための鍵であり、絶対に変えてはいけない部分だと思います。とにかくタイトルを獲るために全力を尽くして、みんなで高め合っていけば、きっと笑ってシーズンを終えられると信じています。

 個人としても現状に満足することなく、もっと自分をギラつかせていきたいですね。チームメートみんなと競争しながら、与えられた時間の中で自分を表現して、チームのために戦う。そのスタンスを変えずに、残りのシーズンもサッカーを思い切り楽しみたいと思います。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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