W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

日本代表で誰よりも魅力ある選手―― 久保建英は感情を操り、感情にほだされる

西川結城

久保は感覚や感性に依拠したフットボーラーではない。そのプレー、動きには数々の論理が隠されている 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

 試合中の久保建英はほとんど感情を表に出さない。だがその実、情熱的かつ野心的なプレーヤーだ。それは、東京五輪の3位決定戦の後に彼が見せた姿や、「A代表でも圧倒的な存在にならないといけない」という発言が示している。冷静さを保って淡々とプレーしながら、観る者の心を揺さぶるパフォーマンスを披露し、時に自分も高ぶる。今の日本代表で久保建英ほど魅力のある選手は他にいないだろう。

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感覚的でなく体に染み込んだロジックを体現

 何事も、いまや“ロジカルシンキング”全盛の時代である。

 論理的に物事を考えた上で、実行に移す。これまでの世の中でも重要な順序ではあったが、現代はデジタル化の加速によってデータや数字の収集、解析能力が格段に向上したことで、そうした作業がより重要視されてきている。感覚的に物事を捉えるよりも、より合理的に、筋道を立てて考えてアウトプットする。ヨーロッパの最前線に見る、現代フットボール戦術の先鋭化もまさにこの文脈と言えるだろう。

 久保建英について記したい。その上で、なぜこのような話から入ったのかと言えば、彼もまた論理的な思考で自らのプレーを形作る“ロジカルプレーヤー”だからである。バルセロナに所属していた十代前半から、中村俊輔や長友佑都のプレー構築に深い関わりを持っていた中西哲生氏の指導のもと、身体の作りや動き方を基点にしたロジカルなアプローチで技術向上に力を注いできている。

 例えば東京五輪の初戦、南アフリカ戦で決めたゴール。トラップからボールの持ち出し、そして軸足を抜いて蹴り足で着地するシュートまで、あれは久保にとっては“一連の型”どおりのプレーだった。重心を高く保って軸足を抜くことで、体の真下にピタリとボールを止められた。次に、ボールを横に動かす際、眼前のDFに対して真横に並行にドリブルすることで敵に距離を詰めさせず、かつシュートを打つときも体が開くことなく鋭く足を振った。そのシュートも、中西とともに長年取り組んできた「軸足抜き、蹴り足着地」のフォームによって、余計な力みなくボールに体重が乗ったシュートを放つことができた。

 堅い文句ばかりを並べてしまったが、これこそが久保が論理的な選手である証拠でもある。あの一連のプレーひとつとっても、久保は感覚的ではなく体に染み込んだロジックを体現している。他にも、例えばドリブルでDFと正対した場合は必ず両肩を極力並行に保つことで、敵に進行方向を見破られないようにするなど、久保の動きには数々の論理が隠されている。

「感情を消す」という理想の追求

先日のマドリー戦では随所にハイレベルなプレーも披露したが、自身の保有権を持つクラブにアピールしたいという思いが力みにつながっているようにも…… 【Photo by David S. Bustamante/Soccrates/Getty Images】

 何でも、ロジカルな思考のもとでプレーできれば、無敵なのか。そうではないことは、久保の現況を見ていても理解できる。現在スペインリーグで、彼が毎試合出色のプレーを披露しているわけではない。もちろん、現在所属するマジョルカはスペインにおいて中堅以下のチームである。その中で、久保のテクニックと思考レベルはチーム内で明らかにトップクラス。とはいえ、絶対的に代えの効かない存在となり得ているかと言えば、答えはNO。そのポテンシャルからすると、物足りなさが残る。

 3月14日(現地時間)には、ホームにレアル・マドリーを迎えた。久保はマドリーからマジョルカに期限付き移籍している立場。スペインでは、彼のマドリー帰還が来季いよいよ実現する可能性が高いという報道まで出ている。

 いいところを見せたい。その感情が、力みにつながったように見えた。久保のプレーは、終始硬かった。普段ではあり得ないトラップミスやパスミスを連発。確かに、チームの守備戦術の影響で不慣れな左サイドに配置されたことは、プレーの窮屈さにつながってはいた。ただ、それ以上に久保自身の課題が多く目についた。彼が得意なトップ下や右サイドでプレーしていても、この日に関しては同じだったかもしれない。
 
「感情は、ゴールが決まった後、試合に勝った後に表せばいいのです」

 これは、以前得点に喜びを爆発させていた久保を見たときに、中西氏が語った言葉である。久保と中西氏の論理的なアプローチにおいて、特徴的なものが「感情を消す」ことである。ボールを持った瞬間、「シュートを決めたい」「パスを通したい」と強く思うからこそ、体は自然体ではなくなって硬直する。そして、ミスにつながる。

 久保は普段、あらゆる局面で淡々とプレーすることを理想としている。つまりドリブル、パス、シュートの瞬間、自分が培ってきたスキルの型やフォームを体現することに意識を注ぐと同時に、その体現の邪魔になる「決めたい」「通したい」という感情を消すのである。冷静にスキルを遂行したのちに、結果が生まれる。感情を爆発させるのはそれからでいいという考え方だ。

 言葉で言うのは簡単だ。久保もこの考えどおりプレーできているときもあるが、彼はロボットではない。人間、常に感情をコントロールすることが最も難しい。それはまさに、マドリー戦で見せたプレーが表している。「活躍したい」、そんな気持ちがなかったという方がウソに聞こえる。強豪相手にも、要所で見せたドリブルや技術はハイレベルだった。ポテンシャルは間違いないからこそ、あらためてその感情のコントロールが、久保にとってのカギである。

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著者プロフィール

西川結城

サッカー専門新聞『EL GOLAZO』を発行する(株)スクワッドの記者兼事業開発部統括マネージャー。名古屋グランパス担当時代は、本田圭佑や吉田麻也を若い時代から取材する機会に恵まれる。その後川崎フロンターレ、FC東京、日本代表担当を歴任。その他に『Number』や新聞各紙にも寄稿してきた。現在は『EL GOLAZO』の事業コンテンツ制作や営業施策に関わる。

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