W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

城福浩×北條聡で日本代表戦士を深掘り 伊東純也の「なぜ」と「長友・中山問題」

飯尾篤史

いまや日本代表のエースとなった伊東。甲府での特別指定選手時代を知る城福氏は、仕掛けの第一歩となるファーストタッチを高く評価する 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 勝てばカタール・ワールドカップ(W杯)出場が決まる大一番、アウェイのオーストラリア戦が、3月24日に迫っている。ここではかつてFC東京、ヴァンフォーレ甲府、サンフレッチェ広島の監督を歴任した城福浩氏と、『週刊サッカーマガジン』の元編集長で、現在はフリーライターの北條聡氏を招き、伊東純也や遠藤航など、森保ジャパンを支える中心メンバーたちの魅力と、その有効活用法を語ってもらった。長友佑都か、中山雄太か。巷で話題の左サイドバック論争についても、持論を展開していただく。

アジアレベルでは十中八九スピードで抜ける

──まずは、アジア最終予選4戦連発の伊東純也に触れないわけにはいきません。正直、ここまで彼が最終予選でエース級の働きをしてくれるとは、想像していませんでした。城福さんはどのような印象をお持ちですか?

城福 僕がヴァンフォーレ甲府の監督だったとき、当時大学生(神奈川大)だった彼を特別指定選手として呼んだんです。基本的に3日間程度、練習参加した選手をメンバー入りさせることはないんですけど、あまりにも良い選手だったので、これは入れざるを得ないなと。結局、試合で使う機会はなくて、僕もその年(2014年)限りで甲府を離れたんですが、そこからあれよ、あれよという間に成長して。

北條 城福さんのおかげじゃないですか、今の伊東があるのは(笑)。

城福 いや、でもビックリしましたね。こんなに良い選手が甲府に来てくれるの? って(笑)。 彼がここまで活躍できている理由は、ひとつはやはりスピードですよね。スピードには好不調がありませんから。もうひとつは、あれだけスピードがあるのにサッカー音痴ではないこと。フットボーラーなんですよね。

 おそらく学生時代は、出して走っておけば抜けたと思うんですけど、そこから駆け引きを覚え、味方だけでなく相手も見えるようになった。自分の持ち味を活かすタイミングが分かって、自信も身に付けたんでしょう。そして特にここ最近は、あのひと振り。キックの思い切りの良さというか、チャンスメイクだけじゃなく、点も取れる選手がいるっていうのは、今の日本代表にとってすごく大きいなと思いますね。

北條 城福さんが甲府で見られていた頃はFWでしたか?

城福 そうですね。ただ、当時は3バックをやっていたのでウイングバックか、意外と狭いところでも受けたがるのでシャドーのイメージもありました。柏レイソル時代には主にサイドハーフとサイドバック(SB)をやっていたと思いますけど、彼の現在の思考やプレースタイルを考えれば、代表で任されている4-3-3の右ウイングというのは、すごくやりやすいんじゃないかな。

北條 スピードと技術の両方をハイレベルで備えた選手って、これまでの日本にはなかなかいませんでしたよね。少なくともアジアレベルでは、1対1になったら十中八九スピードで突破できるので、プレーがとてもシンプル。だから周りも使いやすい。今、ワイドの選手は「幅を取れ」とよく言われますけど、幅を取って足元で受けてから仕掛けるウイングが多い中、彼の場合は裏抜けもできますからね。スペースに少々ラフに放り込んでもチャンスを作れる。確かに、他のルートからの崩しがあまりうまくいってない分、余計に伊東の活躍が目立っている部分もあるのかもしれませんが。

城福 自分の特徴がよく分かっているから、ファーストタッチがもう仕掛けの第一歩になっているんですよね。足元で受けて、コントロールして仕掛けるのではなく、もらった瞬間に前へ出て行ける。だからショートカウンターで彼の足元にボールが入っても、全体のスピードが落ちないんです。

リバプールでの右ウイング起用がひとつのヒント

南野の持ち味が最も活きるのは、「偽9番」など中央寄りのポジション。それでも日本が主導権を握る時間が長くなれば、左ウイングでも見せ場を作れる 【写真:ロイター/アフロ】

北條 今、伊東は持ち味が一番生きるポジションで使われていますが、逆にこれは南野拓実をどこで使うのか、という話にもつながってくると思います。

──2月1日のサウジアラビア戦(○2-0で勝利)で、ようやく右で崩して左で決める形が見られましたが、最近は左ウイングが定位置となった南野は、どうすればもっと輝けると思いますか?

北條 現在の4-3-3なら「偽9番」とか、本当は中寄りのポジションでプレーさせた方がいいでしょうね。リバプール的な、いわゆる外切りのプレスを日本代表が今後も継続してやっていくのであれば、ロベルト・フィルミーノみたいに、FWなんだけどトップ下的に振る舞わせたい。4-2-3-1なら当然トップ下がいいだろうし、3-4-2-1をやるならシャドーも選択肢としてあるでしょうね。ただサイドでも、日本が主導権を握る時間が長ければ、南野がハーフスペースあたりに入ってきて仕事をするシーンが増えるので、彼の良さがもっと引き出せるとは思います。

──逆に主導権を握れない展開になると……。

北條 サイドハーフ的な仕事が多くなって、守備に追われてしまう。おそらく森保一監督はサイドの選手に上下動のハードワークを求めていると思うので、タフな南野を左ウイングで使いたいという考えも分かります。ただ、彼が代表で点を取りまくっていた頃って、やっぱりトップ下が主戦場でしたからね。

城福 僕もほぼ同感で、彼が一番生きるのは、例えば、前に大迫勇也のようなポストプレーヤーがいて、その下で衛星的に動けるポジションでしょうね。ペナルティーエリアのいてほしい場所に現れる、相手DFより早く反応する、という点では日本で南野の右の出る者はいない。ハーフターンなど中盤での技術も素晴らしいですが、彼の最大の武器を発揮させるためにも、もっとボックス内でプレーさせたい。

 ただ一方で、リバプールではこの前のノリッジ戦(FAカップ5回戦)で右ウイングとして使われて、2点取っているんですね。無理やり仕掛けて局面を打開するというより、ミドルサードで受けて前を向き、味方にはたいてゴール前に飛び出して行く。もちろんレベルの高いゲームなんですけど、代表の左ウイングよりも気楽にやっているというのかな。ちょっと意外でしたけど、あれはひとつのヒントになるかもしれませんね。

北條 あとは中盤の3人との絡み方によっても、もっとゴール前で見せ場を作れるかどうかは変わってくるでしょうね。

──昨年10月のオーストラリア戦から、森保監督はシステムを4-2-3-1から4-3-3に変更し、アンカーの遠藤航のアンカー、インサイドハーフの田中碧と守田英正の3人で中盤を組むようになりましたが、それによって、具体的にチームはどう変わったと見ていますか?

北條 それまでの課題のひとつだったビルドアップの部分は、試合を重ねるごとに良くなっている印象がありますね。ポジショナルプレーをやろうとすれば、選手間の相互理解がこれまで以上に大切になってきますけど、そこは(元川崎の)田中と守田を中心にコミュニケーションを取りながら、立ち位置も含めてかなり意識して取り組んでいるように見えます。東京五輪でもあったような、ボールを奪ったあとのビルドアップの局面でカウンタープレスに遭い、失って、また攻められてという悪循環は改善されつつあると思います。

 あとは、中盤の3人はいずれも守備の強度が高いので、3トップをできるだけ後ろに下げず、高い位置でボールを奪いに行く戦い方が可能になっていますよね。欲を言えば、もう少し高い位置でのライン間で、インサイドハーフがボールを引き出せれば理想ですけど、そのあたりはまだ伸びしろがあると、ポジティブに考えています。

城福 ビルドアップが安定したのは、選手間の距離が近くなったからでしょう。センターバック(CB)の近くに寄ってボールを引き取ったり、クサビを受けた選手の横にスッと入ったりといったプレーを、特にインサイドハーフの2人は川崎時代から当たり前のようにやっていたわけです。

 ただ、今はちょっと、彼らの攻守両面における負担が大きいようにも感じています。これは、最終的にどういうサッカーを志向していくのかという話にもつながるんですが、現代サッカーでは左右のSBのどちらかが中に絞ってボランチ的に振る舞うことで、中盤の負担を軽減するというやり方が大きな選択肢になってきた。SBに幅を取り切らせるのか、それとも中に入ってCBやインサイドハーフとの距離を縮めるのか。そこがもう少し明確になってきたら、チームとしてさらに良くなると思うんですけどね。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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