日本代表で誰よりも魅力ある選手―― 久保建英は感情を操り、感情にほだされる
他者との決定的な“違い”を再度アピールして
東京五輪の3位決定戦で敗れたあと、カメラの前で泣きじゃくる久保の姿は、おそらく多くの人が抱いていたクールなイメージとは異なるものだっただろう。だが彼の心の奥底には、熱い思いがたぎっている 【Photo by Leon Neal/Getty Images】
誰もが記憶しているのは、昨夏の東京五輪。3位決定戦でメキシコに敗れると、あのポーカーフェイスで貫いてきた青年が人目をはばかることなく泣きじゃくった。
涙だけではない。その後に久保が話した言葉にも、熱量があふれていた。
「こんな悔しいことはないです。ちょっと……キツイです。今度こそチームの勝利に貢献したい。ただ、本当に今日の負けは重いです。この気持ちを忘れないようにしたいです」
続けて、それから約1カ月後にA代表に招集された際のコメントも、あらためて紹介したい。
「次は必ずチームを勝たせたい。A代表でも、圧倒的な存在にならないといけない」
出てきたのは、“圧倒的”という一言。前後の言葉に紛れるようにサラリと言ってはいたのだが、今の代表選手でここまで野心的なセリフを自らに投げかける選手は、いない。
森保ジャパンでは、昨年9月の中国戦はトップ下で先発し出色のプレーを披露したものの、その後10、11月シリーズは負傷により招集外。現在のチームは4-3-3システムを採用し、右ウイングでは伊東純也が主役級の働きを見せ、またインサイドハーフに入る守田英正と田中碧が戦術遂行に欠かせない影の主役として並び立つ。いずれのポジションも、現状、久保がスタメンとして入る隙間はない。
もちろん、森保一監督は「ひとつのシステムだけでなく、試合中に可変させていくなどいくつかのオプションを準備している」と話す。実際に今年1月の中国戦では、後半途中に久保を投入して布陣を4-2-3-1に変更。久保はトップ下でチャンスメイクの役割を担った。
伊東の攻守にわたって見せるスペシャルなパフォーマンスは、いまやチーム戦術にまで昇華してきている。そのため久保は右サイドではなく、中盤中央のポジションでいかに勝負できるかが焦点となっていくかもしれない。守田や田中はもちろん、今回招集されたセルティックで好調の旗手怜央など、ここも激戦区。とはいえ、敵と敵の中間にポジションをとってパスを引き出しては、ドリブルや少ないボールタッチで連係を促進できるのが久保の武器であり、インサイドハーフの選手の中では随一の攻撃スキルを持っている。まずは途中出場を含め、他の選手たちとの決定的な“違い”を再度アピールし、そして結果につなげることが重要だ。
減少傾向にある「スター性」のあるプレーヤー
日本代表では、まだレギュラーを確保するには至っていない。1月の中国戦は20分に満たないプレー時間にとどまり、続くサウジアラビア戦は出場なし。自身が言う「圧倒的な存在」になるためには、ピッチで結果を出すしかない 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】
「スター性」。抽象的な表現だが、ひとつ定義すれば、それは「感情を揺さぶられる存在」であることや、「ワクワクするプレーで胸を熱くさせる選手」であること。自分で「圧倒的な存在に」と言うほどに、久保の心根は情熱的で野心的である。あの涙を堂々と流しては、再び力強く前を向ける人間はそうはいない。
プレーでは、ロジカルでいて感情を消す。そして、人の心を動かす活躍を示し、自らも高ぶる。感情を操り、感情にほだされる。そんな久保建英は、日本代表で誰よりも魅力ある選手であることに、変わりはない。
(企画構成:YOJI-GEN)
【試合情報】
AFCアジア予選 -ROAD TO QATAR-
第9戦 オーストラリア代表vs日本代表
3月24日(木)18時10分キックオフ(17時30分配信開始)
DAZNにて独占配信