川端暁彦×飯尾篤史の日本代表徹底討論 弱い?強い? どう見るのが正解なのか?
コメント力に劣るため、なかなか真意が世間に伝わらない森保監督。それならば、スポークスマンを担う人物も必要か 【Photo by Masashi Hara - FIFA/FIFA via Getty Images】
アウェイのサウジ戦は最も敗れる可能性のあったゲーム
飯尾 ここまで苦しい最終予選は、1997年のフランスW杯予選以来じゃないですか。僕らは当時、学生でしたけれど。これまでもジーコジャパンがイランに、ザックジャパンがヨルダンに、ハリルジャパンがUAEに負けたけれど、W杯には行けるだろうという雰囲気があった。でも今回、サウジアラビアとの第3戦(2021年10月8日)で2敗目を喫したときは、さすがに危ないんじゃないかと。97年の最終予選と似た緊張感、危機感に包まれましたよね。
川端 ただ、悲観的になりすぎているようにも感じていました。問われるのは予選の10試合が終わった段階で2位以内に入っているかどうかであって、まだ3試合が終わっただけ。しかも今回は6チームが2グループに分けられていて、試合数は過去の最終予選よりも多いわけで。それなのに、オンラインの囲み取材でもこの世の終わりが迫っているかのような、悲壮感のある質問が多かった。ネット上の「世論」も含めてちょっと過剰ではあったと思います。
飯尾 ネガティブな質問が多かったり、ネガティブな答えを引き出そうとしているんだろうな、と感じる質問もあったり。
川端 あと、そもそも問題はサウジアラビア戦での敗戦ではないと思うんです。もともと組み合わせが決まった時点で、アウェイのサウジアラビア戦は落とす可能性が最も高い試合でした。サウジアラビアが一番手強いのは明らかで、そことのアウェイゲームですからね。白星を想定できない試合を落としたということ。真の問題は、開幕戦のオマーンとのホームゲーム(21年9月2日)に敗れたことですよね。
飯尾 あのときは、涼しくなってきたヨーロッパから残暑が残る日本に戻ってきた欧州組のコンディションが悪かったり、ヨーロッパの移籍市場が閉まるタイミングで、アーセナル移籍が目前だった冨安健洋の招集が見送られたり。あと、ヨーロッパのプレシーズンで、選手たちが自チームの戦術を頭と体に詰め込んでいる時期だから、代表に来てパッと切り替えられなかったりと、いろいろな問題がありましたね。
川端 長友佑都の移籍先が決まってないなんてこともありましたね。大迫勇也のように日本へ帰ってきた選手たちは、すっかり慣れなくなった日本の酷暑でコンディションが損なわれていたり……。一方で、オマーンは1カ月近く合宿を張って日本対策をしてきましたからね。そしてもうひとつ、東京五輪の影響も大きかったと思うんです。以前、兼任監督のメリット・デメリットについての原稿を依頼されたことがあって、「デメリットとして、東京五輪直後のW杯予選は怖いぞ」と書いたんですね。僕がリスクだと考えていたのは、地元開催の五輪で結果を出せなかった場合、A代表の監督がA代表じゃないチームの成績によってダメージを受けるということ。悪いムードの中で最終予選に突入していくことになりますから。
飯尾 それは世間の悪いムードということですか?
川端 世論もチームも両方ですね。チームでも求心力が落ちる可能性がありますから。代表チームというのは良くも悪くも、国民の空気感を反映するものだと思っていて。そこが兼任監督の大きなリスク。実際、結果は4位だったので、これを「悪い結果」とするのは釈然としない部分もあるんですけど、本人たちも含めて失敗したという空気でしたよね。少なくとも成功ではない。選手たちも心理的に負い目を持っていたかもしれない。
飯尾 理想は東京五輪でメダルを獲得して、自信をつかんだ若い選手たちが中心となり、そこにベテランや中堅を加えて最終予選に入っていくことでしたが、そうした流れを作れなかったのは事実ですね。
川端 ドラスティックにメンバーを変えられず、従来のメンバーと五輪に参加したメンバーを急造で融合させたものの、フワッとした感じで初戦を迎えることになった。あと、東京五輪の影響と言えば、酒井宏樹が象徴的ですけど、五輪の大激戦による肉体的なダメージをその後も引きずってしまったということもありました。
飯尾 あの日の大阪は大雨で、ピッチコンディションや雰囲気という点でも重苦しかったですよね。これ以上にないくらい、マイナスの要素が重なった印象ですね。
長友でも不安定になるのが代表の怖さ
ホームのオマーン戦に敗れて黒星スタート。難しい状況が重なったのは事実だが、果たして油断はなかったか 【Photo by Kaz Photography/Getty Images】
飯尾 オマーン戦前にある選手が「圧倒的な強さを見せつけたい」と言っていて。
川端 予選なんですから、圧倒する必要なんてなくて、大事なのは確実に勝ち点3を取ることだろう、と(笑)。
飯尾 大丈夫かなあと思っていたら、案の定……。
川端 東京五輪がもうひとつ弊害になったとすれば、意識が世界に向いているんですよね。メダルを逃した、この借りは世界大会で返す、世界が基準だ、アジア? オマーン? みたいな(笑)。それは選手だけでなく、世論も、僕らメディアも含めて。そういう温度じゃなくて、ちゃんと足元を見つめないといけなかった。W杯予選が甘い舞台なわけないんですよ。サッカーって、少々の戦力差なんてひっくり返るスポーツですしね。だから、いい勉強になったという言い方もできるんじゃないですか。
飯尾 その後、5連勝を飾ったことを考えると、ほんと、いい勉強になりましたね。正直、ホームのオマーンに敗れるなんて想定していなかったから、相当追い込まれたわけじゃないですか。
川端 追い込まれましたね。
飯尾 続くアウェイの中国戦(21年9月7日)は1-0で勝ったけど。今予選で最も厳しい戦いになるサウジアラビア戦はミスから敗れたと。その1敗は計算しておける1敗だったけど、初戦で想定外の1敗を喫していたことで、早くも崖っぷちに立たされて。
川端 ただ、危機を共有した人間の集団はやっぱり強くなるもので、途中から、チームになってきたな、いい雰囲気になってきたなとも感じました。
飯尾 岡田武史さんが10年南アフリカW杯のときに言っていたけれど、「外からのプレッシャーがチームをひとつにする」と。岡田さんの言うところの「ゾーン」に、森保ジャパンが入ったのかどうかはわからないけれど、結束力の高まりは感じられましたね。先日の中国戦(22年1月27日)、サウジアラビア戦(2月1日)になると、安心して見ていられましたから。
川端 結束するって難しいと思うんですよ。代表チームは、プライドの高い選手たちの集団なので。みなさんが想像している以上に悪い子が多い(笑)。
飯尾 悪い子って(笑)。
川端 僕はそういう選手たちが大好きですけどね。悪ガキ魂を保持している部分があります。ものすごい競争を勝ち抜いて、あの場にいるわけですから。ギラギラした獣のような野性を持っていて、それがひとつにまとまるのは本当に難しい。しかも、下の世代の選手が入ってきてポジションを脅かされている選手たちには焦りもあるでしょうし、それで消極的なプレーになることもあったでしょう。本当は五輪世代と完全ミックスするあのタイミングの前に親善試合をこなしたいんですよ(笑)。
飯尾 でも、コロナ禍でスケジュール的な余白がなかった。
川端 ただ、そうやって初戦を落として追い込まれ、逆境を乗り越えて勝てるようになったことで、解き放たれた感じがある。ボロクソに叩かれていた長友佑都が、2月のサウジアラビア戦で開き直って輝いたのが象徴的でしたね(笑)。でも、長友のようにスーパーな経験を積んできた選手でさえ、心理的に不安定になりうるのが代表の怖さ、予選の怖さ。そして、それを乗り越えていくのが代表の面白さ、予選の面白さなんじゃないかと。