連載:“大谷翔平の衝撃”でどう変わる? 日本人メジャーリーガーの現在と未来

メジャーの大ベテランスカウトも太鼓判 大谷翔平「2年連続MVP」の確かな根拠

杉浦大介

二刀流への懐疑論を吹き飛ばす活躍で、昨シーズンのア・リーグMVPに輝いた大谷。メジャー5年目の今シーズンはどんな成績を残してくれるのか 【Getty Images】

 “二刀流”で昨シーズンのメジャーリーグ(MLB)を席巻し、満票でア・リーグMVPに輝いたロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平。世界を震撼(しんかん)させたその圧倒的なパフォーマンスを支えたものはなんだったのか。そして今シーズン、彼は再びどんな驚きを私たちに提供してくれるのだろうか。NY在住のライターで、MLBに造詣が深い杉浦大介氏が、「メジャー5年目の大谷翔平」を展望する。

“ゲームをスローダウン”させた大谷

 今、改めて振り返っても、2021年の大谷翔平の活躍は本当にとてつもないものだった。

メジャー4年目で“二刀流”への懐疑論が渦巻く中、投手としては9勝、野手としては46本塁打、26盗塁と、文字通り走攻守で開眼。アメリカン・リーグのMVPに満票で選ばれたのも当然であり、現代に生きる私たちは永遠に語り継がれていくシーズンを目撃したと言っていい。

 その成功の要因を探っていくと、大谷が1年を通じて健康な体を保てたことが何よりも大きかったに違いない。前年までよりも休みを減らし、起用法が確立され、162試合中158戦に出場。もちろん好不調の波はあったが、長いシーズンの中でもコンスタントに働いた印象が残っている。

「大谷は、ついにメジャーリーグへのアジャストに成功したのだと思う。“ゲームがスローダウンする”という形容がある。適応を進めた選手にとって、ゲームがよりやりやすいものになるという意味だ。大谷の場合もアメリカで二刀流をこなしながら、負担を少なくするための準備、リズムが確立されてきたのだろう」

 昨シーズンの大谷が活躍できた理由について、某メジャー球団の大ベテランスカウトに意見を求めると、そんな明快な答えが返ってきた。
 
 この人物はすでに50年以上の長きにわたり、全米、いや、世界中でスカウト活動を展開し、現在は某強豪チームのGM特別アドバイザーという立場にいる。過去に獲得した選手の中には、殿堂入りを果たしたレジェンドも含まれるという球界の生き字引のようなスカウトだけに、その言葉には説得力がある。

遠征先のホテルやレストランも重要な要素

4年目にしてメジャーリーグへのアジャストに成功した大谷だが、同時にマドン監督(左)の起用法と自身の希望が合致したことも飛躍の要因となった 【Getty Images】

「巨大な注目を浴びて渡米し、当初の大谷にはやろうとしすぎていたところがあったはずだ。そこから徐々に適応を進め、具体例を挙げるなら、昨シーズンはフィールドでの打撃練習をやめたという事実にも工夫が見える。また、メジャーリーグにはどんな投手、どんな打者がいて、実際の対戦の中で、それらの選手たちがどういった長所、短所を持っているかを肌で感じることも大切だった。さらに言えば、遠征先ではどんなホテルに泊まり、どのレストランで食事をして、どこで買い物をするかといった要素も、適応を進める上ではとても重要だったんだ」

 MLBで活躍する選手たちは、単に実力を磨いていくだけではなく、その能力を発揮するための土台作りも同時に進めていかなければいけない。18年にトミー・ジョン手術、19年に左膝の手術を受けるなど故障に見舞われたこともあり、大谷の場合はその期間に4シーズンが必要だったということだ。生活習慣が異なる外国人選手でもあるのだから、全開までにこれだけの時間を要したのも、自然なことだったのかもしれない。

 こうして飛躍への準備が整うと同時に、昨シーズンはロサンゼルス・エンゼルスの指揮官、ジョー・マドン監督の起用法と自身の希望が合致したことも大きかっただろう。「週一度の登板、その前後は休み」といったスケジュールの制約が取り払われ、より伸び伸びとプレーできるようになったのだ。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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