連載:22年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

妻や浦和スタッフの言葉で現役続行を決意 漢・槙野智章が新天地・神戸で目指すもの

飯尾篤史
 世代交代の荒波に飲まれ、10年を過ごした浦和とまさかの契約満了。一時は引退も考えたという男は、しかし、浦和を天皇杯優勝へと導き、新天地を求めた。選んだのは近年、大型補強によって力をつけているヴィッセル神戸。「アジアナンバーワンのクラブ」を目標に掲げるこのチームで、槙野智章はサッカー界を盛り上げていくつもりだ。

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引退しようかと思った時期も

浦和時代と同じ赤系のユニホームのため、神戸のユニホーム姿に違和感はない。「早くファン・サポーターに見せたい」と槙野は語る 【(C)VISSEL KOBE】

――浦和レッズ退団発表後に行われた(21年11月17日の)オンラインの囲み取材で、涙をボロボロ流していたことに驚きました

 僕もいい歳なので、涙もろくて(笑)。まあ、10年もいましたからね。朝起きて、(浦和の練習場である)大原に行って、仲間たちとボールを蹴って、ぺちゃくちゃ喋って、笑って、家に帰って寝るのがこの10年のルーティンだったので。この流れがあとひと月くらいで終わってしまうんだなって思うと、すごく寂しかったんですよね。

――寂しさ、だったんですね

 そうですね、うん。ここで引退するんだろうなって漠然と思っていたので、(契約満了は)予期せぬ出来事というか、準備していないことだったから、驚きでもありましたね。

――天皇杯決勝という大舞台で決勝ゴールを決める“お祭り男”っぷりも槙野選手の真骨頂ですが、それ以上に、悔しい思いをグッと堪え、普段どおりに振る舞えるところが“漢・槙野”の真骨頂だと感じました。18年ロシア・ワールドカップのときも、直前で出場機会を失いましたが、悔しさを表に一切出さなかった。あのときと通じるものがありました

 別に無理をしているわけじゃないんですよ。サッカーが好きだし、チームを強くしたいという思いでやっていることなので。それに、自分の背中や言動を、後輩たちが見ているわけじゃないですか。苦しいとき、悔しいときこそ、こういう風に振る舞わないといけないっていう姿を見せたい。

 僕、常々言うんですけれど、チームは生き物だと思っていて。誰かの発言や行動で空気がガラッと変わってしまうことがある。だから、いつもチームがいい方向に進めるよう、ポジティブな空気感を作ることは意識してやっていますね。

――あの囲み取材で、「違うユニホームを着てプレーする姿が今は想像できない」とか「時間をかけて今の状況を整理したい」と話していて。このまま引退してしまうんじゃないかと思いましたが、どんなタイミングで気持ちの整理ができたのでしょう?

 天皇杯決勝の前くらいまで本当に整理がつかなくて。だから、ホーム最終戦後のセレモニーのときも、この先どうするか決めていないまま、ファン・サポーターへの挨拶にのぞんだんですよ。実際、このまま引退しようかなと思った時期もあった。その時点ですでに、いろいろなクラブからオファーをいただいていたんですけれど、本当に違うユニホームを着る自分が想像できなかったんです。オファーをくれたクラブの強化部の方や監督と会っても、なかなか整理できなかった。

 ただ、妻もそうですし、友人も、あと浦和のスタッフからも『まだまだプレーする姿を見せてほしい』と言われて、やっぱり辞めちゃいけないな、サッカーをしている姿を見せなきゃいけないな、って少しずつ気持ちが向かっていきましたね。

ポルディが正式発表の前に……

日本代表としてともにワールドカップを戦った大迫、山口、酒井、武藤といった選手たちにも相談し、早い段階で加入の報告をしたという 【飯尾篤史】

――いくつかオファーが届いたなかで、なぜヴィッセル神戸を選んだのでしょうか?

 これまで僕はACL(AFCチャンピオンズリーグ)、ルヴァン(カップ)、天皇杯で優勝したことがあるんですけれど、唯一成し遂げていないのがリーグ優勝。ヴィッセル神戸はそれを本気で狙いにいくと。まずその言葉に心を動かされました。

 毎年、いろいろなチームが『優勝を目指す』と言うんですけれど、本当に優勝できる準備をしているチームって、そんなにないと思うんですね。でも、神戸はJリーグチャンピオン、アジアチャンピオンになるという目標を掲げ、そのためにはどういう選手が必要か、どこにお金をかけるのか、というビジョンがしっかりしていた。話を聞いて、チームの強みと弱みが何で、どうやって強化していくのかしっかり考えているなって感じたんですね。

 さらに、どうやってファン・サポーターに満足してもらうか、彼らを喜ばせていくか、といった部分の仕掛けも興味深くて、このクラブは可能性があるな、未来が楽しみだなと。メンバーの顔ぶれを見て、このチームでサッカーをしたら自分のプレーの幅も広がりそうだな、と感じられたことも理由のひとつですね。

――日本代表としてワールドカップでともに戦った大迫勇也選手、山口蛍選手、酒井高徳選手、武藤嘉紀選手の存在も大きかったですか?

 めちゃくちゃ大きかったですね。彼らには早い段階で連絡して、チームのことを聞いたら、みんながポジティブな話を聞かせてくれました。あと、『マキが来てくれたら、もっと良くなる』とも言ってくれて。昨シーズンは3位でしたから、そこに自分がプラスαをもたらすことができれば、リーグ優勝に近付けるんじゃないかと思いましたね。

――ケルン時代にチームメイトだった友人のルーカス・ポドルスキ(17〜19年まで神戸に在籍)には報告したんですか?

 彼にも早い段階で報告しました。『オレがいるときに来てくれよ。散々誘ったのに来なかったじゃないか』と言われて(苦笑)。ただ、正式発表する前に、ポルディが神戸のオフィシャルインスタグラムに書き込んだんですよ。それで、ファン・サポーターが『槙野、来るのか』となって。相変わらず人騒がせなやつだなって(笑)。

――トーマス・フェルマーレンという世界的なセンターバックが引退し、その穴を埋める責任やプレッシャーは感じますか?

 正直、プレッシャーは感じていないです。ただ、彼がどれだけ素晴らしい選手で、どれだけのものを残していったのかは理解しています。だから、フェルマーレンと比べられることもあると思うんですけれど、彼にできて、僕にできないことがある一方で、僕にできて、彼にできないこともある。

 例えば、全体をオーガナイズする声掛けや、チームの雰囲気の持っていき方、局面で体を張る部分とか。そうした自分の持ち味を発揮していければなと。あと、セットプレーからの得点も期待されていますので、点の取れるDFという面も見せていきたいと思っています。

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著者プロフィール

飯尾篤史

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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