オフシーズンはドキュメンタリーを愉しむ JリーグとDAZNが追求する新たな映像

宇都宮徹壱

26人もの指揮官が去っていった今季のJリーグで

横浜FC『THE BLUE episode1 14試合目の初勝利』より。勝てない時期の苦闘が描かれている 【スポーツナビ】

 J1が10、J2が10、J3が6──。2021シーズン途中、監督を交代したクラブの数である。

 交代の理由は、もちろん成績不振だけではない。横浜F・マリノス(以下、横浜FM)のように、指揮官が欧州のクラブから引き抜かれるケースもあったが、これは例外中の例外。解任であれ、辞任であれ、ほとんどは成績不振が理由だ。例年に比べて監督交代が多いのは、今季のJ1とJ2の降格枠が最大4というレギュレーションが一番の要因であろう(ただし降格のないJ3でも、FC今治のように1シーズンで2回の監督交代となったケースもある)。

 かくして今季のJリーグは、実に26人もの指揮官が、シーズン途中でクラブを去ることとなった。たいていの場合、去り際は唐突であっけない。SNSで憶測が流れ、クラブの公式リリースで発表され、次の試合には新しい監督がベンチに座っている。前監督の言葉は公式サイトには掲載されるものの、クラブを去っていくときの様子はまったく知ることもなく、ファンやサポーターは気持ちを切り替えるほかなかった。

 しかし、今年はちょっと様子が違う。サッカーファンにはおなじみのDAZNで、監督交代の生々しい様子が流れたのである。舞台はJ1の横浜FC。開幕から0勝1分け7敗で勝利がないまま、4月8日にクラブは下平隆宏監督の解任を発表する。その日、集合した選手たちを前に、指揮官は「こういう結果だったので、申し訳ないと思います。(中略)まだ30試合残っているので、頑張ってください」と伝えて、そのまま去っていった。

 正直、驚いた。私自身、サッカーの現場取材はそれなりに長いが、解任された監督が最後のあいさつをする姿というものを(映像を含めて)見たこともなかったからだ。この映像を、ファンやサポーターはどう見たのか気になる。国内外のサッカー映画を紹介する、ヨコハマ・フットボール映画祭の実行委員長で、横浜FCの熱烈なファンでもある福島成人さんは、こんな感想を寄せてくれた。

「下平さんの解任は残念の一言でしたが、最後のミーティングでの表情に、重荷が解かれたかのようにすがすがしさが感じられたのは救いでした。サッカークラブの舞台裏に密着したドキュメンタリーといえば、アマゾンプライムで配信されている『All or nothing』 が有名ですよね。新しいファン層の開拓という狙いが見て取れますが、今回の作品はDAZNでの配信ということで、おそらくは既存のファン向けのサービスなんでしょう。いずれにせよ、シーズンオフの楽しみが増えるのは、ファンとしても楽しみです」

コロナ禍がドキュメンタリー企画を後押し?

DAZNシニアバイスプレジデントコンテンツの水野重理氏。前職のNHK時代は数々のドキュメンタリー作品を手掛けた 【宇都宮徹壱】

 DAZNで公開されていたのは『J.LEAGUE DOCUMENTARY SERIES(以下、Jドキュメンタリー)』。今年4月に第1弾としてガンバ大阪(以下、G大阪)、以降は10月に横浜FC、11月にジェフユナイテッド千葉と横浜FM、12月には清水エスパルスの作品が予定されている。

 このJドキュメンタリーは、Jクラブの企画・立案にJリーグが制作費、権利関係などを支援し、DAZNの協力のもと制作されている。なぜ今、Jクラブにスポットを当てたドキュメンタリーなのか。まずはDAZN側に取材してみた。対応してくれたのは、DAZNのシニアバイスプレジデントコンテンツの水野重理氏である。

「JリーグさんとDAZNの共通課題は、Jリーグへの関心をさらに持っていただき、ファン層を広げることでした。また、われわれがタッグを組めば、いろいろなことができるという認識でも一致していました。カメラがサッカーの現場に切り込んでいくことで、それまで知られていなかった若い選手や、さまざまなキャラクターを知っていただける。新たなヒーロやスター選手に脚光が当たれば、それはJリーグにとってもDAZNにとっても、とてもハッピーなことだと思います」

 もともとDAZNとJリーグとの間では「いずれドキュメンタリー番組を」という話はあったという。それが一気に具体化するきっかけとなったのが、意外にもコロナ禍による中断期間。当時のDAZNの状況について、水野氏はこう語る。

「コロナ禍以前、間違いなくDAZNはスポーツ中継のナンバーワンプラットフォームでした。中継以外では、たとえば読売ジャイアンツのドキュメンタリーとか、前例がなかったわけではないんです。ただし全体の予算配分としては、やはり試合のライブ中継のほうに重きが置かれていました。それがコロナ禍によって中継番組がなくなってしまったとき、アニメやエンタメ番組にも、実は需要があることが明らかになりました」

 冒頭に紹介した横浜FCのドキュメンタリーは『THE BLUE episode1 14試合目の初勝利』というタイトル。下平監督の解任シーン後、いかにチームが初勝利をつかむか、という内容となっている。その濃密な内容に圧倒される一方で、下平監督の最後のあいさつがどのように撮影されたのかについては、取材者のひとりとして気になるところ。なぜならこの時期、すべてのクラブが感染防止に神経を尖らせていたからだ。この件について水野氏に尋ねると、いささか意表を突く答えが返ってきた。

「あのシーンは、クラブの広報スタッフに撮影していただきました。最近はスマートフォンで撮った動画でも、画質のクオリティは問題ないですし、選手が自然に振る舞えるのも身内のスタッフならではだと思います。おかげで、これまで誰も見たことのない、リアリティのある映像を残すことができました」

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著者プロフィール

宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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