連載:22年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

妻や浦和スタッフの言葉で現役続行を決意 漢・槙野智章が新天地・神戸で目指すもの

飯尾篤史

彼を育てるのも僕の仕事

槙野が「自分に似ている」と語る菊池。魂と気合のこもったプレーで見る者を熱くさせるセンターバックだ 【(c)J.LEAGUE】

――ケルン、浦和レッズに続き3度目の移籍になります。当時とは心境は異なるものですか?

 いや、新しいチームに加入するのは、いくつになっても不安なものですよ。自分が行って本当に大丈夫かなって。でもね、その不安は1日で解消されました(笑)。

――さすがですね(笑)

 温かく迎え入れてくれましたから。加入前に神戸のフロントの方々とメッセージのやり取りを頻繁にしていて、受け入れ態勢を整えてくれたので、ありがたかったです。神戸の若い選手たちもウェルカムな状態で、僕をイジってくれますし、グイグイ来てくれるので、すごくやりやすい雰囲気です。

――若手と言えば、加入会見でも名前を挙げていた菊池流帆選手は、一緒にプレーしてみていかがでしょう? 若い頃の自分を見るようですか?

 たしかに、性格は似てるかもしれないですね(笑)。プレーも似てるし、苦手とする部分も似てる(苦笑)。だから、ふたりで支え合っていければ、面白いコンビになるんじゃないかと。彼がさらに殻を破るために、僕を踏み台にしてくれればいいし、僕に伝えられることがあれば、どんどんアドバイスを送っていくつもりです。ただ、僕にとって身近なライバルとも思っています。

――似ているがゆえに、ライバルになり得ると

 菊池選手は、お金を払って観に行きたい選手のひとりだと思うんですよね。DFとして足りない部分もありますけれど、潜在能力は代表レベルだと思うので、なんとか代表になってほしい。彼を育てるのも僕の仕事だと思っているし、彼に限らず、山川(哲史)選手、小林(友希)選手もすごくいい選手なので、自分も負けられないという気持ちでいっぱいですよ。

――アンドレス・イニエスタ、セルジ・サンペール、ボージャン・クルキッチといったスペインの一流選手たちとプレーしてみて、どんな感想を抱いていますか?

 本当に「うまい」のひと言ですよね。対戦したときより、一緒にやってみて、ポジティブな要素がたくさん見えました。学びたい、教えてほしいという気持ちはあるんですけれど、なんでそこが見えているのか、なんでそこにパスを出せるのか……どうやってそれができるのか分からないレベル(苦笑)。

 DFとしては、パスの逃げどころが3つもあるのは大きい。特にアンドレスはポジショニングやパスの精度も素晴らしいのに、ドリブルでも剥がせますからね。うまい、すごい、やばい……褒め言葉が見当たらないです(笑)。

――ワールドクラスの選手たちがいて、ロシア・ワールドカップに出場した日本代表選手が5人いて、未来の日本代表候補たちもいる。戦力は充実していますね

 ワクワクするでしょ? 本当に楽しみです。シーズンオフにも、いろいろな人から『今年の神戸は面白そうだね』って言われて、すごく嬉しかった。このクラブに決めて良かったと思うし、開幕が楽しみで仕方がない。『神戸、去年よりもさらに良くなっているね』と言われるような内容と結果を出していきたいと思っています。

いや、泣かない、泣かない

「若い選手たちに衰えた姿なんて見せたくない」と槙野。先頭に立ってチームを引っ張っていく覚悟だ 【(C)VISSEL KOBE】

――昨シーズン、浦和は神戸と4試合戦いましたが、神戸がそのたびにシステムを変えて、浦和のウイークを突いてきたのが印象的でした。実際のチームの印象、三浦淳寛監督の印象はいかがでしょう?

 選手の一人ひとりのクオリティが高くて、ひとりでいろいろなポジションをこなせるユーティリティ性のある選手が多いですね。今おっしゃられた通り、試合中にポジションやシステムを変えられるのが神戸の強みのひとつ。

 戦術的なことはあまり言えないですけれど、トレーニングも非常に濃いんです。練習中に出てきた課題や成果をすぐにフィードバックして僕らに落とし込んでくれる環境が整っているし、ダラダラやるのではなく、ひとコマ、ひとコマ、集中して進めていき、練習の強度もかなり高い。非常にいいトレーニングが積めていると感じています。

――今年35歳になりますが、もう35歳なのか、まだ35歳なのか

 どうですかね(笑)。ただ、神戸の若い選手たちから『小学生の頃、槙野くんのあのゴールを見ました』とか、北本久仁衛コーチから『槙野とは現役時代、バチバチやったよな』なんて言われたりすると、『俺も年を取ったな』って(笑)。ただ、若い選手たちに衰えた姿なんて見せたくないから、今も元気良く、若手の気持ちでやっています。誰にも負けないくらい声を出しているし、体も張っているし、走りのトレーニングでも先頭を切ってやらなきゃいけないなって、頑張っていますよ(笑)。

――以前、「現役の最後はFWをやりたい」と話していましたが、そうした気持ちは今もありますか?

 ここで「FWをやりたい」と答えたら、『槙野FW志願』って書くんでしょ(笑)。もちろん、点は取りたいですよ。でも、それはDFとしての仕事を全うしたうえでのこと。三浦監督からは守備面を高く評価してもらっていますので、まずはゴールを守る、失点数を減らすことに集中したいと思っています。セットプレーではもちろん狙っていきますけれどね。

――浦和もリーグ優勝、ACL優勝を目指しています。想像してみてください。ACL準決勝の舞台で浦和と対戦することを

 やりたいですねえ。アジアの舞台で対決したいですよ。痺れるでしょうね。

――埼スタに乗り込んだら、泣いてしまうのでは?

 いや、泣かない、泣かない(笑)。僕はもうヴィッセル神戸の選手だから。神戸のユニホームを着てピッチに立つ姿を、早くファン・サポーターに見せたいんですよ。

――同じ赤系だから、似合っていると思いました

 意外としっくりきてるでしょ? 練習着もそんなに違和感がないんですよ。ただ、14番はまだ自分でもしっくりきてないです(笑)。

――改めて今シーズン、どんなシーズンにしたいですか?

 僕がこのチームに来た意味を、もう一度しっかり理解しなきゃいけないと思っています。昨シーズン、神戸はクラブ史上最高の3位でしたけれど、それで満足していいクラブじゃない。リーグ優勝をするには、やらなきゃいけないことがたくさんある。ピッチ上で違いを見せないといけないし、先頭に立ってチームを引っ張っていく役割が僕にはあると思っていますので、チームメイト、ファン・サポーターを巻き込んで、神戸からサッカー界を盛り上げていきたいですね。

(企画構成:YOJI-GEN)

槙野智章(まきの・ともあき)

1987年5月11日生まれ。広島県出身。サンフレッチェ広島のアカデミーを経て2006年にトップチームに昇格。ミハイロ・ペトロヴィッチ監督(ミシャ)のもと攻撃的センターバックとして活躍し、10年12月から1年間、ドイツ1部の1FCケルンでプレーした。12年に浦和レッズに加入し、再びミシャのもとでプレー。16年ルヴァンカップ、17年ACL、18・21年天皇杯優勝に大きく貢献する。22年からはヴィッセル神戸のユニホームをまとう。日本代表として18年ロシアW杯にも出場している。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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