千葉ロッテ常勝軍団への道〜下剋上からの脱却〜

ロッテで明確化された理念とビジョン ブレのなき意識で進む「常勝軍団への道」

長谷川晶一
「千葉ロッテマリーンズ 理念」を発表し、それを基に策定されたチームの中長期的なビジョンやメッセージをまとめた「Team Voice」を表明した2021年のマリーンズ。1974年以来、47年ぶりのシーズン勝率1位での優勝に向けて、グラウンドでは日々激闘が繰り広げてられている。今回は、そのような中で届ける全4回の連載の最終回。マリーンズはどのような未来へと進んでいくのか?

新キャプテン・中村奨吾の決意

キャプテンを務める中村奨吾。今季、キャリアハイの成績を残すのは間違いないだろう 【写真は共同】

 熾烈な戦いが続くパ・リーグペナントレースにおいて、マリーンズナインは奮闘を続けている。その中心にいるのが、胸に「C」マークをつけた新キャプテン・中村奨吾だ。

「昨年11月末に監督室に呼ばれて、井口監督から指名していただきました。これまでも監督からは、“リーダーになれ”と言われ続けていたので驚きはありませんでした。今まで以上に周りを見ながら、自覚と責任感を持ってチームを引っ張りたいと思いました」

 井口資仁が監督に就任した2018(平成30)年から昨年までの3年間、中村はチームで唯一全試合に出場している。名実ともに、チームリーダーとしての素養を兼ね備えつつあった中村をキャプテンに指名したのが井口だった。改めて、その理由を尋ねる。

「僕が監督になったときには(鈴木)大地におんぶに抱っこのような状態でした。大地の負担もかなり大きかったので、“一人一人がしっかり自立してほしい”という思いで、キャプテン制を廃止しました。でも、この3年間それぞれがしっかりと自立できるようになってきた。そこで今年は、“ひと皮むけてほしい”という思いも込めて、中村奨吾をキャプテンに指名しました」

 昨年まではヘッドコーチを務め、今年からは二軍監督の鳥越裕介も口をそろえる。

「鈴木大地がマリーンズにいる頃から、奨吾には“キャプテンとは、リーダーとは?”という話はしていました。大地がいるときにはいるなりに、奨吾には別の役割があった。でも、大地がいなくなったことで、奨吾のやるべきことも増えてきた。当初は自分のことで精一杯だったと思いますよ。でも、3年もの間フル出場を果たして、自分なりの自信も出てきただろうし、周りも見えるようになってきた。今年の活躍を見る限りでは、キャプテンという役割を与えてよかったんだと思いますね」

 井口や鳥越が指摘するように、キャプテンとなった今季も、中村は全試合出場を続け、キャリアハイを更新する勢いでチームを牽引し続けている。キャプテンとなったことが、彼にとっていい刺激となっているのは間違いない。本人の言葉を聞こう。

「キャプテンマークがユニフォームに付いたけど、やるべきことは基本的に変わらないです。チームが苦しいときこそ、自分がしっかりやらなくちゃいけない。自分のことはもちろんだけど、年下の選手も多いので周りを見ながら、いろいろ気づけるようにしたいし、気づいたことはきちんと伝えたい。今季の成績については、自分の前後を打つ打者が好調なので、自分も引っ張られながらここまでやれているんだと思います」

 早稲田大学時代にもキャプテン経験はある。自らは「キャプテンシーがあるとは思わない」と語るが、安田尚憲、藤原恭大を筆頭に、藤岡裕大、菅野剛士ら年下選手たちの手本となっている中村は力強く答えた。

理念、TeamVoice、スローガンの効用

成長著しい藤原恭大。スローガンを体現するプレーで夏以降に成績を上げ、7-8月度の月間MVPを獲得した 【写真は共同】

 これまで見てきたように、河合克美オーナー代行兼球団社長や、監督である井口が中心となって、「常勝軍団となるため」の第一歩として、「理念」「Team Voice」「チームスローガン」を策定した。これらの施策について、現役プレイヤーである中村はどのように受け止めているのだろうか?

「理念にしても、Team Voiceにしても、進むべき方向を文字化してわかりやすく提示してもらえるのはチームにとってもいいことだと思います。一塁側ベンチの廊下にもスローガンが掲げてあって、球場入りするとき、グラウンドに入るときに何度も目に入るので、改めて言葉を胸に沁み込ませることができます」

 第3回で詳述したように、ZOZOマリンスタジアムの選手用通路には、いたるところに、今季のチームスローガンである「この1点を、つかみ取る。」が大書されている。ミーティングだけでなく、普段の生活から選手たちは何度も何度もこのフレーズを意識的に、あるいは無意識に頭に刷り込まれているのだ。中村は言う。

「このスローガンは、去年のシーズンの反省がそのまま生かされているメッセージだと思います。実際、自分がチャンスであと一本打っていたら点が入っていた場面も多かったので、苦しいときに一打を打てるように、今年は1点を意識しています」

 コロナ禍において、球団フロントと選手たちとの接触は極力少なくするように努めている。それでも、「理念」「Team Voice」「チームスローガン」によって、球団全体の考えにブレはない。その点は中村も、強く自覚しているという。

「特に“コミュニケーションを取らなければ”と意識することなく、常日頃から球団の考え方、方針は聞かせていただいています。目指すべき方向性が一本化されており、進むべき道がハッキリとしていて、我々選手たちもわかりやすく感じています」

 たかが理念、たかがスローガンではない。人間と人間が集まり、一つの目標に邁進する上で、言葉の力を侮ってはいけない。ユニフォームを着てグラウンドで日々汗を流す選手たちも、背広姿で経営の健全化、理想の球団運営を目指すフロント陣も、決してブレがなく、目指すべき方向性を共有していれば、それは必ず大きな力となる。それこそが、今季のマリーンズ躍進の大きな要因なのであることは間違いないのだ。

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著者プロフィール

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『生と性が交錯する街 新宿二丁目』(角川新書)、『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)ほか多数。

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