掲げた理念は「挑戦・熱狂・結束」 ロッテの現場・フロントに行動の迷いなし
選手たちが常に目にする「チームスローガン」
守護神として「1点」守り抜く益田直也。9月10日には史上17人目の通算150セーブを達成した 【写真は共同】
ZOZOマリンスタジアムの選手用通路で説明を続けるのは、マリーンズの広報・梶原紀章だ。梶原の指し示す先には、今季のマリーンズのチームスローガンである「この1点をつかみ取る。」の文字が大きく踊っている。このスローガンの作成に携わったのが、井口資仁監督であり、河合克美オーナー代行兼球団社長である。
「昨年、優勝するためには“この1点”というところが、とても目立ったシーズンだったと思います。《1点》というのは口でいうのは簡単だけど、決してただの《1点》ではなく、常に意識していないといけないとても重要なものだと考えました」(井口)
「昨年のソフトバンクの平均失点が3.24で、平均得点が4.43でした。対するマリーンズは平均失点が3.99で、平均得点が3.84です。平均の数字で比較すれば、それぞれ1点の差もないんです。犠牲フライの数もソフトバンクは圧倒的にマリーンズよりも多い。こういうことが、細かいデータを比較することで見えてきたんです」(河合)
どの球団でも、毎年それぞれのチームスローガンが作られる。しかし、今年のマリーンズのスローガンは、単なる「お題目」ではない。考えに考え抜かれた、中長期的なビジョンの下に策定されたスローガンなのである。全社的なプロジェクトの結果、社員たちの間から出てきたのが、「挑戦・熱狂・結束」という言葉だった。確かに、現状のマリーンズを象徴する言葉である。しかし、「このままではまだ十分ではない」と異議を唱えたのが河合だった。
「この三つの言葉は、確かにマリーンズにふさわしい言葉だと思います。でも、まだマリーンズのことを知らない人の視点で言えば、決して《マリーンズならではの言葉》ではありません。他のチームにも、他のスポーツにも当てはまる言葉だと思ったんです」
その結果、ここからさらなるブラッシュアップが図られることになる。こうして、「マリーンズが勝つための三カ条」として、「勝利への挑戦」「勝利の熱狂」「勝利の結束」が定められた。さらに、使命、行動指針、そして、2025年に向けて「Vision 2025」を策定する。こうして完成したのが「千葉ロッテマリーンズ理念」だ。
さらに、この理念を基に、球界としては初の試みとなる「中長期的メッセージ」である「Team Voice」を策定するのである。
中長期的ビジョン「TeamVoice」
従来のような単年ごとのスローガンではなく、チームとして目指すべき方向性を明確に打ち出し、さらにそれをファンとも共有することで、より確固たるものとしていく。「Team Voice」の文言を読むと、21年のチームスローガンが「この1点を、つかみ取る。」となったのもよく理解できる。
こうして、2021(令和3)年1月30日に「Team Voice」が、翌31日に「チームスローガン」が相次いで発表され、3月8日に満を持して「千葉ロッテマリーンズ理念」が披露されたのである。チーム力強化を図り、「令和の常勝軍団」を目指すべく積極的にFA戦線に参入し、意欲的なドラフト戦略を採り、シーズン中のトレードを次々と敢行。優勝を目指すための貪欲な補強を続けている。
一方、グラウンド外でも自らの足元を見つめ直し、新たな顧客を創出すべく積極的な施策を次々と打ち出している。理念が策定されてから半年が経過した。チームは激しい優勝争いを続けている。マーケティング戦略本部長である高坂俊介が、ここまでの成果を総括する。
「もちろん手応えはあります。ただ、“まだスタートラインに立ち、始まったばかりだ”という感覚も非常に大きいです。チームは優勝争いを続けていますが、事業サイドでは胸を張って、“これが達成できました”というフェーズにはありません。ただ、事業担当者と話をしていても、自分たちの目指すものが何なのかが明確になったのは間違いありません。数々の取り組みにおいて、迷いが消えつつあるのは事実です」
球団公式ホームページや各種SNS、球場内で流れるビジョン映像や各種ポスター、球団グッズの数々。あるいは球団職員の名刺、社内会議用のプレゼン資料にいたるまで、「すべての制作物の世界観が統一されている」と高坂は言う。
「現在、マリーンズに関する、あらゆるものの世界観が統一されています。これは私が担当するマーケティング戦略本部だけの話ではなく、各事業担当レベルにまで浸透しています。理念やTeam Voiceなど、各部門にも浸透、理解、実行がなされつつあるのかなという気がします」