千葉ロッテ常勝軍団への道〜下剋上からの脱却〜

「理念を掲げよ」〜一枚岩を目指すために ロッテで動き出したシンプル&重要な施策

長谷川晶一
「千葉ロッテマリーンズ 理念」を発表し、それを基に策定されたチームの中長期的なビジョンやメッセージをまとめた「Team Voice」を表明した2021年のマリーンズ。1974年以来、47年ぶりのシーズン勝率1位での優勝に向けて、グラウンドでは日々激闘が繰り広げてられている。そのような中で届ける全4回の連載の第2回は、球団理念を掲げるまでのプロセスを描く。

球団全体で「自分事としての指針」を模索する

河合氏は冷静にマリーンズを見つめ、ビジョンの明確化を打ち出していった 【写真:長谷川拓司】

 ロッテ本社時代に自社製品の海外進出に関わっていた河合克美には確信があった。たとえば、東南アジアに進出する際に、「どこに何を売るのか?」を考えることはとても重要だった。「東南アジア」と言っても、カンボジア、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナム……。さまざまな国があり、それぞれに気候も嗜好も異なる。河合は言う。

「東南アジアと言っても、当然、国ごとにその特徴は全然異なります。私たちは今まで満遍なく、すべての商品でアプローチしていました。でも私たちにはガム、チョコレート、ビスケットなど、さまざまな商品カテゴリーがあります。どの国にはどのカテゴリーがいいのか、どこに投資すべきなのか。例えば生産国ごとに、ベトナムならキシリトール、インドネシアならチョコパイ、タイならコアラのマーチといったように、《選択と集中》を徹底し、結果的にベトナムとインドネシアではカテゴリーでNo.1になることができました。そして、それはお菓子の事業も、野球の事業も変わらないと考えたんです」

 その際に重要な役割を果たしたのが「明確なビジョンや方向性を打ち出すこと」だった。オーナー代行となり、球団社長も兼務したことで、河合は「マリーンズの強みと弱み」を徹底的に洗い出した。その結果、どこに勝機があるのか? 何を打ち出せばいいのか? そんなことが少しずつ見え始めていた。マリーンズという球団をさらに成長、発展させるためには全員一丸となって、目標に邁進する必要があった。その際に必要なのが「ビジョンや方向性」だったのだ。

「私が球団社長となったとき、球団の明快な方向性や方針は定まっていませんでした。若い社員たちが増えている中で、大きな方向性が見えないことは決していいことではないと思いましたが、進むべき道を“この方向性だ!”と、私が押し付けるのもよくないとも考えました。2020(令和2)年にはマーケティング戦略本部を立ち上げ、球団の方向性を定めるためのプロジェクトも発足させました。部署の枠を取っ払って希望者を募ると、全社員の半分が手を挙げてくれたんです」

 このとき発足したマーケティング戦略本部の本部長となったのが、第一回に登場した高坂俊介だった。目指すべき指針を作っても、社員一人一人が、それを「自分事」としてとらえなければ意味はない。「他人事」のお題目では、誰も心を揺さぶられない。だからこそ、全社横断的なプロジェクトを立ち上げ、「自分事としての指針」を作り上げることに腐心したのである。「まずは理念を掲げよ」、そこからのスタートだった――。

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著者プロフィール

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『生と性が交錯する街 新宿二丁目』(角川新書)、『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)ほか多数。

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