連載:プロ野球・最強助っ人白書2021

クリープハイプ・尾崎世界観 特別寄稿「愛してやまない助っ人外国人選手たち」

尾崎世界観
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ロックバンド「クリープハイプ」のフロントマンを務めながら、小説家としても近著「母影」が第164回芥川賞候補に選ばれるなど活躍が目覚ましい尾崎世界観さんに、大好きなプロ野球の外国人選手について“愛”を綴ってもらった 【写真提供:プリミティブ】

 プロ野球開幕を間近に控えた3月、それなのに、新型コロナウイルスの影響でまだ来日の見通しが立っていない助っ人外国人選手も多い。この先どうにか来日できても、2週間の隔離期間は選手自身の調整に大きく影響を及ぼすはずだ。こんな事になるなんて、数年前までは想像もしていなかったし、今となってはキャンプ前に毎年空港で繰り広げられていたアレがとても恋しい。日の丸の鉢巻きを巻いた助っ人外国人選手が陽気なポーズとともにカタコトの日本語で挨拶をすれば、それがニュースになる。パスポートを盗まれて入国できなかったり保安検査場でカバンから実弾が発見されたり、どれも良いものばかりとは限らないけれど、助っ人外国人選手来日のニュースが少ないのはやっぱり寂しい。子供の頃はカタカナ表記の珍しい名前や、ひと回り大きなその見た目で、まるで特殊能力を持ったヒーローのように思っていた助っ人外国人選手。だから打てて当たり前、抑えて当たり前だったし、打てなかったり打たれたりすると余計にガッカリした。

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 それが大人になるにつれ、助っ人外国人選手は、異国の地で常にプレッシャーと隣り合わせの孤独な存在になった。だからベンチでチームメートと談笑している場面を見ると安心するし、円陣を組む際、輪の中から外れて1人ポツンと立っていたりすると心配してしまう。インタビューではくり返し「好きな日本食は?」と聞かれ、健気に「スシ、ソバ、テンプラ」などと答える。そうやって日本側はいつも好きになる事ばかり求めるくせに、結果を出せなければちゃんと手厳しい。好きにさせるだけさせておいて、もう潮時だと思えばさっさと別の相手に乗り換えてしまう。クジだとかガチャだとか言われながら、自分の人生を勝手にアタリハズレで語られてしまう助っ人外国人選手が気になって、つい母親目線でスポナビの速報を確認してしまう。

「ちゃんとご飯食べてる?」は「ちゃんとヒット打ってる?」だし、「たまには帰ってきなさいよ(実家に)」は「たまには帰ってきなさいよ(ホームに)」だ。

ヤクルトのハウエルはヒーローだった

尾崎さんが最初に心を奪われた助っ人外国人は、ヤクルト時代のハウエル(右)だった 【写真は共同】

 ヤクルトスワローズファンの自分が物心ついた時に初めて意識した助っ人外国人選手は、ジャック・ハウエルだった。凄まじい形相でピッチャーを見ながら、振れば何かを起こす。ハウエルはまさしくヒーローだった。そんなヒーローの前に、1992年の日本シリーズで強敵が立ちはだかった。西武ライオンズのオレステス・デストラーデだ。まだスイッチヒッターを知らなかったあの頃、右でも左でも打つなんて卑怯だと唾を飛ばして憤った。どんな敵もなぎ倒してきたハウエルが、デストラーデの前ではまるで歯が立たない。その時はじめてハウエルが小さく見えて、今まで知らなかった世界の向こう側、パ・リーグの恐ろしさを思い知った。
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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。ロックバンド「クリープハイプ」のボーカルとギターを務める。2012年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。14年、18年に日本武道館公演を行う。最新シングル「モノマネ」を20年10月に配信限定でリリース。大の野球好きとしても知られ、ポッドキャストオリジナル番組「クリープハイプ尾崎世界観の野球100% powered by ニッポン放送ショウアップナイター」を配信中。主な著書に『祐介・字慰』『苦汁100%濃縮還元』(ともに文春文庫)『泣きたくなるほど嬉しい日々に』(KADOKAWA)など。近著『母影』が第164回芥川賞候補作品に選出された。

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