八村塁の思い、そして高校生に伝えたい事 「バスケをやれることに感謝している」

丹羽政善

ワシントン・ウィザーズのキャンプインを前に、リモート取材で高校生へメッセージをくれた八村塁 【Getty Images】

 水泳でインターハイ(全国高校総体)出場を目指していた高校3年生の甥は、4月終わりに中止が決まると、しばらくふさぎ込んでしまった。もちろん、言葉を失ったのは彼一人だけではない。全国でいったいどれだけの高校生アスリートが相次ぐ大会中止の決定を受け、膝から崩れ落ちたか。

 高校野球の世界では春の選抜大会中止が伝えられると、出場を決めていた学校の選手らは、人目をはばからずテレビカメラの前で涙し、それを袖でぬぐった。「まだ、夏がある」。そんな声もあったが、その夏の大会もやがて中止となった。「仕方がない」という言葉では、慰めにもならない。3年生にとってはその機会が、二度と訪れることはない。

 バスケットでもインターハイが中止となったが、それでも一部の高校生は救われたのではないか。12月23日から、高校生にとっては最大の目標であるウインターカップ(全国高等学校バスケットボール選手権大会)が、開催されるからだ。

八村の語る「感謝」という言葉の意味

 出場する選手は、他の高校生アスリートの思いも背負ってコートに立つことになるのかもしれないが、それ以上に大切なことがある。くしくも、日本時間ではウインターカップが開幕する23日(米国時間22日)に、NBA(米プロバスケットボール)も通常より約2カ月遅れでシーズンが始まるが、先日、キャンプインを前にリモート取材に応じた八村塁(ウィザーズ)が、こんなことを言った。

「僕はまず、こういう深刻な状況の中で、バスケをやれるということに感謝している」

 ウインターカップを前にした高校生を意識しつつ、こういう時だからこそ自分に言い聞かせていること、あるいは言い聞かせてきたことはあるか? と尋ねたことに対する答えだが、当たり前ではないからこそ、なぜ今、コートに立てるのか。なぜ、バスケットができるのか、そのことを改めて考えてほしいーーそんな思いがにじんだ。

「そこが僕としては一番大きいと思う」

  感謝という真っすぐな言葉に込められた意味も、軽くない。多くの人の尽力で、ここまで来た。

 もちろん、開催が決まっているとはいえ、例年のウインターカップとは様相が異なるだろう。大会前半は無観客。男子は準々決勝から、女子は準決勝から有観客となる。そもそもここへ至る過程も、これまでとはまるで異なったはずである。さまざまな制約のなかで、十分な準備・練習ができなかった、というケースも少なくなかったのではないか。その中でどうベストを尽くすかだが、そうした姿勢が問われるのは決して、今大会に限った話ではない。現在進行形であり、むしろ、これからの未来だ。

 八村もこう言っている。

「限られることはあると思うんですけど、自分で何かしら見つけて、そこでやれるかということが一番、これからの自分にとってカギになっていくと思う」

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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