高校野球から“解放”された選手たち 合同練習会を発展させ、来年以降も…

中島大輔

刺激や経験が、今後の糧に

6日のシート打撃で伸びのあるストレートを投げ込んだ浦和実業の豆田泰志。集まったNPBスカウト75人の前でアピールに成功した 【写真は共同】

 報道によると、今回の合同練習会は来年以降も継続することが検討されている模様だ。未曽有のパンデミックによって行われたイベントが、年をまたいで続くのは望ましい。プロを目指す高校生たちが集まる合同練習会には、アピール以上の意義があったからだ。

 シート打撃で5人の打者を無安打、3奪三振に抑えた狛江の左腕投手、武内風希はこう話している。

「結果どうこうよりも“自分の球で打者と勝負する”ことができました。自分より実力が上の選手ばかりでしたが、逃げずに向かって行けましたし、スカウトにも自分をしっかり見せることができたと思います」

 チームの勝利が最優先される普段の高校野球から“解放”され、選手たちはいい意味で“自分本位”でプレーした。野球が団体スポーツである以上、もちろんチームの勝利は何より優先されるべきだ。一方、とりわけプロや大学を目指す選手たちにとって高校野球はキャリアの途上であり、自身のアピールを最優先する機会も不可欠だ。

 加えて言えば、高い志を持つ者たちが切磋琢磨(せっさたくま)することで、普段以上の力が発揮される。足立学園の右腕投手、坂田光優はこう語った。

「周りはすごい選手ばかりで圧倒されましたが、良い刺激もたくさんもらいました。それがエネルギーになって、ストレートで押す投球にもつながりました。進学も考えているので、練習も勉強も継続して取り組んでドラフト当日を迎えたいと思います」

 指名を受けてプロに進むにしろ、大学を経由して夢の舞台を目指すにしろ、今回の刺激や経験、自信は今後の糧になっていくはずだ。

今回の合同練習会を発展させるには?

シートノックでは、井端弘和氏がノッカーを務め、参加者の練習をサポートした 【写真は共同】

 今回、新型コロナウイルスという未曽有の出来事の中で、柔軟に対応したNPBと日本高野連は非常に評価できる。東西の会場に参加した118人の高校生たちは、従来の“高校野球”という枠組みを外れ、新たな環境に置かれたことで多くを得た。そうして手にしたプラス要素をもっと増やしていくべく、今回の合同練習会をより発展させていってはどうだろうか。

 例えば各都道府県で行われる秋季大会の後、今回のような合同練習会を開催する。普段は交わらない選手たちと一緒にプレーすることで、いつもと異なる刺激を得ながら、トッププレーヤーと自身の差を実感して努力の糧にする。

 そして翌年の夏季大会終了後、再び開催された合同練習会の場で、成長した自身をアピールする。プロのスカウトたちにとって、伸びしろを確認できる場所になるだろう。例年の高校野球のスケジュールに複数回の合同練習会をうまく挟み込み、選手たちに異なる刺激を注入し、自身の成長につなげさせていくのだ。

 シート打撃でショートへの内野安打を放った影田圭拓(明星学園)は、今回の成果についてこう話した。

「レベルの高い選手たちと一緒に野球をすることができ、とてもいい刺激になりました。この練習会では積極的にプレーすることを心掛けていて、それは達成できました。夢はプロ野球で盗塁王を獲得することなので、今日盗塁を一つ決めることができて自信につながりました」

 チームのためではなく、自分自身のために、重圧から解放されてプレーする――。

 100年以上続く高校野球には、長らく続く価値がある。一方、既存の枠組みを離れることで、新たに得られる刺激や視点がある。

 今回参加した高校生たちのコメントには、高校野球がさらに発展していく上で、多くのヒントが隠されている。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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