- エルゴラッソ
- 2020年7月31日(金) 14:25
浦和・鈴木大輔が発した思い

J1第7節、横浜FC対浦和レッズの試合が行われた翌々日、浦和の鈴木大輔が「今はミックスゾーンの取材対応ができないので……」と、自身のSNSで思いをつづっていた。
この試合で久々のスタメンを勝ち取った鈴木は好プレーを見せ、チームは連敗ストップ。開幕戦以来、実に5カ月ぶりの試合出場だった。言葉に尽くせないほど語りたいことがあったはずだが、試合後のウェブ会議ツール「Zoom」での会見に現れたのは決勝点を挙げたレオナルドと、同じく開幕戦以来の出場となった槙野智章。
再開後のプロトコルでは、試合後の取材は監督・選手ともにすべてZoom会見で行われる。選手は両チーム2名ずつ。どの選手になるかはチーム側が選定するが、従来の代表質問のように、地元メディアが相談して決める場合もあるだろう。
自然と、得点などダイレクトに貢献した選手などがピックアップされ、隠れた貢献があった選手などのコメントを取ることができない。
この試合の浦和は、今季出場機会に恵まれていなかった槙野、鈴木、柏木陽介らベテラン勢を起用。彼らの活躍により連敗を止めることができたと言っても過言ではない内容で、元来の「ミックスゾーン取材」であれば、槙野だけでなく鈴木や柏木にも報道陣がコメントを取りに群がり、彼らもそこで思いの丈を打ち明けたはずだ。
ただ今はそれができない。だからこそ槙野も「今日の試合にかける思いも僕だけじゃなくて、鈴木選手と柏木選手と、なかなかチャンスをもらえない選手たちと、何をしなくてはいけないのかというところを考えてプレーしました」と、気持ちを汲(く)むコメントをしたのだろう。
選手にとっては良い面も…
選手ファーストという意味では、必ずしも悪いことばかりではない。これまでの規定であれば、選手はスタジアムをあとにするまでに、必ず「ミックスゾーン」と呼ばれる通路を通らねばならず、そこで記者たちはコメントを取りたい選手を呼び止めて取材をする。選手は疲れた体で立ちっぱなしの応対を強いられ、やっと話し終えたかと思えば別の記者に呼び止められる。指定の2名が一定時間対応するだけで済むことは、選手の負担という意味では良い状況だろう。
ただメディアからすれば、すべてのコメントが「代表会見」として公然と共有されてしまい、せっかく独自視点の質問でコメントを引き出しても、瞬く間に各社記事でドヤ顔で使われてしまうという悲しさが積もり続ける。個別に話を聞くのが難しい状況なので、「あの選手があの試合のあの場面で考えていたこと」を聞き出してお届けすることも困難だ。
より効率的で、情報発信できる方法の模索
無観客での再開から制限入場へと、次のステップに移ったJリーグ。スタジアムの滞在時間は拡大され、取材できる記者の人数も一段階緩和された。ただ新型コロナウイルスに収束の兆しは見えず、さらに次のステップへの進行は当面の間、望めそうにない。
このような状況が続く中、情報発信の二極化が一層進んでいるように思える。自粛期間中から見られた傾向だが、発信が得意な選手やチャレンジしようとする選手はYouTubeやSNSなど、自らの媒体を持ち積極的な発信を行うようになっている。
一方でそういったことが得意でない選手も多く、試合後や練習後にコメントを取ることが難しい状況が続けば、積極的ではないが「聞けば味が出る」選手は埋もれていってしまうかもしれない。Twitterをやっている選手は多いが、有効活用できていると言える選手は少ない。そういった選手の魅力は「聞き手」が手助けして引き出しにいく必要がある。
また、オープンな取材が難しい状況が続く中、動画配信などクラブ公式による発信も強化されつつある。これはファンからすればまさに一次ソースであり、メディアによる変な切り取りもなく、安心して楽しめるコンテンツだ。ただそればかりになってしまうと、ややもすればどんどん内輪向けに進んでしまう可能性もあり、バランス感覚が難しい。
コロナ禍にあって、今はリーグもクラブも選手もメディアも、どうやって発信をするか、どう取材をすべきか、どう取材をしてもらうべきか、お互いに苦労している。再開直後は時間も限られた中でのZoom会見ということで、代表質問的な当たり障りのないやりとりで終始している印象があった。ただ人間は考える葦(あし)である。慣れてくれば考えてくるもので、徐々に質問数を増やしたり、突っ込んだやり取りも増えてきている。限定された状況に対応することで、新しく効率的で、より情報を発信できる方法も編み出されてくるだろう。それを模索していくことが、リーグ・クラブ・メディアそれぞれのファンに対する責務でもあると思う。