J入場制限下の“応援”はどうあるべきか 次のステージに進むため今は“我慢”の時

エルゴラッソ

7月12日に行われた浦和対鹿島の一戦で起こった出来事が物議を醸した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 新型コロナウイルスの感染状況拡大を受け、8月1日から実施される予定だったJリーグの観客入場制限の緩和は延期された。今後、事態の推移によっては、再びスタジアムに通えなくなる日々が訪れるかもしれない。

那須さん「クラブや選手は喜ばない」

 そんな中、リーグ再開後、最初の有観客試合となった明治安田生命J1リーグ第4節。浦和対鹿島の一戦で起こった出来事について、那須太亮さんが自身のYouTubeで一部の浦和サポーターの行為に対し厳しい口調で苦言を呈した。
 またJリーグ公式チャンネルでも同様の話題に触れ、原副理事長は浦和のみならず、サッカーファミリー全体のためにも自制を促した。
 そして先日の第6節・浦和対柏との一戦で埼玉スタジアム2020は再び観客を迎え入れた。リーグ再開からのホーム3戦を通して、スタジアムで何が起きていたのか。

7月5日 横浜FM戦

 まずは無観客での再開初戦となった横浜FM戦について。この試合でスタジアムへ詰めかけたサポーターは筆者が見る限り確認されなかったし、周囲からもそういった話は聞かれなかった。

 ただ、最寄り駅である浦和美園駅へ向かうバスに乗っている際、沿道でタオルマフラーや旗などを用意した人たちを見かけた。スタジアムへ向かう選手バスを激励するためだったろう。間隔は十分取られており、視界に入ったのは全部で10数名程度。これは社会的に許された範囲での熱意と工夫だった。

7月12日 鹿島戦

スタジアムにはそれぞれのクラブがサポーターに向けコロナ禍の状況での応援様式を伝えている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 試合前から、スタンドにはJリーグから示されたガイドラインとは違った雰囲気があった。南ゴール裏にて、トラメガで「頑張って応援しましょう」というような声掛けをして回る人たちがいたり、GKのウオーミングアップが開始されると、北ゴール裏では最前列へ駆け寄り選手を激励する姿も多数見受けられた。ずっと待っていた試合観戦、応援したい気持ちが抑えられないのは気持ちは当然理解できる。ただ今は我慢すべき行為ではないかと感じた。

 そして選手入場。「first impression(入場曲)」がスタジアムに鳴り響き、選手と審判団が整列する。曲が終わってもなお、大拍手が鳴りやまない。およそ1分間は続いていただろうか、やはり観客あってこそのスポーツだと、試合前なのに少しだけ涙ぐんでしまった。

 ただいざキックオフを迎えると、「これはまずいのでは」という感情が湧きあがってきた。何が起こっていたかご存じの方も多いだろう。太鼓の代わりに座席をたたき鳴らす行為や、指笛にブーイング……。「浦和レッズ!」コールが響き、試合後には勝利の唄である「We are Diamonds」も合唱された。一部のサポーターの、チームのため、選手のため、良かれと思っての行為だったのかもしれないが、那須さんも指摘していた通り、クラブ・選手も決して喜ぶ行為ではなかったのだと思う。

7月22日 柏戦

22日の柏戦では改善も見られ多くのサポーターが拍手によって選手たちへ思いを伝えた 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 先日のゲーム後、方々で物議を醸しながら、再びホームゲームがやってきた。今回は選手が登場しても前列に殺到するようなことはなく、過度に集まって会話している様子も見受けられない。

 結論から言うと、大きな問題は起きなかった。ただ少しだけ、会場の空気に不和があった。北ゴール裏のごく一部のサポーターにより「手拍子でチャントを奏でる」行為が試合終盤まで行われていた。そしてそれを欠き消そうとするがごとく、他の4,000人超のサポーターからその都度大拍手が巻き起こるという、サポーター同士の攻防が繰り広げられていた。

コロナ禍の状況下で求められるものとは

 応援のあり方ついてはここでは問わない。会場の空気が必ずしも一体であるべきだとも思わないし、統制された応援も、自然発生する応援もそれぞれ素晴らしいものだと思う。現行のプロトコルによる応援制限に「こんなものは応援じゃない」と考えてしまったとしても理解はできるし、Jリーグとしても模索しながらのプロトコルではある。

 ただいま考えたいのは、一部のサポーターによりその場の欲求を満たすための行為が、自分たちや周囲だけでなく愛するクラブに、ひいてはサッカー界、スポーツ界全体まで被害を与える可能性があるということだ。これは12日に浦和で起きたことだけが問題ではないと思う。現にプロ野球の試合でもファンによるスタンドからの“ヤジ”が物議を醸したように、今後応援に関する自粛が強いられる状況が続いた時にその他のクラブで起こることもゼロではないかもしれない。

 「無観客どころかサッカーができなかった数カ月前を思い出してほしい。」と那須さんが動画で伝えていた。この言葉を改めて思い返し、無観客試合から5,000人の有観客まで進むことができたことをプラスに思い、そしてさらに元の観客動員まで戻るために、今は全員が“我慢”をしながら、今できる最善の応援をしていくことが求められる。
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著者プロフィール

サッカー新聞エル・ゴラッソ。通称エルゴラ。国内外の最新サッカーニュースを日本代表の番記者、J1・J2全40クラブの番記者、海外在住記者が、独自の現地取材をもとに、いち早くお届けします。首都圏の駅売店およびコンビニエンスストア・関西地域の主要駅売店にて発売中。

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