MLB、7月開幕に大きく前進? 選手とオーナーの“銭闘”はまもなく決着か

杉浦大介

コミッショナーと選手会が直接会談

マックス・シャーザー「ロブ・マンフレッドとオーナーたちは勝手に前言を翻している」 【Getty Images】

「私の要請で、トニー・クラーク(選手会の専務理事)とアリゾナ州フェニックスで数時間にわたる話し合いを行った。(開幕案の)枠組みを確立させることができ、その枠組みを何度も要約したものを本日、選手会に提出した。各球団が合意できると感じているし、トニーも同様だと信じている」

 6月17日、MLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーが発表したそんな声明文は、ファンに期待を持たせるには十分であった。こんな前向きなコメントはいつ以来か。まだ合意したわけでなく、越えなければいけないハードルは多いとしても、これまでの泥沼交渉と比べればはるかにポジティブに感じられる。

 実際にこの日のコミッショナーと選手会の話し合いは生産的なものだった様子。MLBが提示した開幕後の具体的なプランも明るみに出てきている。

・70日間で60試合を開催
・開幕は7月19日か20日
・年俸は日割りで全額を保証
・2020、21年はプレーオフ進出チーム枠が拡大(各リーグ8チームずつ)
 ここでのポイントは、交渉の最大のネックとなっていた年俸の面で、リーグ側が選手に日割り100%を払うことを認めたことだ。新型コロナウイルスのパンデミック下では無観客試合を余儀なくされるため、収入減を恐れたオーナー側は「興行収入の折半」「日割り年俸の70%」といった代替案を提示。一方、選手側は試合数に比例した年俸を徹底して主張し、話し合いは決裂していた。ここでようやく歩み寄りが見られたことで、今後は急展開もありえるのかもしれない。

 こうしてやっとポジティブな地点にたどり着くまで、MLBと選手会の話し合いは極めて難航した。争点は新型コロナウイルスの中でプレーするための安全対策ではなく、前述通り、お金。もちろんMLBはビジネスなのだから、互いに利益を主張しあうこと自体は理解できる。オーナー側がパンデミック下で赤字を増やしたくないことも、健康を危険にさらす選手が大幅減俸を飲みたくないことも、それぞれ当然ではある。

 ただ、たとえそうだとしても、5月上旬には再開案が出されながら、以降、延々と責任のなすりつけ合いを繰り広げたのはいただけなかった。両者のメディアを通じたやりとりは皮肉と批判に満ちており、周囲をうんざりとさせるもの。特に強硬姿勢が目立ち、一部は今季のキャンセルを望んでいるとされたオーナーサイドへの批判は日に日に大きくなっていった。それと同時に、オーナー、選手会の両方と意思の疎通が図れていないように見えたマンフレッド・コミッショナーへの風当たりも強くなる一方。その反発は、15日、ESPNの番組に出演したコミッショナーが「(今季開催は)自信がない。残念ながら100%実現するとはいえない」と答えたことでピークに達した。

シャーザー「いつ、どこで試合をやるのか言ってくれ」

 実はマンフレッド・コミッショナーは10日、「今季は100%開催される」と語り、交渉成立に自信を見せていた。ところが、歩み寄りをみせないオーナー側に業を煮やした選手会が「これ以上の話し合いは無駄。いつ、どこで開幕するかを私たちに教えてくれ」と交渉打ち切りを宣言すると、コミッショナーはあっさりと前言撤回。この不安定さに選手たちもSNS上で不満を爆発させたのだった。

マックス・シャーザー(ナショナルズ)「ロブ・マンフレッドとオーナーたちは勝手に前言を翻している。ファンにこんな仕打ちはふさわしくない。もう1度言おう。いつ、どこで試合をやるのか言ってくれ」

フランシスコ・リンドア(インディアンス)「世界中のファンは僕たちのプレーを見る準備ができている。コーチはコーチする準備ができているし、選手はプレーの準備ができている。僕もプレーの準備はできている。時間と場所を決めてくれればみんな集まるんだ。プレイボールしようぜ!」

トレバー・バウアー(レッズ)「ロブ、シーズン開催を100%確信しているのと同時に、自信がないとする理由を説明してほしい。いったい何が変わったんだ? 選手たちはシーズンを始めたいと言っているが、今は早過ぎるのか?」

 こうして選手、ファンの失望が沸騰した頃、やっとコミッショナーが選手会との直接会談に動いたのは冒頭で述べた通りだ。この話し合いをなぜもっと早く実現させなかったかに疑問は残るが、ともあれここでトップ同士が3月以来久々に顔を合わせ、報酬面で歩み寄ったのは大きなプラス材料に違いない。

 6月11日のMLBの提案(年俸は日割りの70%で72試合)では選手は今季年俸の31%を受け取るはずだったが、今回のプランではそれが37%までアップ。今後、さらに継続した話し合いの中で、オーナー側が年俸の日割り全額を崩さない限り、遠からず合意に向かうことも不可能ではないだろう。

 もちろんここまでこじれにこじれたのだから、依然として楽観はしきれないという声もある。トップの2人が枠組みで合意したとしても、最終的には各チームのオーナー、代表が一枚岩になる必要がある。選手会がさらなる試合数の増加をもくろみ、MLBがそれを拒むか、再び給料のカットを持ち出すようなことがあれば、また泥沼にはまり込むこともありえるのかもしれない。

 これらの懸念をクリアし、メジャーリーグは今夏、全米に球音を響かせることができるのか。これからしばらくが正念場だろう。コロナウイルスと人種差別問題で大揺れに揺れるアメリカで、ミリオネア(選手)とビリオネア(オーナー)の“銭闘”はまもなく大詰めを迎えようとしている。
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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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