連載:コロナで変わる野球界の未来

突きつけられる「ウィズコロナ」の現実 野球界はいかにアップデートできるか

中島大輔

夢が膨らむ大記録、新ヒーローの誕生

6月に入って行われた練習試合で、6本の本塁打を記録した柳田。「トリプルスリー&三冠王」という球史に残る記録も期待が膨らむ 【写真は共同】

 グラウンド面に目を移すと、開幕から週6日の試合と移動という過密日程が続く。例年以上に「選手層」と「監督の手腕」がペナントレースの行方を左右するだろう。

 前代未聞の事態で社会全体が暗い雰囲気に包まれるなか、プロ野球選手には夢の記録や偉業達成、新ヒーローの出現が期待される。
 143試合から120試合制に短縮されたことで夢が膨らむのは、史上初の4割打者の誕生だ。近藤健介(北海道日本ハム)は前半戦を終えて腰部椎間板ヘルニアで離脱した2017年、57試合で打率.413を記録している。現役最高の安打製造機が好調を長期間維持したら、どんな数字が残るだろうか。

 鈴木誠也(広島)と山田哲人(東京ヤクルト)、柳田悠岐(福岡ソフトバンク)は打率3割、30本塁打、30盗塁のトリプルスリーと三冠王を同時に達成すれば、球史で語り継がれるスーパースターになるはずだ。

 山川穂高(西武)は史上9人目の3年連続40本塁打以上を狙う。村上宗隆(ヤクルト)、岡本和真(巨人)、清宮幸太郎(日本ハム)という若き大砲にも球界を盛り上げるパフォーマンスを見せてほしい。

動き始めた高校野球の改革

史上初、春夏ともに中止となった高校野球。今後、高校生たちに、大人はどう新たな価値を提示できるか。真価が問われている 【写真は共同】

 新たな価値の創造が期待されるのは、プロ野球だけではない。

 新型コロナウイルスの影響により、高校野球では春夏ともに甲子園大会が中止になった。センバツの代替試合として「2020年甲子園高校野球交流試合(仮称)」が8月10日から開催され、さらに各都道府県では夏の代替大会が行われる予定だ。最後の夏、負ければ終わりのトーナメント戦ではなく、選手たちにより多くの実戦機会を与えるためにリーグ戦の導入が提案された地方もあるなど、改革を求める動きは水面下で起こり始めている。

 甲子園大会が中止になったことで、図らずも高校野球は永遠の命題を突きつけられる。「甲子園があるから、高校野球をやるのか?」というものだ。

 全国への道が無残にも消失された今夏、高校生たちは何を求めてグラウンドに立つのだろうか。あえてポジティブな面を探せば、周囲の目や重圧を気にすることなく、スポーツマンの原点に戻り、好きな野球を純粋に満喫するチャンスだ。豊かな感性を持つ若者たちは、自分たちの手で新しい時代を切り開いてほしい。

 真価を問われるのは周囲の大人も同じだ。甲子園の功罪は長らく、さまざまに議論されてきた。数々の名勝負がファンの心を打ってきた反面、サイン盗み疑惑や登板過多による故障など、球界の古い体質はなかなかアップデートされない。伝える側は“感動の押し売り”をやめ、新時代の価値観を見つけられるだろうか。

2020年が未来へのターニングポイントに

 東京五輪をクライマックスに、華やかなスポーツイヤーになるはずだった2020年。不意に到来した「ウィズコロナ」時代のなか、人々はこれまでの価値観をアップデートしながら、見えないリスクといかにうまく付き合っていくかを求められている。

 野球界にとっても構造改革のチャンスが思わぬ形で到来したが、経営陣が選んだのは“現状維持”だった。

 春夏の甲子園中止という緊急事態に対し、著名なOB選手からファンまでが「今こそプロアマがひとつになるべき」とSNSなどで声を挙げたものの、NPBの斉藤惇コミッショナーは静観を決め込み、日本高校野球連盟はプロに支援を求めることなく、各世代に代表チームを持つ侍ジャパンが音頭をとることもなかった。

 そんななか、“高校球児OB”であるプロ野球選手会は日本高野連(日本高等学校野球連盟)に総額1億円の寄付を行うと決める。現場の選手たちによる意志ある行動がきっかけとなり、「プロアマの雪解け」につながっていくかもしれない。

 まもなくプロ野球が開幕する2020年シーズンが、野球界全体にとって未来へのターニングポイントになることは間違いない。足元では10年ほど前から競技人口減少が進み、子どもの野球離れ、ファンの高齢化&コア化が顕著に進行しているなか、「ウィズコロナ」によりどんな影響が生じ、どうやって乗り越えていくのか。スポーツナビでは長期連載として、プロ野球や高校野球を中心に、独立リーグから学童野球まで球界全体の取り組みをレポートしていく。

「ウィズコロナ」を乗り越えるために、残すべきものは伝承しながら、変えるべきものは刷新して、野球界がうまくアップデートできることを願うばかりだ。

<「コロナで変わるプロ野球」は近日アップ予定>

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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