連載:REVIVE 中村憲剛、復活への道

中村憲剛とスタッフのキズナ 3カ月ぶりに走った練習場の感触

原田大輔

連載:第5回

チームの1次キャンプに臨んだ中村憲剛はついにゆっくりとだがジョギングができるまでに回復した 【(C)Suguru Ohori】

 中村憲剛は穏やかな2020年を迎えていた。

 新年は家族と一緒に旅行先で祝った。帰国後は人混みを避けて初詣に出掛け、親戚の集まりにも顔を出した。1月5日には自身が主催する『KENGO Academy』のクリニックに参加して、集まった子どもたちと楽しい時間を過ごした。

 いつもと変わらないシーズンオフ。ひとつだけ違うとすれば、“自らが”ボールを蹴れなかったことだろうか。

「初詣では、ケガが治りますように。無事にピッチに戻れますように。そうお願いしました。ただ、年が明けてからケガをしたわけではないので、あらためて何か意を決することはなかったですね。リハビリも引き続きというか、年が明けたからといってガラッとメニューが変わるわけでもないので淡々と、粛々と取り組みました」

自転車が漕げるまでに左膝は回復

 2019年11月22日に左膝前十字靱帯を再建するオペを受けてから、3週目で湯船に浸かれるようになると、4週目には自転車を漕げるようになった。「前進している感覚はあるか」と尋ねれば、中村は「ある」と言って、二度、大きくうなずいた。

「旅行先でもリハビリのトレーニングはしていたし、年が明けてからもすぐに身体を動かすようにしていました。何もやらず、膝が固まってしまうのが、逆に怖かったんです」

 川崎フロンターレは1月9日に始動。中村もチームメートとともに、川崎大師での必勝祈願や地域の商店街への挨拶まわりに参加し、1次キャンプ先となる宮崎県の綾町へと向かった。

「術後6週目で、ステッパーという機器に乗って、足踏みするメニューが追加されたんです。その場で、ただステッパーを漕ぐだけなんですけどね。ただ、徐々に新たなメニューが増えていく感じがうれしかった。それ以上にうれしかったのがジョギング。それも最初は、その場で足踏みする“その場ジョグ”からスタートしたんですけどね」

 キャンプでは午前・午後の2部練習を行うのが恒例である。リハビリ中の中村もまた、チームに合わせて午前・午後の2回にトレーニングが分けられていた。

「1回でリハビリの全メニューを終えることもできたんでしょうけど、リハビリを担当してくれている高木祥PT(フィジオセラピスト)が、午前は室内、午後はグラウンドでやったりと、2回に分けて考慮してくれていたんです。今までのメニューに加えて、新たなメニューも追加されたから筋肉痛もかなりあって。リハビリといえども、やっぱりキャンプはキャンプでしたね」

 時には室内を飛び出し、宿泊先の近くにある川辺へと歩き、“その場ジョグ”をしたりもした。1月15日に更新した自身のブログには川を眺めながら、その場で足踏みをする動画とともに、こうつづられていた1

「自然と調和したその場ジョグ(ちょっと進んだパターンも)。同じメニューでも外でやるのと室内でやるのとは全然違って気持ちよかったです」(原文ママ)

リハビリ担当の高木PTとの信関係

二人三脚でリハビリを続けているPTの高木祥と中村憲剛の間には強い信頼関係がある 【Daisuke Harada】

 1次キャンプも折り返しを迎えた19日には、キャンプ地のグラウンドを本当にゆっくりと、ゆっくりとではあるが、走る中村の姿がクラブのSNSを通じて投稿された。
「芝の匂いを嗅ぐと、自然と笑みがこぼれますよね。自分の仕事場はやっぱり、ここだなって思う。グラウンドを軽くでもジョギングできると、なおさらですよね」

 22日には、山道を自転車で駆ける姿が自身のSNSで紹介された。すでに室内で自転車を漕げるようになっていたとはいえ、山道を颯爽と駆け登る力強さに、リハビリが順調に進んでいることをうかがわせた。

 そうした中村の動向は「#本日のケンゴ」のハッシュタグを付けて、毎日のようにクラブが発信。ファンやサポーターを多いに喜ばせ、そして安心させた。

「リハビリはいつも高木PTと一緒で、時には弱音を吐いたり、文句を言ったりすることもあるけど、俺の性格を分かったうえで接してくれているから、自然と弱音も文句も言えるんですよね。室内でずっとリハビリのメニューをやっていたら、こっちの気が滅入ってしまうことを分かってくれているから、高木PTは外に連れ出してくれた。川沿いの散歩も、山登りのバイクも、トレーニングしつつ、俺に気晴らしをさせようと考えてくれていたからこそ。時には、『(メニューに対して)3セットじゃなくて、2セットでいいじゃん!』って嘆くこともあったけど、本当にありがたいですよね」

 サッカーでは、阿吽の呼吸だったり、暗黙の了解だったりと、時に感覚と言い換えられるプレーが勝敗を大きく左右する。その感覚的な部分を、より高めるために日々の練習は存在するし、チームメイトとの密なコミュニケーションが求められる。それと同様、選手とPTにも密接な信頼関係がなければ、リハビリは先に進まない。時に発破を掛けられながら、時に弱音を吐きながら、中村はスタッフとともに前進していた。

「高木PTは全く(メニューに関して)妥協を許さないタイプなので、たまに回数を減らしてくれたときにはうれしくなるんです(笑)。自分より年下ですけど、いつも毅然とした態度で接してくれる。かといって、こちらの意見を全く聞いてくれないかというと、そうじゃない。だから、なおさら信頼しています。それに一緒になって、横で筋トレしてくれたりするんですよ。自転車で山道を登ったときも、先に登って動画を撮ってくれたり。PTはなかなか表に出る職業ではないかもしれないけど、そうした裏方というか、支えてくれる人たちがいて、選手たちはケガから復帰できる。自分を通して、そうした人たちの存在も知ってもらえたらなって思うんです」

 一方でチームは、新シーズンに向けて徐々にフィジカル的なトレーニングから実践的なメニューへと移っていく。まさにボールを使って密なコミュケーションを図っているわけだが、そこに参加できないことに焦りやいら立ち、不安はなかったのだろうか。

「それはそれでキャンプのいいところなんです。リハビリしながらも練習が見られるわけじゃないですか。今年のフロンターレを考えるうえでは、新人選手もそうだし、移籍してきた選手たちがどういう特徴なのかを知ることもできる。あとは、オニさん(鬼木達監督)が今シーズンやろうとしていることも見ることができた。麻生の練習場だと、室内だけでリハビリが終わってしまっていたかもしれないけど、自分もグラウンドに出てトレーニングをすることで、そうしたものを目の前で見ることができた。練習試合も3回ほどありましたし、概要は把握することができました」

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著者プロフィール

原田大輔

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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