連載:REVIVE 中村憲剛、復活への道

中村憲剛とスタッフのキズナ 3カ月ぶりに走った練習場の感触

原田大輔

3カ月ぶりに練習場を走った中村の笑顔

ジョギングができるまでに回復した中村憲剛。リハビリは着実に前進している 【(C)Suguru Ohori】

 しつこく、そこに焦りはないのかと問いかけた。中村はきっぱりと「ない」と一蹴する。

「まだ、(復帰するまでに)時間がかかるというのが大きいかもしれないですね。あとは、若手ではなく、今年40歳になる選手ですよ(笑)。自分のプレースタイルみたいなものは確立できているし、周りも理解してくれている。チームにどうやってアジャストしていくかは、自分なりに分かっているつもりです」

 その表情には、プロ18年目を迎えるチーム最年長選手であり、川崎のバンディエラたる矜持が漂っていた。

「でも、やりたいなぁってうずうずはしますよ。走れるようになると、なおさら、もうボールを蹴っても大丈夫なんじゃないかって思ってしまう瞬間はある。でも、我慢、我慢。ここからはきっと長い、長い我慢大会みたいなものに突入していくんだと思います」

 焦りや不安はないのだろうが、ボールを蹴りたい衝動には駆られる。そう言って素直に認める少年のようなところが、取材しているこちらを引きつける人間味なのだろう。

 1月24日に1次キャンプを終え、週が明けた27日、中村はクラブハウスでいつものようにリハビリのトレーニングを行っていた。外でチームの練習を眺めていると、全体練習が終わったタイミングで中村が姿を現した。

 中村はグラウンドレベルまで降りていくと、まるで芝生の感触を確かめるように、ゆっくりとゆっくりと走り出した。それはケガをした前日以来、約3カ月ぶりにトレーニングウェアを着て踏みしめた練習場の芝生だった。

 走るたびにトレーニングウェアがカサカサとこすれる。その微かな音すら楽しんでいるかのようだった。まだ肌寒かったが、目の前に広がる慣れ親しんだ景色も、温かく映ったことだろう。

 しばらく様子を眺めていると目が合った。中村は満面の笑みを浮かべると、親指を突き立てた。

 リハビリは確実に前進している。自転車も漕げるようになったし、ゆっくりとだが走ることもできるようになった。登り坂を進んでいる感触はある。

 ただ、それは一気に駆け上がることのできる急勾配ではなく、一歩ずつしか進めない緩やかな斜面だ。そのゆっくりとした歩みに中村は苦悩することになる。

 キャンプは沖縄で行われる2次へと突入した。

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中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ。東京都小平市出身。川崎フロンターレ所属。MF/背番号14。175センチ/66キロ。川崎一筋でプレーし、2020年で在籍18年目を迎える。中央大学を卒業した03年に当時J2だった川崎に加入。ゲームメーカーとして台頭すると、クラブの成長をともに歩む。16年にはJリーグ最優秀選手賞(MVP)に輝き、17年にはJ1初優勝、18年にはJ1連覇を達成。19年はルヴァンカップ優勝に貢献するも、11月2日、J1第30節のサンフレッチェ広島戦で負傷。左膝前十字靭帯損傷のケガを負い、現在、復帰に向けてリハビリに励んでいる。

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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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