手術を終えてリハビリを開始 入院生活でも際立った中村憲剛の能力
連載:第4回
手術を終えた中村憲剛は、3日後から本格的なリハビリをスタートさせた 【(C)Suguru Ohori】
そのため病院に着き、面会の手続きを済ませると、リハビリ訓練室を探した。大きなガラス窓の奧に広がる部屋には、さまざまな機器が並んでいた。その部屋の片隅で、担当する病院のスタッフとともに、リハビリメニューに取り組んでいる中村の姿があった。
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リハビリ訓練室で懸命に歩く姿
しばらくガラス越しに様子を眺めていると目が合った。手招きされたので部屋の奧に足を踏み入れた。歩行訓練が終わった中村は、今度は座って膝の曲げ伸ばしを始めた。それもリハビリメニューのひとつだ。端から見れば、どうということのない動作に感じられるが、中村がまとうアスリート然とした緊迫感を見れば、話しかけることははばかられた。
一通りメニューを終え、中村の顔がほころんだのを見て、「もう歩いているんだね」と声を掛けた。
「これでも、かなり歩けるようになったんですよ」
座って膝をさすっていた中村は、こちらを見上げると笑った。
リハビリを終えた中村とともに、病室に場所を移すと、経過を聞いた。久しぶりに訪れた病室には物が増え、生活感が漂っていた。もうすっかり「憲剛の部屋」である。
「手術した11月22日が金曜日だったこともあって、ちょうどリハビリテーションがお休みの土日を挟んでしまったんです。なので、その2日間は全く膝を動かすことができなかったから、膝が固まってしまっていたんですよね。週の前半に手術をした人の場合は、翌日の午後くらいからは、リハビリを始めるみたいなんですけど、自分の場合は日程の関係もあってそれができなかった。だから、その2日間で余計に膝が固まっているような気がして、明日から本当に動かせるのかなと、とても不安になったんです。それもあって夜に眠れなくなってしまったんですよね。あれはしんどかった」
術後、腫れの引かない自分の足を見て、妻である加奈子さんに弱音を吐いたのは、そうした事情もあったのだろう。
「手術してくれた先生には、『無事に成功しました』と言われましたけど、自分からしてみたら、『全然、膝が曲がらないですけど、大丈夫?』という思いもあった。もちろん、口には出さなかったですけどね(苦笑)。先生たちからしてみたら、何百、何千人と前十字靭帯再建手術をした患者さんを診ているけど、自分にとっては初めての経験。この先どうなっていくか分かっている先生と、それを知らない患者の自分。それは言うことも思うことも違いますよね。ただ、先生も看護師さんも、みんなとても親身になって接してくれるので、本当に感謝しかないんです」
病院でも驚かされた疎通能力
「術後は膝が固まるし、曲がらなくなるということも事前に周りから聞いていた。でも、絶対に動くようになるし、大丈夫だからとも言われていました。それもあって、膝が全く曲がらないことに対する不安はかなりありましたけど、それに対するダメージは話を聞いていた分、軽減した気はします。もし何の予備知識もなかったら、もっと追い込まれていたかもしれないですけど、俺には体験談やアドバイスをくれる先輩がいっぱいいましたからね。今回は特にそうした仲間たちに本当に助けられました。自分はプロサッカー選手なので、リハビリをするのが仕事になります。
ただ、一方で仕事をされている方は前十字靱帯を損傷して手術をしても、すぐに仕事に復帰していたり、デスクワークをしている人もいる。リハビリはその仕事が終わった後にする方が大半だと思うので、本当に大変だと思います。それと、リハビリの知識やリハビリにかける時間や内容は個人差もあるとは思います。
だからこそ、事前の情報、予備知識として、手術する前に膝の曲げ伸ばしや筋力をしっかりつけておくことが大事だということを、自分が先輩方からもらってありがたいと思った、実際に自分が体感して有益だと思った情報として、みなさんに伝えたいという思いもあったんですよね」
もちろん、得た情報は自分で取捨選択する必要がある。ただ、知らずに臨むよりも、知って取り組んだ方がいい。今回のケガを通して中村が伝えたいことのひとつだった。
「最初はね。本当に自分の足につっかえ棒が入っているんじゃないかっていうくらいに、曲がらなかったんですよ。しかも、痛いし。でも、よくよく考えてみれば、当たり前なんですよね。膝の中を開いて、言い方はちょっと悪いですけど、ぐちゃぐちゃになっているのを治してもらったんですから。そりゃあ腫れるし、血も出ますよね。だから、今日も先生には『もっとクッと曲がってもいいのかなーって思っちゃうんですけど』って言ったんです。そうしたら、『いやいや、大ケガをしたんだから、そうすぐに簡単にはいかないよ』と、もう一度、諭されました」