春高バレーの頂点に上りつめた2校の物語
最強になった東山、嬉し涙の東九州龍谷
全試合をストレートで勝利し、文字通り最強のチームとなった東山
全試合をストレートで勝利し、文字通り最強のチームとなった東山【写真は共同】

 優勝候補が大会を制することが容易いものではない春高バレーを、優勝候補の大本命だった東山が制した。しかも、圧倒的な力で。


 1回戦からの6試合をすべてストレート勝ち。失セット0の完全優勝を成し遂げた、主将の高橋藍が言った。


「最高で、最強のチームができました」

「優勝候補大本命」だからこその苦悩

 近年、高校男子バレーボールは単にいい選手がいる、というだけでは勝てない。いい選手がいて、それに加えて組織的なディフェンス力、オフェンス力を備え、なおかつ戦術理解、遂行度が高い。昨年の大会を同じく失セット0の完全優勝で制した洛南も、タレント豊富なチームではあったが、その力を発揮するための策を選手たち自身が考え、体現できることも強さの1つだった。


 そして、さらにその上を行ったのが東山だ。新チーム発足時から、優勝候補ではとどまらず「今年は三冠を達成するだろう」と、前評判から東山優位と見る声が多数を占めた。だが、その最初のタイトルであったインターハイでは準決勝で松本国際に完敗。サーブで攻め、崩してから切り返す松本国際の攻撃のスピードに屈したことが敗因だった。


 夏から秋、そして春高が行われる1月へ向け、松本国際がよりスピードアップを図るであろうことは明白だ。ならばどう対処すべきか。豊田充浩監督が「レシーブとつなぎは東山の伝統」と言うように、守備力に自信はあったが、その守備力をいかに組織的に高めるか。そこで、かつて自身もVリーグのパナソニックや豊田合成でプレーし、中大でも指揮を執り、リーグ戦や全日本インカレを制した松永理生コーチが練習メニューを発案し、特に時間を費やしてきたのがブロックとレシーブの連係だった。


 その時にポイントとしたのが「数的優位をつくること」だと、ミドルブロッカーの大塚昂太郎は言う。


「全部止めに行こうとしても無理なので、相手の攻撃に対して1枚でもブロックが有利になるように、誰が一番打っているのかをまず見る。相手の攻撃が4枚だと、ブロックは3枚しかいない分、絶対的に不利なので、この状況だとどの攻撃が多いか優先順位を出して、状況によって“この攻撃は捨ててこっちに跳ぶ”と、相手の強い攻撃に対しては、自分たちが数的優位な状況をつくることを意識してきました。最初は理生さんに言われた通りやっていただけでしたが、速い攻撃に対しても対応できるようになって手応えも感じたので、春高では自信を持ってブロックに跳ぶことができました」


 ブロックがどこに跳び、どのコースをふさぐか。それが徹底されれば、後ろのレシーバーも、どのボールをどの場所で拾うかが明確になり、ブロックの脇を抜いたボールも難なくレシーブでつなげられる。そう言うのは、リベロの荒木琢真だ。


「理生さんが来るまでは、ブロックもバラバラでした。でもただ跳ぶだけでなく、このシチュエーションならばブロックが何枚ここで跳ぶ、とシステム化された。インターハイの時はブロックが1枚になった脇を簡単に抜かれたりしていたけれど、システムがちゃんとつくられたので、上がらなかったボール、止められなかったボールも責任が明確になる。ブロックがどこに跳ぶか分からないと、レシーブもどこに入ればいいか分からないけれど、今はそういう迷いがない。明らかに、自分たちのやっているバレーが変わりました」

エース高橋を生かした「組織的なオフェンス」

エース・高橋(写真)だけに頼るのではなく、チーム全体のレベルアップで頂点に上りつめた
エース・高橋(写真)だけに頼るのではなく、チーム全体のレベルアップで頂点に上りつめた【写真は共同】

 相手の攻撃に対してブロックで数的優位の状況をつくれば、それだけ有利になる。ならば、自チームの攻撃時は逆の発想をすればいい。ポイントは、いかに相手のブロックよりも多くの攻撃枚数をそろえるか。その起点となったのが、セッターの中島健斗だ。


 ブロックとレシーブの連係からなるディフェンスでボールをつなぎ、なおかつセッターへの返球は高さを出して前衛と後衛、常に4枚攻撃を仕掛けられる状況をつくる。すべてがチャンスボールになるわけではないため、多少乱された状況からでも攻撃展開できるように、アタックラインからも前衛の両サイド、さらにバックアタックも同じリズムでトスを上げる。エースの高橋に言わせれば「健斗はどこからでもトスを上げてくれるので全員サボれないし、時々自分たちが(トスに)振られることもある」と笑うが、中島にとっては積極的に攻撃参加してくれるアタッカーがいるからこそ自身のトスも生かされ、中でも高橋のバックアタックが生命線でもあったことを明かす。


「サーブレシーブの後やディグ(スパイクレシーブ)の後でも、すぐ助走に入ってきてくれるので相手は絶対そこをマークする。“バックアタックがある”と思えば、前衛のレフトも生かされるし、ライトもミドルも生きる。どんな時でも常に入って来てくれるので安心して託せたし、バックアタックは特別ではなく、攻撃の選択肢の1つとして普通に使えることで攻撃パターンが広がって、しっかり打ち切ってくれるので、いつも僕が助けられていました」


 準決勝の松本国際戦や、決勝の駿台学園戦はエースの高橋の攻撃力の高さが目立ったように見えるが、そうではない。前、後ろ、ミドルと攻撃をバランスよく散りばめた結果、本来ならばマークが集中してもおかしくない高橋へのブロック枚数が軽減。なおかつレシーブをしてからもすぐ攻撃に入る高橋に、多少離れた位置からでも中島やリベロの荒木がトスを上げたことで、相手のブロックはさらに分散。よりアタッカー優位な状況で攻撃展開した東山の組織的なオフェンス力が勝った。


 たくましく成長を遂げた選手たち、そして教え子でもあるコーチがもたらした刺激を受け、ついに頂点へ登りつめたチームを、豊田監督も笑顔で称えた。


「松永コーチの戦術、戦略に全幅の信頼を置いてきました。セッターがボールタッチすると同時にスタートし、複数で一斉に攻撃へ入る。Vリーグでもあそこまでの精度でバレーをしているチームはない。新しいチャレンジをした選手たちの頑張り、努力のたまものです」


 そしてその中心に立ち、「自分に持って来てほしかった」という最後の1本を託されるべきして託され、決めてみせたエースの高橋が言った。


「高校で学んだ戦術、ウェイトトレーニング、高校で得られた知識や経験をこれからにつなげたい。勝てなくて、やっと出られた春高で、勝って泣くことができてうれしかったです」


 まさに最高で、最強のチーム。東山は強かった。誰もがそう思う、完全優勝だった。

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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