春高バレーの頂点に上りつめた2校の物語 最強になった東山、嬉し涙の東九州龍谷

田中夕子

悔しさを乗り越え、令和初の大会を制した東九州龍谷 【写真は共同】

 最終日まで戦い続けられるのはわずか2校。

 たとえ敗れたとしても、日本一を争って全力を尽くしたのだからいいじゃないか。よくやった。会場からは敗者にもあたたかな拍手が送られる。

 だが、敗者の立場に立てばどうか。目の前で胴上げを見れば、なぜあの1本を決められなかったのか。なぜあの選択をしたのか。よぎるのは、後悔ばかり。

 そんな悔しさを2年間味わい続けた。

 東九州龍谷の3年生たちは「三度目の正直」という言葉を、もはやすがる思いで、唱え続けた。これが最後のチャンスだ。今度こそ絶対に勝とう、と。

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三つどもえの争いから抜け出せた理由

 昨年、一昨年と大会を連覇した金蘭会。今大会は東京都大会で敗れ出場がかなわなかった下北沢成徳。そして東九州龍谷。近年の春高女子ではこの3校が、三つどもえの争いを繰り広げてきた。個々の能力の高さや、ブロックを武器とする組織的なディフェンスが強みの金蘭会と、やはり同じくブロックを軸とした組織的なディフェンスに加え、トレーニングで培ったボディバランスとパワーを生かした攻撃を武器とする下北沢成徳。対する東九州龍谷の武器は何か。それは紛れもなく「スピード」だった。

 セッターに返球する1本目のパスから速く返し、相手のブロックが完成する前に素早く攻撃する。東九州龍谷のスピードバレーが高校女子バレーボール界を席巻したように、1つでもリズムが崩れたら成り立たない精度を追求する。スピードは東九州龍谷の代名詞と言っても過言ではなかった。

 だが、その様相が変わり始めたのは昨年。下北沢成徳と対峙(たいじ)し、フルセットの末に勝利した準決勝は明らかにスピード一辺倒ではなく、ミドルもサイドもラリー中にしっかりアタックラインまで下がって助走に入り、力強くボールを叩く。低くて速いスピードバレーとは明らかに異なっていた。

 その理由を4年間のコーチを経て、今春から相原昇・前監督の後を引き継ぎ監督に就任した竹内誠二監督はこう言う。

「ブロックがしっかりしているチームに対し、うちのように小さな選手たちはしっかり跳んで高いところで打たないと勝負ができない。身長が低くてもちゃんとジャンプできれば勝負できる技量はある選手ばかりですから、その力を生かすためにも下がって打つ、というのは徹底されるようになりました」

「技量のある選手ばかり」と称する中でも竹内監督が「天才」と絶賛するのが2年生エースの室岡莉乃だ。162センチと確かに小柄ではあるが、助走の最後にトスと合わせるためどんな状況でも空中姿勢が良く、高い打点でボールを処理し、スパイク技術に長けた選手であるのは間違いない。

「トスに関して大きく要求することはない」と言う室岡だが、唯一求めることがある。

「ネットから離してほしい、というのは伝えます。ネットと近すぎるとブロッカーとかぶってしまうので、コースが限定されてしまう。少し離れればブロックアウトも狙えるし、インナーにも打てるし、(ブロックに当てて)飛ばすこともできる。相手のブロックが高ければ高いほど、当てて出す場所も多くなるので、トスが離れていれば、どれだけ相手が高くても怖さはないし、むしろ楽しい。枚数が増えてもその分周りは楽になるし、むしろ自分に何枚でもマークがついてこい、と思っています」

2度の敗戦を乗り越えた3年生たちが下級生を支える

 抜群の勝負度胸を備えた小さな大エース。そんな下級生を支えたのが、決勝で二度、負け続けてきた3年生たちだった。

 主将の荒木彩花が中心となり、練習から厳しく1本1本の結果にこだわる。試合形式の練習中にも、簡単に決められてしまったり、落としてしまうボールがあれば見過ごさず追求する。春高期間中もその姿勢は変わらず、準決勝の金蘭会では宮部愛芽世(あめぜ)、決勝の古川学園ではバルデス・メリーサ。攻撃力に長けた2人のエースをどう対策すべきかを何度も話し合った、リベロの吉田鈴奈は言う。

「まずサーブで攻めることは大前提で、相手の得意なコースをブロックでふさいで、抜けたコースを後ろで拾う。スパイクボールは強烈なので、それを無理にセッターへ返そうとするのではなく、とにかくアタックラインに上げてつなげること。それだけ意識しよう、と全員で徹底していました」

 吉田が1年生の頃は精度を求めるスピードバレーにこだわってきたが、荒木の高さや巧みな技術を持つ室岡を生かすべく、速さばかりを追求するのではなくなった結果、二段トスを打ちきれるスパイカーも増えた。レシーバーからすれば「無理に返そうとしなくていい」という余裕が生まれ、アタッカーにも余裕を与えるべく新たな変化も生まれた。

「1本目のレシーブも低く返すのではなく、少し高く返す。速さは確かに武器ですが、それだけじゃなく余裕さえ作れればアタッカーが何とかしてくれる、と信頼していました」(吉田)

 長年チームを率いた監督が代わり、最上級生になった。三度目の正直を果たす、と言い続けてはいるものの、本当にできるのか。不安がなかったわけではない。事実、全国大会だけでなく県大会でもセットを落とすなど不安定さも目立ち、「強いのか弱いのか、よくわからないチームだった」と竹内監督は言う。

 だが、主将の荒木を中心に「三度目の正直」に懸け、必死で取り組んできた成果が最後の最後にようやく結実。竹内監督が、笑顔で言った。

「最高の舞台で最高のバレーをやれば結果がついてくる、と証明してくれた。最後は僕が見ても“強い”と思うチームでした」

 まさに、三度目の正直で悔し涙はうれし涙へ。最後は笑顔で終われた春高は、最高だった。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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