楽天出身の新社長が集客にこだわる理由 Jリーグ新時代 令和の社長像 山形編

宇都宮徹壱

集客アップのCMを流し続けた今季の山形

今年1月にモンテディオ山形の社長に就任した相田健太郎氏 【宇都宮徹壱】

 J2モンテディオ山形のホームグラウンドであるNDソフトスタジアム山形。最寄りのJR天童駅の改札を出ると、巨大なクラブエンブレムが視界に飛び込んでくる。昨年ここに来たときには、次回ホームゲームの開催日と対戦相手が表示されていたのだが、すでにレギュラーシーズンは終了しているので空欄になっていた。確かにNDスタでの試合は、来シーズン開幕まで待たなければならない。けれども山形の今季の戦いは、この時点ではまだ続いていた。なぜなら5年ぶりに、J1参入プレーオフに参戦していたからだ。

 今季の山形は、FC岐阜との開幕戦(アウェー)には敗れたものの、第2節の横浜FC戦(アウェー)以降は8試合負けなしで、第8節で初めて首位を奪取。以後、一度も6位以下に順位を落とすことなく、首位戦線にとどまり続けた。結果として6位でフィニッシュしたが、プレーオフ第1戦では3位の大宮アルディージャに2−0で勝利。準決勝の徳島ヴォルティス戦、さらにJ1・16位との決勝戦に勝利すれば、5年ぶりのJ1昇格が決まる。私が山形を訪れたのは、大宮戦の勝利から2日後の12月3日のことであった。

 久々に訪れる山形県総合運動公園は、平日の昼ということもあって、しんと静まり返っている。摂氏4度の冷え切った外気で想像もつかないが、今季の山形のホームゲームには多くのファンが詰めかけ、さながらJ1時代のような盛り上がりを見せていたという。今季の平均入場者数は8289人。前年の6766人から2割増しで、1万人超えは5試合もあった。平均で1万人以上が入ったJ1時代を除けば、最も山形のスタンドに客が入っていたのが、実は2019シーズンだったのである。

今季の山形は集客が伸び、それが選手の士気を高め、結果として好成績にもつながった 【(C)J.LEAGUE】

 もちろん、チームが好調であれば観客も増えるという考え方は成立する。しかし今季の山形に関しては、集客が伸びたことが選手の士気を高め、結果として好成績につながったという見方のほうが正しい。なぜなら今季の山形は、これまで以上に集客アップにこだわってきたからだ。今シーズンは、集客アップを目的としたテレビCMを8本制作。10月から11月までのホームゲーム4試合は、すべてCMを流す力の入れようであった。こうしたプロモーションを主導したのが、今年1月に就任したばかりの新社長である。

「J1だろうがJ2だろうが、お金を稼がなければならない」

「J2だろうがJ1だろうが、やることはそんなに変わらない」と相田社長 【宇都宮徹壱】

 令和時代ならではの新世代のJクラブ社長にフォーカスする当連載。今回ご登場いただくのは、山形の相田健太郎社長である。山形県南陽市出身の45歳。大学卒業後、毎日コムネットと水戸ホーリーホックを経て、楽天イーグルスでは営業、そしてヴィッセル神戸では強化部や戦略室室長を歴任し、今年1月から現職となった。ちょうどプレーオフを戦っていた時期なので、「来季がJ1かJ2かで事業計画が変わってくるのでは?」と水を向けると「そんなことはないと思っています」という答えが返ってきた。

「来年の事業計画は9月から作り始めているんですけれど、基本的にJ2だろうがJ1だろうが、やることはそんなに変わらないと思っています。J1に上がったら、増える分が増えるだけの話なので。どっちだったとしても『最低限、ここまではやろう』というラインを決めて、それに向けてどう組み立てていくかが大事だと思います。今季の入場者数はトータルで17万4064人でした。これを20万人まで上げていきたい。そこまでいければJ2の昇格争いやJ1に上がった時でも、なんとかやっていけるベースになると思っています」

 半官半民の状態からスタートし、13年にアビームコンサルティング株式会社を経営パートナーに選んだことで、翌14年には株式会社化した山形。その後、県庁OBの社長が2代続き、スポーツビジネスの世界から迎えたのが相田である。当連載の監修者である、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社の里崎慎からは、こんな宿題をもらっていた。いわく「スポーツビジネスの経験が豊かで、実行力のある新社長が加わることで、フィールド面とビジネス面、それぞれどのような相乗効果があるのか分かると、貴重なベンチマークとなるでしょうね」。

 そこでまずは、株式会社化して以降のクラブをどう見ているのか、外部から来た新社長の意見を聞いてみることにした。

「実際に入ってみて分かりましたが、J2に落ちても入場者数は増加しているし、ずっと黒字でした。株式会社化した結果だということもあるかもしれませんが、山形県から環境を提供していただき、アビームから経営基盤を構築していただいたおかげではないかと思います。これは本当にすごいことですよ」

 その成果に一定以上の敬意を表しながら、相田はさらにこう続ける。

「入場者数アップは、もっとできると思っています。今季の総入場者数では、J1だった15年の数字(17万518人)を上回っているんです。もちろんプロである以上、カテゴリーが上のほうがいいに決まっています。とはいえJ1だろうがJ2だろうが、お金を稼がなければならないのは変わらないと思います」

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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