アイルランド代表、強さの理由に迫る 日本と対戦するラグビーW杯の優勝候補

竹鼻智

W杯初戦でスコットランドに完勝

37歳の闘将ロリー・ベストがアイルランド代表を引っ張っている 【写真:ロイター/アフロ】

 1987年に行われた第1回大会以来、史上もっとも優勝国の予想が難しいと言われているラグビーワールドカップ日本大会。上位の実力は拮抗し、「ベスト4まで残ったチームのどこが優勝してもおかしくない」というのは、強豪国の評論家たちの一致した意見だ。

 その中でも特に気になるのは、日本代表と同じ予選プールAでの首位通過が予想されているアイルランド代表。大会前のウォームアップゲームでは、イングランドに敗れながらも、イタリアを下し、ウェールズから2勝を挙げ、世界ランキング1位の座に輝いている。(9月22日発表の最新ランキングでは2位に)

 今大会の初戦となった22日のスコットランド戦では、ボーナスポイント獲得条件となる4トライを挙げ、相手には1本のトライも許さずに27対3で快勝。完璧なスタートを切ったアイルランド代表は、28日に日本代表と対戦する。

ラグビーのアイルランド代表とは?

熱狂的なファンの存在が、アイルランド代表を後押ししている 【写真:アフロ】

 古くから政治的に複雑な問題を抱えるアイルランド島は、現在はこの島の大部分を占めるアイルランド共和国という独立国と、英国の一部である北アイルランド地域からなる。ラグビーにおけるアイルランド代表では、この両地域から選手が選出されており、代表チームを統括するアイルランド・ラグビー協会も、行政上の国境を意識しない、統一アイルランドとして運営されている。

 1874年に設立されたアイルランドラグビー協会は、アイルランド共和国の誕生とそれにまつわる国境問題よりも長い歴史を持つ。スポーツはアイルランドというアイデンティティを持つ人たちをひとつにまとめる、この地域にとって大きな社会的役割を持っている。

 行政上の独立国を代表チームの単位とするオリンピックでは、北アイルランドは英国の一部として、アイルランド共和国は別の国として代表選手を選出している。しかし、それ以外の大会では、ラグビーに限らず多くのスポーツで、統一アイルランドという形で代表チームを結成している。
 しかし、この方針の有名な例外はサッカー。北アイルランド代表とアイルランド共和国代表チームは、別チームとしてワールドカップ予選などの国際大会に参加している。

クラブと代表が対立しない“究極の仕組み”

世界最高峰のSHの一人、コナー・マレーは日本戦にも先発出場する 【写真:ロイター/アフロ】

 クラブの試合で活躍した選手が代表チームに呼ばれるという構図は、どの国のどのスポーツでも基本的に同じだが、時にこの構図は「クラブvs.代表」の利害関係の対立を生むこともある。

 日本ではトップリーグ、代表、さらにはサンウルフズでもプレーする選手たちのワークロードの監視と適切な休暇の必要性が、実際に休暇が必要な状況になってからようやく指摘された。選手の出場試合数を一定以内に抑えるためには、クラブか代表のどちらかが譲る必要があり、複数のステークホルダーが交渉、説得、調整などのために走り回ることになる。

 アイルランドにはレンスター、マンスター、コナート、アルスターという4つのプロクラブがあり、これらのクラブはアイルランド・ラグビー協会に“所有される”という形をとっている。
 クラブごとに独自のスポンサー獲得、マーチャンダイジングなどで収益を上げることもできるが、クラブの予算の大部分は、ラグビー協会からの助成金で成り立つ。すなわち、それぞれのクラブは自分たちのクラブの戦績の向上という目的は持つが、それよりもさらに大きな“アイルランドラグビー全体の成功”という目的のもとに運営される。

 例えば、SO(スタンドオフ)ジョニー・セクストンのような代表の主力選手は、代表監督からクラブの監督へ指示で、テストマッチ(国際試合)にいいコンディションで挑むために、クラブでの出場を控えさせることもできる。代表に入るようなトップレベルの選手は、テストマッチでのパフォーマンスを最大の目的とし、欧州の上位クラブで争われる欧州選手権、国内リーグに相当する通常のクラブゲームを、調整のための試合として使うこともできる。

 だからと言ってクラブの試合では手を抜くとか、戦績に無関心ということではないが、どちらか一方を優先しなければならない場合は、順位がはっきりと決められている。すべては代表チームが勝つためであり、必要であればその他のステークホルダーが妥協し、譲歩するのだ。

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著者プロフィール

1975年東京都生まれ。明治大学経営学部卒、Nyenrode Business Universiteit(オランダ)経営学修士。2006年より英国ロンドンに在住し、金融機関でのITプロジェクトマネジメントとジャーナリストの、フリーランス二足の草鞋を履き、「Number Sports Graphics」(文藝春秋社)、「ラグビーマガジン」(ベースボールマガジン社)、「週刊エコノミスト」(毎日新聞社)へのコラム執筆など、英国・欧州の情報を日本へ向けて発信。

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