スタッツは圧倒も…日本代表が敗れた理由 「攻撃を拒否していた」南アの戦術とは

斉藤健仁

ベストメンバーの南アフリカにリベンジを許す

日本代表No.8マフィの突進を2人がかりで止める南アフリカ代表 【築田純】

 9月6日、ラグビー日本代表(世界ランキング10位/9月6日時点)は、20日に開幕するラグビーワールドカップ前の最後のテストマッチを行った。相手はジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が要望したという「セットプレーの強い相手」として選ばれたワールドカップ優勝2回を誇る南アフリカ代表(同5位)だった。

「スプリングボクス」こと南アフリカ代表と言えば前回のワールドカップで日本代表が34対32の大金星を挙げた相手であり、当然ながらリベンジに燃えていた。これで日本代表はこの4年間でティア1(世界の強豪10チーム)と対戦することになった。

 結果はベストメンバーの南アフリカ代表に6トライを奪われて、日本代表は7対41と大敗だった。相手のフィジカルや空中戦の強さ、切り替えの速さなどで前後半ともに3トライずつ奪われ、残念ながら勝つことはできなかった。

日本がボール支配率などで南アを上回る

後半20分に日本代表WTB松島幸太朗がトライを奪う 【築田純】

 ただ主将のFLリーチ マイケルは試合後、「スコアよりスタッツは日本代表が有利だった。トランジション(攻守の切り替え)や精度のところが負けた原因」と話した。この試合をデータ(STATS、共同通信デジタル提供)で振り返ってみたい。

 実際、リーチ主将が言うように、ほとんどのデータで日本が上回っていた。日本代表のボール支配率は58%、テリトリーも52%と優勢。ボールインプレーが35分で、日本代表がボールを持って攻めている時間も約21分と多く、パスの回数も200回(南アフリカ代表は74回)、ボールを持って走った距離も793m(南アフリカ代表は566m)と、ターンオーバーも18回(南アフリカ代表14回)と数字の上では圧倒していた。

 だが、トライは日本代表が1本(WTB松島幸太朗)、南アフリカ代表が6本であり、日本代表は勝つ流れに持っていけなかった。それはなぜか。
 まずひとつは、日本代表が相手陣22m内に何度も入った(全体のボール支配率のうち日本代表は17%を相手陣22mでプレーしたが、一方の南アフリカ代表は5%だった)が、遂行力不足でトライまで持っていけなかったこと。日本代表は接点でどうしても後手に回ってしまい、勝負どころでは、南アフリカ代表がジャッカル(ラックでボールを奪い取る)を決めていた。

徹底してキックを使ってきた南アフリカ

南アフリカはキック、キャッチの正確さが目立った 【築田純】

 もう1つは南アフリカ代表が戦略を徹底したことだった。南アフリカ代表が日本代表よりデータで突出して上回っていたのはキックの回数だった。日本代表は、この試合、キックを蹴ってアンストラクチャー(崩れた局面)からのアタックでプレッシャーを与えようとしていた。相手のFWを背走させて、疲れさせることも狙いだったこともあり21回キックを蹴った。

 だが、南アフリカ代表はそれを超えた32回だった。29度だった気温や湿度でボールが滑りやすくなることを見越して、SHファフ・デクラークのボックスキックでエリアを取り、そしてSOハンドレ・ポラードのオープンサイドハイパントなど、ボールを持たずにキックを蹴り、ディフェンス主体の戦いを徹底したというわけだ。

 日本代表のジェイミー・ジョセフHCは「南アフリカ代表は攻撃を拒否していました。すぐにキックして、ディフェンスでプレッシャー、あとはセットプレーでプレッシャーをかける戦術で臨んできました」と振り返った。

 またこの試合ハットトリックを達成し128mを走ったWTBマカゾレ・マピンピは身長184cm、FBウィリー・ルルーも186cmと大型で、日本代表選手よりハイボールに強く、味方や日本代表のハイパントキック後にチャンスやトライに結びつけていた。ジョセフHCはワールドカップを想定し「スコットランド、アイルランドもそういった戦術(キックを多用)で組み立ててくると思うので、そこは課題として取り組んでいきたい」と語った。

1/2ページ

著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント