ラグビーW杯2019特集

“戦術の幅”で進化したラグビー日本代表
リーチ主将「かなり良くなっている」

準備の成果が出たPNC優勝

圧倒的なスピードを誇る日本代表WTB福岡堅樹
圧倒的なスピードを誇る日本代表WTB福岡堅樹【斉藤健仁】

 ラグビーワールドカップ(W杯)まで1カ月あまり、前哨戦として戦ったパシフィックネーションズ・カップ(PNC)は、6チームが2グループに分かれて戦う変則的な大会だったが、ラグビー日本代表は3連勝を達成し、8年ぶり2度目の優勝を飾った。


 苦手としていた格上のフィジー代表に34対21で勝利して勢いに乗ると、続くトンガ代表戦は41対7で快勝、8月10日の最終戦となったアメリカ代表戦では、移動や連戦の疲れもあったが、しっかりと34対20で勝利。3試合とも4トライ以上を挙げてボーナスポイントを獲得し、しかも相手に勝ち点を与えない完全勝利での優勝だった。


 日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHCは「優勝できて選手の努力、結果に満足している。W杯へいい予行演習になった。あくまでも焦点はこの先(W杯)に向けてやってきたが、いろいろな選手にチャンスを与え、コンビネーションの合わせができて満足している」と一定の評価を与えた。


 PNCでは計14トライを挙げつつ、相手には6トライしか与えなかった。2月から定期的に行ってきた合宿や、特別編成チーム「ウルフパック」やサンウルブズでの実戦、そして6月〜7月の33日間に及ぶ宮崎合宿での成果が出た大会だった。

「モメンタム」を取るための戦い方

PNCでは選手の動き方にアレンジを加えたアタックが機能した
PNCでは選手の動き方にアレンジを加えたアタックが機能した【斉藤健仁】

 アタックでもディフェンスでもポイントは「モメンタム(勢い)」だった。


 6月の宮崎合宿では、アタックの戦術の大きな枠組みこそ、FW8人を端から「1-3-3-1」と立たせるポッド(複数のユニットを配置する戦術)は変わらない。ただWTBは両サイドに張って幅を持たせつつ、FWの2つ目のシェイプ(中央の3人のユニット)に12番が入り、これまでのように2番、8番はDFラインをえぐるように走り込むのではなく両サイドに立たせることになった。


 2016年のジョセフHC就任時に近い形だが、両サイドでしっかりとゲインやトライを狙うことを意図していた。15トライ中7トライがバックスリー(WTB2人とFB)で取ったことを考えると、やりたいアタックはできていたと言えよう。


 ジョセフHCの右腕であるトニー・ブラウンアシスタントコーチは、練習を重ねてきたスキルやオフロードパス(タックルを受けながらのパス)で、アタックに「モメンタム」を出すことを狙っていた。2〜3回攻撃をしてアタックに「モメンタム」が出なければ、コンテスト(相手と競り合う)キックを蹴って自分たちからアンストラクチャー(崩れた局面)を作ることが戦い方の基本方針である。


 ただ相手が待つタイプのディフェンスシステムで、モメンタムを取ることができればパスとランでの攻撃を継続する。世界有数のカウンターアタック能力を誇るフィジー代表には、武器としてきたコンテストキックは抑えつつ、オープンサイドへの勢いある攻撃が難しい場合は、いったんブラインドサイドへの攻撃を仕掛けて、しっかりとシェイプ(選手の立ち位置)が整ってから攻めて、モメンタムを取る工夫を見せていた。

戦術の幅が出てきた日本代表

戦術の幅が広がったことで、SH田中史朗らの判断の正確性がさらに重要となっている
戦術の幅が広がったことで、SH田中史朗らの判断の正確性がさらに重要となっている【斉藤健仁】

 フィジー代表戦の前半23分のトライは、ラインアウトを起点に、しっかりと順目、順目に攻めて攻撃で前に出ることができたため、右サイドに張っていたNo.8アマナキ・レレィ・マフィ、HO堀江翔太(ラインアウトを投げた後に残っていた)、WTB松島幸太朗の3人の前にスペースができていた。そこをSO田村優が見逃さずロングパスし、3人がショートパスをつないで、しっかりとCTBラファエレ ティモシーのトライを呼んだ。


 いずれにせよ、今の日本代表は相手のディフェンスやスタイルによってポゼッション重視のスタイルでも、コンテストキックを蹴るスタイルでも戦える。戦術の幅が出てきたことは頼もしい限りだ。


 またディフェンスでは相手の「モメンタムを奪う」ことが主眼に置かれた。あまりラックにこだわらず早くセットして、セットできればラインスピードを上げて前に出て、相手の判断する時間、スペースを奪うという基本方針は変わらない。ただタックルの仕方に変化があった。宮崎合宿で、ジョセフHCは「大きい相手に対してのタックル技術を教えるのに長けている」と13人制ラグビーの元ニュージーランド代表経験があるコーチを招聘していた。


 1人で上半身にタックルにいくときは腕を取ってパスをさせないようにしつつ、2人でタックルに行けるときは2人で上半身にいく「ダブルショルダー」で、相手をあおむけに倒すことを狙っていた。フィジー代表戦でも十分に機能し、トンガ代表戦の後半20分には、FL徳永祥尭、PRヴァル アサエリ愛が身長195cm、体重116kgの巨漢を後退させて大いに会場を湧かせた。

斉藤健仁

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。 学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「世界最強のゴールキーパー論」(出版芸術社)、「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)など著書多数。最新刊は「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版/2017年11月刊)。

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