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シント=トロイデン買収の真相
第8回 フロントスタッフの苦悩と戦略

ベルギー1部のシント=トロイデンVV(STVV)をDMM.comが買収した計画の始動から今夏まで、激動の3年半の舞台裏に迫った。

STVVのレジェンドが日本サッカーを体感

STVVに17年間選手として在籍したピーターは、現在チームマネージャーとして活躍している
STVVに17年間選手として在籍したピーターは、現在チームマネージャーとして活躍している【飯尾篤史】

 赤く染まったスタジアムに、ベルギーからやって来たピーター・デロージは圧倒されていた。その光景は母国の強豪、スタンダール・リエージュと比べても、ひけをとらないものだった。


「びっくりしたよ。スタジアムの大きさ、観客の数、サポーターの迫力、どれを取っても素晴らしかった」


 2018年12月1日、STVVの強化部の一員であるピーターが同僚の柴田コーリーライアンと訪れたのは、埼玉スタジアム2002だった。


 18年シーズンのJ1リーグ最終節の浦和レッズ対FC東京戦。優勝が懸かる一戦というわけではなかったが、4万6770人を集めたゲームである。


「このチームにワタル(遠藤航)やタカ(関根貴大)が所属していたのかと思うと、胸が熱くなったよ。スタジアムの外壁には、まだワタルの大きな看板が掲げられていた。その前で記念撮影もしたんだ」


 このとき、ピーターとコーリーは、STVVが18-19シーズンにサプライヤー契約を結んだアンブロ ジャパンの展示会に足を運ぶために来日していた。

 元プロ選手のピーターは、STVVひと筋に17年間在籍し、サポーターから最も人気のある選手だった。チームマネージャーを務める現在は、選手と監督が試合に集中して臨めるように環境を整えるのが、主な任務だ。そのためにウェアや用具の準備もすれば、車や家の手配もする。


 愛すべきクラブがDMM.com(DMM)に買収されると知ったとき、不安がないわけではなかった。


「ベルギーのサッカー界は近年、国外から投資がなされているから、自然の流れだということは理解していた。でも、日本企業に買収されて、どうなっていくんだろうと。ただ、アンドレ(・ピント)がプロジェクトの内容を丁寧に説明してくれて、不安はなくなった。年が明けて“Mr.T”(立石敬之の愛称)がSTVVの将来設計を示してくれた。一緒にこのクラブを大きくしたいと思ったよ」


 DMMに買収されてからというもの、ベルギーのローカライズされたクラブが国際的なクラブに変貌しつつあることを感じている。また、新しい仲間となった日本人選手のクオリティーの高さにも感銘を受けていた。


「ワールドカップのメンバーだったワタルのクオリティーの高さはすぐに分かった。ダイチ(鎌田大地)は素晴らしい才能を持っている。そして、なんといってもトミ(冨安健洋)さ。トレーニング前にも後にも個人練習をしたり、筋トレをしていたり。彼はプロの模範のような選手だね」

ビジネスサイドの“なんでも屋”コーリー

ビジネスサイドの“なんでも屋”を担うコーリーは、STVV買収直後のバタバタを生生しく語ってくれた
ビジネスサイドの“なんでも屋”を担うコーリーは、STVV買収直後のバタバタを生生しく語ってくれた【飯尾篤史】

 仕事を進めるうえでの困難もある。そのひとつが、サプライヤーが日本の企業に変更されたことだった。


「これまでは地元のサプライヤーから提供してもらっていたんだ。でも、日本のメーカーに変わった。言葉や時差の問題もあって、そろうのに時間が掛かるんだ」


 そこで、ユニホーム管理を引き継いだのが、コーリーだった。


 米国人の父と日本人の母を持つコーリーがSTVVに派遣されたのは、17年8月のことだった。DMMに入社したのは、その4カ月前。中途採用ではなく、新卒だったから、右も左も分からないうちにベルギー行きを命じられたことになる。


だが、コーリーは、これをチャンスと捉えた。


「もともと事業をやりたいと思っていたんですけれど、入社してすぐ、ITに関する知識が周りよりも劣っていると感じたんです。でも、僕は幼いころからスポーツが好きだったので、STVVに配属されれば、強みであるスポーツと英語で勝負できるなって」


 もっとも、STVVの状況はコーリーの想像以上に過酷だった。


 17年8月というのは、DMMがSTVVの株20%を取得した時期に当たる。クラブ内にDMMサイドの人間は、元FC東京強化部のアンドレしかいない。コーリーの役回りは、ビジネスサイドの“なんでも屋”だった。


「正直、何をすればいいのか分からなかったですね。最初の頃は、STVVにはどんな人がいて何をやっているのか、仕事内容、運営全般、チケッティング、営業など事業部を調査して、日本にレポートを送っていました。冨安選手のサポートもしていました」

飯尾篤史
飯尾篤史

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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