「井上君には勝てない、殺されちゃう」
スパーリング経験者が語る井上尚弥
スパーリングをともにしたボクサーは井上尚弥(写真左)の強さをどう感じているのか
スパーリングをともにしたボクサーは井上尚弥(写真左)の強さをどう感じているのか【写真は共同】

“モンスター”井上尚弥(大橋)がイギリスのリングを席巻する――。


 5月18日(日本時間19日早朝)、井上はスコットランド・グラスゴーでIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)とのWBSS準決勝に臨む。先に決勝に進んだ世界5階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)との新旧対決への期待は高まり、バンタム級最強王者決定トーナメントの大本命と目されている。


 昨年10月、横浜で行われたWBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)初戦では、元王者ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)を一撃で沈める戦慄(せんりつ)の初回KO勝ち。来日していたWBSSプロモーター、カレ・ザワーランド氏は、ヘビー級のアンソニー・ジョシュア(イギリス)、デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)、ミドル級のサウル・カネロ・アルバレス(メキシコ)、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)ら、はるかに階級が上のトップボクサーの名前を持ち出し、興奮気味にまくしたてた。


「イノウエはニックネーム通り、モンスターであることをしっかり見せてくれた。ジョシュア、ワイルダー、カネロ、ゴロフキン、現在活躍している多くのハードパンチャーたちと比べても、階級を超えて世界最高のパンチャーだと確信した」


 WBA世界バンタム級王者ジェイミー・マクドネル(イギリス)を初回TKOで下し3階級制覇を成し遂げた一戦に続く、圧巻のパフォーマンス。ザワーランド氏がまくしたてるのは無理もないだろう。


 圧倒的な力を見せ続ける井上の強さとは――。井上とスパーリングで向かい合ったことのある4人に聞いた。

井上の強烈すぎるパンチに驚く

日本バンタム級王者の齊藤裕太。ファイタータイプのボクサーだが、井上の強烈なパンチには驚いたという
日本バンタム級王者の齊藤裕太。ファイタータイプのボクサーだが、井上の強烈なパンチには驚いたという【船橋真二郎】

「あ、井上君には勝てないです。殺されちゃうんで。スパーリングもダメです。もうボコボコにされて、何回も予定のラウンドできなかったんで。毎回、失神しそうになりましたからね」


 苦笑まじりに日本バンタム級王者の齊藤裕太(花形)がそんな告白を始めたのは4月18日、初防衛に成功した控室だった。昨年9月、31歳で初めてベルトを巻いた直後に潰瘍性大腸炎が判明し、この日が病気休養中に誕生した暫定王者との統一戦でもあった。


 2012年の全日本新人王MVPに輝きながら、その後は長く低迷した。デビューから9年、ようやく花開いた苦労人。「僕には失う物はない。どんどん強いやつとやりたい。強いやつに勝っていけば、世界に行けるかもしれない」。激闘を制した余韻も手伝い、気勢をあげたものの、はたと自分の階級のトップに君臨する存在のことを思い出した。


 最後にスパーリングをしたのは、井上が1階級下のスーパーフライ級時代。何より、その強烈すぎるパンチに驚かされた。


「ジャブで衝撃がガーンと来て。ほんとに意識が飛ばされそうになっちゃうんですよ。『あれ、俺、ヘッドギア着けてたよな、(クッションの大きな)14オンス(のグローブ)だよな』って、錯覚しちゃいますからね。どのパンチもキレるし、硬いし、重いし。普通はどれか1個じゃないですか。(試合で使用する)8オンスだったら、本当にヤバいと思いますよ」


 齊藤は打ち合いを好むタフなファイタータイプ。打たれ強さには自信があり、「スパーリングで効かされたことは一度もなかった」だけに信じられない思いだった。

当てられるのはジャブぐらい

齊藤いわく、ライトフライ級時代の井上はスピード、うまさが際立った印象だったそうだ
齊藤いわく、ライトフライ級時代の井上はスピード、うまさが際立った印象だったそうだ【写真:アフロスポーツ】

 井上のすごさはパンチの強さだけではない。とにかくパンチを当てさせない。


「僕も近い距離でやりますけれど、井上君のほうが近いぐらいで。だから、こっちのパンチも届く距離なんですよ。それが当たらない。スウェーとかステップでよけられちゃう。しかも、よけてから、どの体勢からでも軸がブレずに打ち返してくる。そのリターンが速いから、不用意に手が出せなくなるんです。相当、足腰が強いんだと思いますよ」


 齊藤は井上のデビュー前後、さらに2階級下にあたるライトフライ級のときもスパーリングをしている。当時もパンチ力はあったが、スピード、うまさが際立った印象を受けた。その長所は階級を上げてからも変わらない。「むしろ上がったくらい」という。


「パンチがヤバいから、一瞬も気が抜けないし、攻めるのが自分のボクシングですけれど、もらわないように、もらわないように意識して。当てられるパンチはジャブぐらい。ガードを固めて、入ってきたところに合わせる。それだけで精いっぱいって感じです。本当に穴がないです」


 井上には、アジア人で初めて6階級制覇を果たしたマニー・パッキャオ(フィリピン)に匹敵するような偉業の達成を期待する。


「僕は6階級制覇、スーパーフェザー級まで行けちゃうんじゃないかなって、思っちゃうんですけどね」

船橋真二郎

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社)、『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)に執筆。『ゴング格闘技』(イースト・プレス)でコラム連載。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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