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「井上君には勝てない、殺されちゃう」
スパーリング経験者が語る井上尚弥

階級が上でも「どうしたらええんやろう」

井上より2階級上の丸田陽七太。ジュニア世代から実戦経験豊富で引き出しの多いボクサーだが、井上とのスパーリングでは5ラウンドを乗り切ることだけに必死だったという
井上より2階級上の丸田陽七太。ジュニア世代から実戦経験豊富で引き出しの多いボクサーだが、井上とのスパーリングでは5ラウンドを乗り切ることだけに必死だったという【船橋真二郎】

 それでは階級が上、身長、リーチで大きく上回る相手にはどうなのか。


「普段なら絶対にもらわない、『ここは安全やな』っていう距離にいても、キレのある踏み込みでパッと入ってくる速さがありました」と振り返るのは、井上の165センチに対し、179センチの長身を誇る2階級上の日本フェザー級8位・丸田陽七太(ひなた・森岡)だ。


 井上と同じく6歳でボクシングを始め、ジュニア年代の大会で活躍。高校時代はインターハイ準優勝2度、アジアジュニア選手権3位の実績を残した。18歳のデビュー戦から世界ランカーを下し、6戦目の東洋太平洋王座奪取はならなかったが、階級を上げて連勝中。再びタイトルをうかがう22歳である。


 丸田が初めて井上と手合わせしたのは昨年3月。井上がバンタム級に上げて、身長176センチのマクドネル戦を控えた時期だった。「世界チャンピオンのなかでもズバ抜けているイメージ」を持ち、覚悟して臨んだはずが、そのイメージの上を行った。


「例えば、スピードだけが速かったり、パンチだけが強かったりしたら、こうしようというのが出てくると思うんですけど、スピードも速いし、パンチも強いし、うまいし……。正直、『これはどうしたらええんやろう』って、分からなくなりましたね」


 幼いころから実戦経験は豊富。それだけ引き出しが多く、「うまくいかなくても、相手のクセを読んで、パターンを変えて、試合中に全部処理していく」(森岡和則会長)のが丸田だが、井上との5ラウンドを乗り切ることだけに必死だったという。

前への踏み込み、出入り……際立つ下半身の強さ

丸田も井上(写真右)の下半身の強さに着目
丸田も井上(写真右)の下半身の強さに着目【写真:アフロスポーツ】

 やはり「他の選手とはインパクトが全然違うし、初めて味わった感触」とパンチには強い印象を受けた。そのパワーを生み出す理由のひとつとして、丸田もまた「下半身の強さ」を挙げた。


「強い踏み込みから、全身の力を使って打つのが、すごくうまいんだろうなと思います。それに遠い距離でも、近い距離でも『ここで打てば』というポイントが分かってるから、インパクトの強いパンチを打てるんじゃないですかね」


 下半身の強さは前への踏み込みだけでなく、出入りにも生きる。


「バックステップも速いです。来たと思って、打ったときには、そこにはいないっていう動きの速さがあって。パンチだけじゃないですね」


 その上、ステップイン、バック、どの動きでもバランスが決して崩れない。それも丸田くらいリーチ差がある相手に対してである。


 マクドネル、パヤノともに自分と同じように井上の動きに対応できないまま、どう修正すればいいか分からないうちに終わったのではないかと想像する。映像で感じる強さ以上のものが井上にはあった。


「だから、このトーナメントも井上選手が普通に優勝するんじゃないかと思います」


 今年1月には2回目のスパーリングが実現した。前回のイメージをしっかり持ち、この1年の自分の成長を少し感じられたという。「終わったあとのダメージは試合並みに来る」と笑ったが、「これだけの選手を肌で感じられて、いい勉強になったんで。これからまた頑張ろうと思えました」と、明日の糧にすることを誓っていた。

※   ※   ※   ※   ※


「向かい合った感じで大体、強さって分かるんですよ。あ、これは過去最高にヤバい人だなって感じました。本能的に怖いなって」


 そう話すのは、井上の3階級上の東洋太平洋スーパーフェザー級王者・三代大訓(ワタナベ)である――。


<後編に続く>

船橋真二郎

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社)、『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)に執筆。『ゴング格闘技』(イースト・プレス)でコラム連載。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

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