北村友「唐突過ぎて」46戦目のGI初戴冠 2度目覚醒アルアイン1600〜2400も視野

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集中して2000メートルを走らせるために

あえて馬群の中からレースを展開、集中力を保たせた結果、最後の直線も良く伸びた 【スポーツナビ】

 ともあれ、裏を返せばそれだけレースとアルアインに集中していたという証拠。単勝人気は9番目だったが、アルアインの力を出し切れば好勝負になる、と北村友は手応えをつかんでいたに違いない。そして、「あまりに唐突過ぎて、うまく行き過ぎて勝てた」というが、得てして大きな勝利というのはそういうものだろう。いくつもの要因が絶妙に絡み合い、アルアインを2年ぶりのGI2勝目へと突き動かした。

「今回はブリンカーをつけて2走目となるんですが、すごく集中して走れていました。枠順も良かったですし、馬場も走りやすかった。勝因を言えばキリがないと思いますが、それら全てが重なり合ったと思います」

 中でも北村友が強調して語っていたキーワードが“集中力”。もちろん、アルアインのことだ。能力はあるのに今ひとつ弾けきれないのは、この集中力がどうしてもレース中に散漫になってしまうからだという。

「今日は返し馬から雰囲気が良かったですし、ゲート裏でも堂々と歩いていたくらい集中力がありました。ただ、気持ちのコントロールが難しいというのは調教に乗せていただいたときから感じていて、馬の気持ちを害さないよう、いかに集中して2000メートルを走れるかを考えて乗りました」

 だから、レース中は馬込みに入れた。普通、気難しいタイプは馬込みに入れずに気分良く走らせる方がいいだろう、と思ってしまうのだがアルアインの場合は逆。「スムーズに競馬をすると、逆に気持ちが燃えてこないし、なえていく感じがするタイプ。なので、あえてスムーズに位置を取りに行かず、馬の後ろでじっとする。そういうレースがしたかった」と北村友。また、池江調教師もレース展開に関して「外を通ると闘争心が出ない。内枠を利用して回りに馬がいる形を作っていくという作戦」と明かしている。つまり、道中はオーダー通りの仕事をきっちりとこなしたわけだが、北村友はただ指示通りに乗ったわけではない。「あえてステッキは使いませんでした。これも調教で感じていたことで、それらがうまく噛み合いました」と、自らの経験と感性でつかんだエッセンスも注入していた。「うまく行き過ぎた」と謙遜していた北村友だったが、集中して最後まで走らせるためには何をすればいいかという問いに対し、1つ、1つ、満点の答えを出していった結果のGI初勝利だったのだろう。

桜花賞も期待大、クロノジェネシスに騎乗

次週はクロノジェネシスとともに挑む桜花賞、2週連続Vなるか 【スポーツナビ】

「僕自身としては、これからもいつもと変わらず、自分らしくコツコツと努力していきたい。この勝利におごらず、変わらず努力していきたい」

 どこまでも謙虚なGIジョッキーは次週、3歳牝馬クラシックの第1弾・桜花賞でも有力馬が待っている。GI阪神ジュベナイルフィリーズ2着からGIIIクイーンC1着のローテで臨むクロノジェネシスだ。

「人気もすると思いますし、僕も高い能力を感じている好きな1頭です。なんとか結果を出したいですね」

 東西ともに強力な桜の女王候補はいるが、今の人馬の勢いならばこれらを難なく打倒して不思議はない。初GI制覇から一気の2週連続Vへ、北村友一の手綱さばきがさらに冴え渡るか。

中距離専門にあらず、オールマイティな王者へ

今後は中距離戦線にとどまらず、マイル〜2400メートルのGIを狙う 【スポーツナビ】

 一方、アルアインも今回の走りは、昨年までの詰めの甘さをひっくり返す見事な一撃。「年齢を1つ重ねて幅が出てきましたね。今日のような緩い馬場でもしっかり対応できるような筋力がついてきました」と、5歳にしてもう一段階パワーアップしたことに池江調教師は笑顔を見せた。この2年、勝ち鞍から遠ざかっていたとは言うものの、ダービーから前走の金鯱賞までの10戦で掲示板を外したのは、距離がやや長かった菊花賞7着の1回だけ。あとは、海外遠征した香港クイーンエリザベス2世カップを含めて、常に上位に食い込んでいた。

 それだけに能力は確か。それがここに来てもう一皮むけたとしたら、この1勝のみならず、今年の中距離路線の主役を張っていい存在となる。いや、トレーナーの見立ては2000メートル戦線にとどまらないようだ。

「レース後は息も乱れていなかったですし、まだ底を見せていない感じですね。今後は馬の様子を見た後にオーナー、牧場サイドと相談してからになりますが、マイルから2400メートルまで幅広く活躍できると思います。マイル、2400メートルのGIも取らせて上げたいですし、将来の種牡馬としての箔もつけたいですね」

 となると、今後の選択肢は海外を含めてどこまでも広がっていくだろう。中距離専門からオールマイティな王者へ、距離にとらわれないアルアイン第2の進撃が今から楽しみだ。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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