男女を超越するストライカー・菊島宙 恐怖心を克服し、5人制サッカーの星へ

宮崎恵理
 2020年東京大会そして世界に向けて、それぞれの地元から羽ばたくアスリートを紹介する連載企画「未来に輝け! ニッポンのアスリートたち」。第36回は東京都出身、女子5人制サッカーの菊島宙(きくしま・そら)を紹介する。

5人制サッカー屈指のストライカーである菊島(10番)。一般のサッカーと同じドリブルを駆使して、ボールを運ぶ 【提供:日本ブラインドサッカー協会/鰐部春雄】

 パラリンピックで行われる5人制サッカーは、視覚障がい者のための競技だ。2004年アテネ大会から正式競技となっているが、パラリンピックに出場できるのは男子のみ。車いすバスケットボールのように男女別の種目はない。

 にもかかわらず、日本には世界に誇る女子選手がいる。

 それが、菊島宙だ。

男子に負けないスピードと正確さ

 5人制サッカーは、4人のフィールドプレーヤーと、晴眼(視覚に障がいのない者)もしくは弱視のゴールキーパーの計5人でプレーする。転がると「シャカシャカ」と音がするボールを使用し、ゴールキーパーと相手ゴール裏に待機するガイド、そしてコーチの指示の声を頼りにプレーする。

 フィールドプレーヤーは、全員アイマスクを着用し視力を完全に遮断する。ドリブルの際、足元からボールが離れてしまうと、正確にボールに追いつくことが難しい。そのため、両脚の間にボールを挟むような状態で、足の内側でダブルタッチしながら運ぶことが多い。スピードは落ちるが、確実に攻撃ゾーンに切り込める。一般のサッカーとの違いは、このドリブルにあると言えるだろう。

 菊島のドリブルは、前にポーンと蹴り出し、ボールに追いつくとまた前に蹴り出すスタイル。一般のサッカーと同じドリブルを駆使し、ボールをスピーディに運ぶ。女子選手は国内大会では男女混合チームの一員として戦っている。周囲はほぼ男子だが、菊島は敵3人が取り囲んでいてもステップでかわし、ターンをして必ずシュートで終わる。

 速い! そのスピードと正確さに、思わず誰もが「おおお!」と感嘆の声をあげてしまう。菊島は、男女の差を超越した5人制サッカー屈指のストライカーなのである。

5人制なら、もう一度サッカーができる!

5人制サッカーに出会ったのは小学4年の時。中学進学後から本格的に始めた 【スポーツナビ】

 現在、東京都立八王子盲学校高等部1年の菊島は、2002年東京都生まれ。「先天性黄斑低形成」により、両眼に視覚障がいがある。現在、右目は眼球が小刻みに振動するため、ものが点滅して見える。左目を使って文字を拡大した教科書を読むことができるが、年齢とともに視力は低下しているという。

 菊島がサッカーを始めたのは、保育園に通っていた頃のこと。社会人クラブでプレーする父に連れられ試合や練習に行くと、ボールを蹴って遊んでいた。小学1年生の時に、父に手ほどきを受けるようになる。

「普通、パスとかトラップから練習しますよね。でも、父はいきなりシュートから教えてくれたんですよ」

 地面に置いたボールを蹴って5mほど先の壁に当てる。

「しかも、インステップで。思い切り蹴ってミートする感覚が、もう、本当に楽しかった!」

 小学2年で地元の女子チームに入団。スタメンでピッチに入る機会は少なかったが、コーナーキックやフリーキックなどでは菊島が活躍した。

 5人制サッカーに出会ったのは、小学4年の時。日本ブラインドサッカー協会が主催するブラサカキッズキャンプに参加した。6年までは、月に1回程度の練習会、ブラサカ・キッズトレーニングに参加し、女子チームのサッカーと並行させていたという。

 中学に進学すると、視力が低下しクラブチームの練習を続けることが困難になった。

「パスされてもボールを受けることができない。もう、この先大好きなサッカーができなくなってしまうのかなって」

 幼い時からボールを蹴って遊んでいた。サッカー以外のスポーツをやったこともない。

「ブラサカ(5人制サッカー)があるじゃないか!」

 父の言葉ではっと我に返った。

 そうだ。5人制サッカーなら、もう一度サッカーができる! 菊島は改めて5人制サッカーのチーム、埼玉T.Wingsに入団することを決意した。

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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