なでしこ長谷川唯に見る、澤との共通点 一つひとつ築いた高い場所への「階段」

江橋よしのり
 2020年東京大会そして世界に向けて、それぞれの地元から羽ばたくアスリートを紹介する連載企画「未来に輝け! ニッポンのアスリートたち」。第34回は宮城県出身、女子サッカーの長谷川唯(日テレ・ベレーザ)を紹介する。

目に焼き付けた、2011年のW杯制覇

20歳でなでしこジャパンに初招集された長谷川。自他ともに認める、卓越した戦術眼の持ち主だ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 2011年7月18日。中学3年生の長谷川唯は夜が明ける前に寝室から起き出し、家族とともにテレビ画面に目を凝らした。それから2時間あまりの後、女子サッカーの歴史が変わった。澤穂希の同点ゴール、海堀あゆみのPKセーブ、全員で天に掲げたワールドカップ(W杯)、そして岩清水梓が「東北魂」と手書きした日の丸――夜空の向こうから届くなでしこジャパンの誇らしげな映像を、彼女は目に焼き付けた。

「中学1年生で(日テレ・)メニーナに加入した時にはもう、将来の目標はサッカー選手以外考えられませんでした。あの日も、なでしこジャパンのW杯初優勝を見届けながら、『私もそこへ行きたい』と本気で思っていました」

 それから6年後の17年、長谷川はなでしこジャパンに初招集された。20歳になったばかりの彼女は、国際Aマッチ初先発となったアイスランド戦で2ゴールを挙げ、チームを勝利に導いた。長谷川は「頭を使ったプレーは得意」と自他ともに認める戦術眼の持ち主だ。

「パワフルな外国勢相手に正面に向き合って1対1の勝負をするのではなく、駆け引きをして相手の背中に回ってボールを引き出すとか、そういうポジショニングや運動量には自信があります」と本人も話す。以来、2シーズンで代表戦30試合に出場し4得点を奪った。19年のフランスW杯、そして20年の東京五輪に向かうなでしこジャパンに欠かせない戦力として、周囲の期待を集める新星となった。

同級生を追いかける立場だった中学時代

出身地の宮城県には幼少期までしかおらず、当時のことは全然覚えていないという。それでも「私の生まれたところ」という気持ちになると話す 【スポーツナビ】

 長谷川は1997年1月、宮城県仙台市に生まれ、埼玉県へ引っ越すまでの数年間を、両親そして2人の兄とともに過ごした。

「当時住んでいた家は、東北楽天ゴールデンイーグルスのスタジアム(楽天生命パーク)の近くにあった……らしいんですが、宮城で暮らしていた頃のことは全然覚えていないんです。なでしこリーグの試合で仙台に行った時、その近くを回ってみたけれど、何も思い出せませんでした。ただ、『宮城』と聞けば『私の生まれたところ』という気持ちにはなります」

 サッカーを始めたのは埼玉に引っ越してから。兄の少年団の練習について行ってボールを蹴り始めた。「気がついた時にはサッカーが大好きになっていました」という彼女は、小学生になると男女のチームに掛け持ちで参加。中学からは名門の日テレ・メニーナに加入した。

「メニーナのチームメートには高校生もいて、それまで経験したことがないようなサッカーに、ついていくのがやっとでした。そんなレベルの中でも同級生の何人か(土光真代や籾木結花)は全国大会の遠征メンバーに選ばれて、私は居残り。悔しかったけれど、サッカーを嫌いにならずに頑張ろうという気持ちで練習に取り組みました」

 以降も長谷川は同級生を追いかける立場にあった。メニーナを卒業して、日テレ・ベレーザ(なでしこリーグ1部)に選手登録されるのも、やはり土光、籾木に1年先を越された。

「すごく悔しかったです。でも、自分が壁にぶつかったという感覚はないんです。この時は高校1年生。自分が中心になってメニーナを引っ張らなくては、という責任感で毎日プレーしていました。指導者が求めるレベルも高く、私もみんなもよく怒られました。私は自分が怒られていない時も、監督の注意をよく聞くように心掛けました。そうやって、よく考えてプレーする習慣を身に付けたことが、今の自分に生きていると思います」

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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