戦術、歴史…神戸製鋼を復活させたもの 「形をつくればトライが取れる」

斉藤健仁

3連覇を狙うサントリーを決勝で圧倒

トップリーグでは15季ぶりの優勝を果たした神戸製鋼 【斉藤健仁】

 深紅のジャージに新たな歴史が刻まれた。12月15日、東京・秩父宮ラグビー場で、日本選手権を兼ねたトップリーグの総合順位決定トーナメント決勝が行われ、今季リーグ戦無敗の神戸製鋼が、3連覇を狙うサントリーを55対5で下した。神戸製鋼はトップリーグでは初年度以来15季ぶり2度目の優勝、日本選手権では18季ぶり10度目(最多記録更新)の優勝を飾った。

 過去のトップリーグで2003年度の優勝以降はベスト4に進出すること6回もなかなかチャンピオンに手の届かなかった神戸製鋼が、なぜ“アタッキングラグビー”を標榜するサントリーのお株を奪う素晴らしいアタックを見せて優勝できたのか。まず、決戦に臨むにあたっての戦略の一貫性があった。

「システムの中でプレーするのが我々の強み」

抜群のプレーとリーダーシップでチームを引っ張ったSOダン・カーター 【斉藤健仁】

 神戸製鋼は、今季、他よりもトライを取る力が勝っていた。準決勝までサントリーの40トライよりも20トライほど多い61トライ。リーグトップだった。そこで決勝に臨むにあたり、元ニュージーランド代表の世界的SOダン・カーターは「ボールキープすることは重要なテーマだった」と言い、今春、サントリーから神戸製鋼に移籍したSH日和佐篤も「サントリーはボールを持ったら危険。速い選手も強い選手もいる」とほぼ同意見だった。

 コーヒーを飲んで理解を深めたハーフ団は、相手の強みを消し自分たちの強みを出すことに努めた。ボール支配率は63%だったが、前半は72%と高く、試合を通してその戦略を貫いた。またカーターが「システムの中で、シェイプ(攻撃の形)をつくればトライが取れる。最初のトライはそれができて自信がついた。システムの中でプレーするのが我々の強み」と語気を強めたようにシステム=戦術も機能した。

スミス総監督による課題の解決方法

FW同士がショートパスを使って前に出るシーンが目立った 【斉藤健仁】

 今季、神戸製鋼は2011年、15年ワールドカップで2連覇したニュージーランド代表のアシスタントコーチだったウェイン・スミスを総監督に招聘。カーターが7月にチームに合流する前、総監督は2カ月でアタック、ディフェンスの戦術を落とし込んでいた。「私がチームに合流したとき、彼が入れようとしていたストラクチャー(攻守の形)、スキルセットはニュージーランドに似たシステムだなと思った」(カーター)

 スミス総監督が導入したのはアタックではFW8人を1―3−3−1で配置するポッド・アタックだった。両端のBKシェイプにFLグラント・ハッティングと橋本大輝がそれぞれ参加、真ん中のFWシェイプの左(平島久照、トム・フランクリン、張碩煥)と右(有田隆平、中島イシレリ、山下裕史)に3人ずつ。さらにFWシェイプの後ろに浅めにSOカーターが動きながら、ダブルラインを保って「全員がオプションになり、スペースを攻める」(FB山中亮平)といった具合だ。

 この戦術の形自体は日本では2013年度にパナソニックが導入、ジェイミージャパンでも採用したことから、さほど新しいものではない。現に、昨年度の神戸製鋼も同じ形だった。ただ、どうしてもミッドフィールドのFW3人がプレッシャーを受け前に出られないと両サイドのスペースが空かない。またFW3人でボールをリサイクルする必要性もあった。

 そのソリューション(解決方法)として総監督はFWシェイプの中でのショートパスを多用してゲインし、素早いリサイクルを目指した。そのためFWは、春からパス練習を徹底的に繰り返した。決勝でも両CTBのパスの回数がそれぞれ10、12回だったのに対し、LOフランクリンが10回、そしてNo.8中島は16とハーフ団に次ぐチーム3番目の多さだった。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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