戦術、歴史…神戸製鋼を復活させたもの 「形をつくればトライが取れる」
ディフェンスも攻撃的に、激しく
激しく前に出るディフェンスでサントリーの攻撃を抑えた 【斉藤健仁】
神戸製鋼に勝利を呼び込んだ要因はアグレッシブなディフェンスにもあった。スミス総監督はもともとニュージーランド代表のディフェンス担当コーチであり、その道では世界でも指折りの指導者。神戸製鋼はタックル後の2人目がしっかりボールに絡み、相手の攻撃を遅らせたりミスを誘ったりした。またオーストラリア代表CTBアダム・アシュリークーパーは極端に前に出て、相手の外への展開を遮断した。
37分、HO有田のキックチャージからのトライで22対5とリードして前半を折り返すと相手が反撃してくることは当然、予想された。「ハーフタイム後の最初の10分が一番大事」(カーター)と気合いを入れ直した神戸製鋼は、後半6分、CTBアシュリークーパーの前に出る激しいタックルからボールを奪い返し、最後はブラインドサイドから走り込んだアシュリークーパー自身がトライ。さらに8分、相手キックオフからFW間のショートパスでPR山下が抜け出しチャンスメイク、最後はFB山中が右隅に飛び込み34対5としてほぼ勝負を決めた。
平尾誠二さんらOB、歴史への理解
ベンチからは平尾誠二さんの写真が見守っていた 【斉藤健仁】
決勝では「スチールワーカー(鉄鋼マン)」の代表者という意識を高めるため、選手の発案で、作業着を着て入場。OBでありチームを支え続けたが、2年前に53歳の若さで亡くなった「ミスター・ラグビー」平尾誠二さんの遺影は「一人でクラブハウスに残っては寂しいだろう」とベンチ横に飾られた。深紅のジャージを着て戦う意味、受け継がれてきたDNAを日本人選手はもちろん、外国人選手も理解した上で決勝に臨んでいたというわけだ。
デーブ・ディロンヘッドコーチは「自分たちが何を代表してプレーしているのかに立ち返った。会社の歴史を含めて学ぶことによって自分たちがこのチームでプレーする意味につなげていった。スチールワーカーと自分たちを結びつけ、一つになりプレーした」と言えば、10年目のFL橋本ゲームキャプテンも「『チームに所属している』という歴史の重みやプライドという部分が高くなり、ラグビーでも私生活でも一体感や良い部分が出た。チームの歴史や、会社の歴史を振り返った部分が大きかった」としみじみと語った。
「ロッカールームは笑顔でいっぱいでした」
喜びを分かち合うウェイン・スミス監督(左)と福本正幸チームディレクター 【斉藤健仁】
グラウンド内外もメンタルにも芯が通った。選手たちがコーチ陣の戦略、戦術を信じて春から鍛え上げて、90年続くクラブや鉄鋼マンたちの代表として試合に臨んだことが、8トライの圧勝劇につながった。平成最後のトップリーグで、西の名門が復活の狼煙を上げた。