戦術、歴史…神戸製鋼を復活させたもの 「形をつくればトライが取れる」

斉藤健仁

ディフェンスも攻撃的に、激しく

激しく前に出るディフェンスでサントリーの攻撃を抑えた 【斉藤健仁】

 試合開始早々、神戸製鋼の攻撃ラグビーがいきなり口火を切る。前半3分、中島のターンオーバーからボールを継続し、FWが前に出てリズムをつくり、12次攻撃を重ねてWTBアンダーソン フレイザーがトライ。12分も、中島のオフロードパスから再びアンダーソンがインゴールを陥れて12対0として主導権を握った。

 神戸製鋼に勝利を呼び込んだ要因はアグレッシブなディフェンスにもあった。スミス総監督はもともとニュージーランド代表のディフェンス担当コーチであり、その道では世界でも指折りの指導者。神戸製鋼はタックル後の2人目がしっかりボールに絡み、相手の攻撃を遅らせたりミスを誘ったりした。またオーストラリア代表CTBアダム・アシュリークーパーは極端に前に出て、相手の外への展開を遮断した。

 37分、HO有田のキックチャージからのトライで22対5とリードして前半を折り返すと相手が反撃してくることは当然、予想された。「ハーフタイム後の最初の10分が一番大事」(カーター)と気合いを入れ直した神戸製鋼は、後半6分、CTBアシュリークーパーの前に出る激しいタックルからボールを奪い返し、最後はブラインドサイドから走り込んだアシュリークーパー自身がトライ。さらに8分、相手キックオフからFW間のショートパスでPR山下が抜け出しチャンスメイク、最後はFB山中が右隅に飛び込み34対5としてほぼ勝負を決めた。

平尾誠二さんらOB、歴史への理解

ベンチからは平尾誠二さんの写真が見守っていた 【斉藤健仁】

 神戸製鋼の選手たちは試合後、「チームが一つになっていた」と口をそろえた。スミス総監督は就任すると「90年の歴史を持つクラブとして誇りを持ちながら、レガシーをつくっていきたい」と宣言。「なぜ、どうして神戸製鋼の赤いジャージを着て戦うのか」を選手に問いかけ続けたという。社員選手たちは不祥事が起きた会社をラグビーで励ましたいという思いも強かったはずだ。OBの話を聞いたり、選手たちは工場を訪れたり、取り壊しが始まっていた高炉からはレンガをクラブハウスに持ち帰ったりした。

 決勝では「スチールワーカー(鉄鋼マン)」の代表者という意識を高めるため、選手の発案で、作業着を着て入場。OBでありチームを支え続けたが、2年前に53歳の若さで亡くなった「ミスター・ラグビー」平尾誠二さんの遺影は「一人でクラブハウスに残っては寂しいだろう」とベンチ横に飾られた。深紅のジャージを着て戦う意味、受け継がれてきたDNAを日本人選手はもちろん、外国人選手も理解した上で決勝に臨んでいたというわけだ。

 デーブ・ディロンヘッドコーチは「自分たちが何を代表してプレーしているのかに立ち返った。会社の歴史を含めて学ぶことによって自分たちがこのチームでプレーする意味につなげていった。スチールワーカーと自分たちを結びつけ、一つになりプレーした」と言えば、10年目のFL橋本ゲームキャプテンも「『チームに所属している』という歴史の重みやプライドという部分が高くなり、ラグビーでも私生活でも一体感や良い部分が出た。チームの歴史や、会社の歴史を振り返った部分が大きかった」としみじみと語った。

「ロッカールームは笑顔でいっぱいでした」

喜びを分かち合うウェイン・スミス監督(左)と福本正幸チームディレクター 【斉藤健仁】

 ノーサイド後の円陣で、Queenの「We Will Rock You」の替え歌であるクラブソング「We Are,We Are Steelers!」を歌っている時、試合に出た選手もノンメンバーも涙を流していた。「以前、在籍した選手、ノンメンバー、チームスタッフもそう。チームのパフォーマンスができたので、ロッカールームは笑顔でいっぱいでした」(カーター)

 グラウンド内外もメンタルにも芯が通った。選手たちがコーチ陣の戦略、戦術を信じて春から鍛え上げて、90年続くクラブや鉄鋼マンたちの代表として試合に臨んだことが、8トライの圧勝劇につながった。平成最後のトップリーグで、西の名門が復活の狼煙を上げた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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