神戸製鋼を変える名将ウェイン・スミス 「1960年代から日本のラグビーが好き」
「選手全員が感動できるゲームをしよう」
オールブラックスのアシスタントコーチとしてワールドカップ連覇に貢献したウェイン・スミス 【写真提供:WOWOW】
――総監督就任に当たり、神戸製鋼にどんな印象をお持ちでしたか?
神戸製鋼の試合は昨年、ニュージーランドにいる時からたくさん見ました。選手の能力はものすごく高いけど、フィールドでは持てる能力をあまり生かしていない、チームとしては、選手の能力ほどのパフォーマンスをしていないという印象を持ちました。
それから、神戸製鋼というチームが選手にとってどういう意味があるのか、神戸製鋼の歴史や、どういう選手が以前このチームにいたのかをクラブのマネージャーから聞きました。なぜなら、私としては、それこそがフィールドで表現されるべきだと思ったからです。
――クラブの文化をとても大事にされるのでしょうか?
私の哲学は、コーチはとても大事な存在だけど、自分たちが思っているほどには大事ではない、ということです。それよりも大きいのがチームの歴史、文化です。実際、私がコーチして成功したチームは、何のため、誰のためにプレーをしているのか、自分たちは誰を代表してフィールドに立っているのか、それをみんなが明確に認識していました。
たとえ短い間でも、一度チームのジャージに袖を通したなら、そのジャージを次の人に渡す時は、ジャージを受け取った時よりも価値を高めて渡すのが選手の責任。それが、ニュージーランドのチームの哲学なのです。
――コーチングや戦術、戦力よりも、根本にあるラグビー文化ですね。
今のラグビーはプロフェッショナルの時代を迎えています。プロの視点で考えると、結果を出すべきスポーツのひとつ。ですが、近年は忘れられがちだけど、ラグビーはまずゲームであり、好きでやっていることがベースにあるんです。
だから、まず神戸製鋼に関わる全ての人には、自分がやっていることが好きであってほしい。ゲームを愛し、試合を愛し、コンテスト(競争)をエンジョイする。皆それぞれが毎週、ベストを尽くすこと。「LOVE RUGBY」です。これは、どんなチームであっても根本にあることです。
――コーチとしては、実際に選手に対してはどういう言葉でメッセージを伝えたのですか?
まず、ラグビーを愛すること。それが第一で、次に大事なことは、ゲームは自分一人のものではなく、私たちみんなの物なのだということです。自分が代表しているチームの歴史、そのチームの名誉がかかっているということ、誰のためにプレーしているのかを理解すること、試合はそのひとつの試合の勝ち負けだけではなく、未来に続く、歴史の一部を作っているのだということ。
誰もがそれぞれの歴史を持っているけれど、「自分」ではなく「われわれ」という意識を持つこと。だから私は、自分の役割を果たし、自分が出せる力を出し切る、それが集団のためになるのだということを選手に伝えました。なぜなら、一人ではゲームはできないのです。だから、私たちは自分一人よりも大きな目的のために、強い絆で結びつき、力をあわせてコミットしないといけないのです。
――世界各国でコーチをして、各国のラグビーの特徴にはどんな印象を持っていますか?
ラグビーのコミュニティは、各国でそれほど違うとは思っていないんです。私は、イタリア、イングランド、ニュージーランド、そして日本とさまざまな国でコーチをしました。その経験を通じて実感したのは、ラグビーというのは、お互いを尊敬しあい、お互いのためにプレーをする、という文化が残っているユニークなスポーツだということです。
お金のためではなく、対戦相手をリスペクトし、試合を楽しむ。大前提として、ラグビーは好きだからやっているのであり、毎週の練習を楽しむ。それでいて、自分が楽しむだけでなく、歴史やコミュニティ、あるいは仲間など、自分よりも大きなものを代表しているという敬意の意識。そういうスタイルは、どこに行っても変わらない。私はどこの国へ行っても、いつも選手にそれを伝えてきました。
もうひとつ、呼びかけてきたのは、選手全員が感動できるゲームをしようということ。それは、選手全員をゲームに巻き込むということです。1チーム15人の選手全員のインスピレーション(ひらめき)を生かす。だからスクラムを組んだらペナルティを狙って、ペナルティキックをもらったらタッチに出して……というような機械的な決めごとでゲームを進めるよりも、選手自身がクリエイティブに判断してプレーしているところ、エンジョイしているところを見るのが好きなんです。そして、選手たちが、自分たちがやっていることが好きだということ、お互いを好きでいること。それが大事だと思っています。
「日本は予測のつかないプレーをしてきましたから」
2011年のワールドカップ優勝を、ウェイン・スミス(左)はアシスタントコーチとして支えた 【写真:ロイター/アフロ】
私はもともと日本のラグビーが好きなんですよ(笑)。
1960年代からですね。まだ子供のころに、デミ・サカタ(元日本代表WTB坂田好弘)がニュージーランドに来て、カンタベリーでプレーをして、カンタベリー代表にも選ばれるような活躍をしたんです。デミ・サカタだけでなく、60年代の日本のラグビーは大好きでした。日本がラグビーというゲームに持ち込んだイノベーションは素晴らしかった。予測のつかないプレーをしてきましたから。ひとつ挙げれば、日本はラインアウトにショートラインアウトという方法を持ち込みました。あれは画期的でした。俊敏さという日本人の強みを生かしたプレーでしたね。
だから、ずっと日本のラグビーが好きでした。今年は、サンウルブズのプレーと、日本代表のプレーをいつも楽しんで見ています。昔の、1960年代のゲームスタイルに似てきていると感じています。予測できない独特のアタックを志向していて、面白いゲームをする。サンウルブズのゲームも大好きだし、6月の日本代表のイタリア代表とのテストマッチシリーズも良いゲームでした。日本が独自のスタイルを取り戻すこと、つまり予測のつかない型破りな、スピードのあるプレーを続けることで、ゲームスタイルはますますイノベートされて、さらに良いものになると思います。
――フランスのラグビーにはどんな印象がありますか?
昔、子供の時に見ていたフランスラグビーは素晴らしかった。素晴らしい選手がたくさんいましたね。私がオールブラックスで対戦したフランス代表にはブランコ、エステーブ、ラジスケ、セラ、ベルビジェ……たくさんの素晴らしい選手がいました。彼らと対戦できたことは本当にラッキーでした。あのころのフランスはどこへ行っちゃったのかな。プロ化になってからは、正直、あまりにもアングロサクソン的、イングランド的になってしまって、フランスのスタイルが薄れたような気がします。
――お話を伺っていると、ラグビーが本当に好きなことが伝わってきます。
私は本当にラグビーが大好きなんです。ラグビーの文化、プライド、闘争。特にアマチュア時代に培われた文化は大好きです。本当にラグビーを愛しています。
そもそも、私がコーチをするようになったのは、プレーするには歳を取り過ぎたからなんです。だけど私は、自分がプレーできなくなってもラグビーに関わっていたかった。毎週練習して、試合をするチームの一員でいたかった。だからコーチを始めたんです。チームの一員として加わり、選手が上達するための手助けがしたかった。それはラグビーというゲームが好きだったから始めたことであって、今はプロフェッショナルの時代になって私も給料をもらってコーチをしているけれど、気持ちはアマチュア時代と変わっていません。今も週末に試合がなければ、地元のローカルクラブの試合を見に行きます。それが私の人生であり、家族の人生であり、常にそうだったんです。
――今年の神戸製鋼について、注目すべきポイントを教えてください。
私は、勝ち負けにはあまりこだわらないんです。もちろん勝つことは常に目標ではあるけれど、それは結果であり、先のことです。それよりも私が興味を持っているのは、選手自身がクラブのために、仲間のために、ファンのために何ができるのか。フィールドでどれくらい、活力を見せることができるのかということです。ファンのみなさんに、私たち神戸製鋼が、ラグビーをどれだけ愛しているかが伝わることを願っています。ラグビーというゲームが持つ活力、選手がゲームに臨むときの情熱、そういうものがファンに伝わっていることを感じられたらうれしいですね。
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