「バルサスタイル」卒業の新生スペイン プレーメーカー不在で味わった不安

イスコ不在時にはゲームメーカーが不足

イニエスタらが代表を去ったことでスペイン代表は転換期に入った。ルイス・エンリケ監督の手腕が試される 【写真:ロイター/アフロ】

 多くのスペインメディアはルイス・エンリケとの個人的な確執がうわさされているジョルディ・アルバの代表復帰を求めているが、問題は左サイドバックにあったわけではない。この試合で先発したマルコス・アロンソの抜てきは、むしろ新体制におけるポジティブな変化の1つだと言える。

 現チームの問題はイスコの不在時にゲームを組み立て、前線のアタッカーに良い形でボールを供給できる選手がいないことだ。ダビド・シルバ、アンドレス・イニエスタが代表を引退した今、イスコ以外のMFはみな高いテクニックを持ってはいてもタイプの異なる選手ばかりであり、以前と比べてパスワークの流れや精度は大きく落ちている。

 攻撃面に関しても同じことが言える。FW、とりわけストライカーはその時好調な選手を使うのがセオリーであり、今回で言えばドルトムントでゴールを量産しているパコ・アルカセルが最も乗っているストライカーだった。

 そのことは2ゴールを挙げたウェールズ戦の活躍を見れば明らかだったが、ルイス・エンリケは9月のアウェー戦に続いて今回のイングランド戦でも、イアゴ・アスパスとロドリゴ・モレーノを先発起用している。2人は来年のファイナル4や欧州選手権(ユーロ)2020予選に向けてもベースとなる戦力として考えられているのだろう。

 前半だけで3ゴールを挙げたウェールズ戦からわずか4日、逆にスペインは0−3でハーフタイムを迎えることになった。イングランドは最終ラインの守備が安定し、中盤では厳しいプレッシャーを掛け、前線に並ぶ3人がスペースを生かした高精度のカウンターを仕掛けてくるチームだった。

 この敗戦により、スペインがファイナル4に勝ち進むためには、アウェーでクロアチアに勝つことが必須条件となった。ルイス・エンリケはこの試合からいくつかの教訓を得たはずだ。少なくとも現段階ではメンバーを固定して戦うより、好調な選手を試していくべきだろう。何よりCBがスピードに欠け、さらにクリエイティブなゲームメーカーが不在の試合で決定力の高いストライカーを起用しなければ、当初は順風満帆と思われた新体制の歩みは想像以上に困難なものになりかねない。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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