【台湾プロ野球だより】古林睿煬、シーズンMVPを置き土産に「台南から世界へ」

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シーズンMVPに輝いた古林睿煬(統一)。台湾人投手18年ぶりの受賞を置き土産に、日本球界に挑戦する。会場には、おばあちゃんも駆けつけ祝福した 【©CPBL】

 今回は、2024年の台湾プロ野球の年間表彰式と、古林睿煬の北海道日本ハムファイターズ入団に関する話題をお届けしよう。

台湾人投手では18年ぶり、シーズンMVP受賞の古林睿煬は涙のスピーチ

 台湾シリーズ終了後の2024年11月4日、台北市内のホテルで年間表彰式が開催された。投打各タイトル、すでに発表されていたベストナイン、ゴールデングラブ賞などの表彰と共に、カムバック賞、最大成長賞、新人王、年間MVPの発表が行われた。
 
 カムバック賞には、今年3月、40歳を迎える楽天モンキーズの林智平が輝いた。2023年、4試合出場のみに終わった林智平は、2024年シーズンは54試合に出場し、打率.331をマーク。ヒット49本中、二塁打がキャリアハイに近い14本と、「不惑」直前にしてモデルチェンジ。プレーオフでは3試合連続で先発出場を果たした。

 著しい成長をみせたプレーヤーに送られる「最大成長賞」は、セーブ王に輝いた陳柏豪(楽天)が受賞した。FA移籍した陳俊秀(中信兄弟)の人的補償で移籍も、抑え不在に頭を悩ましていた古久保健二監督がクローザーに抜擢すると、52試合に登板し29セーブをマーク。キャリアハイの成績を挙げ、チームメイトの荘昕諺(楽天)、曽頌恩(中信兄弟)のプレミア12代表2人を大きく上回り、「最大成長賞」をつかんだ。高卒2年目から一軍ブルペン入りも、近年は一軍登板数が減り、2023年の冬はアジアウインターリーグでプレー、25人プロテクト枠から漏れていた25歳右腕の再起は、他チームのくすぶっている若手選手にも大きな刺激を与えたことだろう。

 新人王の候補3人は、いずれも、2024年シーズンから台湾プロ野球に参入した第6の球団、台鋼ホークスの選手であった。参入初年度のドラフト1巡目1位指名、リーグ7位の123安打をマークした21歳の正遊撃手、曽子祐、チーム2位の6勝をあげたプレミア12代表左腕の陳柏清、そして、チーム2位、打率.283をマークした一塁兼外野手の王博玄がノミネートされ、曽子祐が選ばれた。埼玉西武ライオンズの秋季キャンプに参加中だったものの、「一生に一度の機会」と一時帰国を申し出た曽子祐は、新人王獲得に満面の笑顔をみせた。
 
 そして、最大の注目、年間MVPは、リーグ3位の10勝、防御率1.66で最優秀防御率賞に輝いた統一セブンイレブンライオンズの古林睿煬、14勝で最多勝、167奪三振で最多奪三振を獲得したプレミア12ベネズエラ代表のマリオ・サンチェス(統一)、そして、30HR、99打点をマークし打撃二冠王に輝いた台鋼の主砲、日本でもおなじみのスティーブン・モヤがノミネートされたなか、名実共に統一のエース、リーグを代表する投手へと成長を遂げた古林睿煬が受賞した。台湾人投手の年間MVP獲得は、東北楽天ゴールデンイーグルスでもプレーした2006年の林恩宇(誠泰コブラス)以来、実に18年ぶりという快挙であった。
 
 多くの受賞選手が家族への思いを語ったこの日の表彰式、古林睿煬は受賞スピーチで、プロ入りを果たした2018年、祖父と父が相次いで他界したことに触れ、「今、この場所に立てているのは、当時、投手コーチとして自分の育成役となってくれた林岳平監督のお陰です。自分にとって林監督は指導者という存在のみならず、第二の父親のような存在です」と感謝。そして「なかなかいいパフォーマンスができず、自信を失いかけたこともありましたが、林監督は先発として独り立ちできるよう、何度もチャンスを与えてくれ、厳しい声からも守ってくれました。MVP受賞を林監督、そして天国の祖父と父が誇らしく思ってくれると嬉しいです」と涙ぐみながら語った。

 海外球界でのプレーを目指したポスティングシステムへの申請が、リーグから発表された直後に行われたこの日の表彰式。「今後どこでプレーをするにしても、この栄誉を胸に自分への挑戦を続けていきます」という決意表明でスピーチを締めた古林に、大きな拍手が送られた。

2024年シーズンのタイトルホルダー一覧。林立(楽天)は脳震盪の影響で約2カ月弱欠場も、シーズン終盤、規定打席に到達。陳傑憲(統一)をかわし、自身3度目の首位打者に輝いた 【©CPBL】

「台南から世界へ」、統一・林岳平監督や高校のチームメイト、ファンが祝福

 北海道日本ハムファイターズは11月12日、古林睿煬の優先交渉権獲得を、そして20日には契約合意を発表した。11月26日、台北市内で行われた記者会見には、ファイターズからは栗山英樹CBOと岩本賢一チーム統轄副本部長が、統一からは凃忠正・董事長、林岳平監督が出席した。プレミア12で投手コーチをつとめた林監督は、同日行われた優勝祝賀パレードを欠席してかけつける形となった。

 林監督にとって古林は、現役引退の翌年、指導者初年度の2018年に預かり、怪我のリハビリを皮切りに、手塩にかけ育ててきた思い入れの深い選手だ。林監督は、何度も言葉をつまらせながら「古林をエースに育て、海外へ送り出せたことは、自分にとっては、先日のプレミア12の世界一よりも誇らしい」と語った。

 これに対し、栗山英樹CBOは「ここまで育ててくださったライオンズの皆さん、林監督の思いを受け止めながら、古林投手がさらに成長するよう、我々も全力を尽くし精一杯やっていきます」と宣言、そして「僕は世界で一流のピッチャーとやりたいという考えをもっていますが、この数年、古林投手の成長、頑張りを見て、是非ともファイターズで一緒にやりたいと思うようになった」と獲得理由を説明した上で、台湾のファンに向け「皆さんに喜んでもらえるよう、必ずや世界で一流のピッチャーになってくれるためのお手伝いをしますので、これからも是非応援をお願いします」と訴えた。

 「GU LIN 37」と書かれたユニフォームを栗山CBOから着せてもらい、帽子を被った古林は笑顔をみせた。その後、会場に流されたビデオメッセージでは、まず、スーツに身を包んだ新庄剛志監督が登場、古林夫妻のみならず、おばあちゃんにも「お孫さんは僕にまかせてください」と胸を叩き、強力バックアップを約束すると、続いてエースの伊藤大海投手が「北海道、そしてファイターズの環境に慣れることができるよう、僕たちもサポートします」と語った。そして、次に登場したのは、古林にとって少年時代からの憧れであるダルビッシュ有投手(パドレス)だった。「いつか一緒にプレーしたいです。まずは一度、一緒に練習しましょう。頑張ってください」と激励を受けた古林は、興奮を隠しきれない様子だった。

 統一関係者に加え、小中高時代の指導者も一同に介したこの日の記者会見。古林はまず、高校までの各指導者の名前をひとりひとり挙げながら「皆さんの存在なしに、今の自分はなかった」とお礼、そして台湾プロ野球を運営するCPBLの蔡其昌・コミッショナー及び全6球団の努力にも感謝、現在、台湾の多くの高校生プロスペクトが卒業後、直接海外リーグに挑戦するなか、台湾プロ野球経由でチャンスをつかんだ自らを例に挙げ、「国内の高校生には『台湾からも優れた選手を生むことはできる、異なるルートもある』ということを伝えたい」と、熱く語った。

 12月7日には、統一の本拠地、南部・台南市の台南球場のグラウンドで、歓送イベントが開催された。至る所に「台南から世界へ!」と日本語のスローガンが書かれた同イベントでは、トークショー、Q&Aのほか、サイン会も行われ、2000人近いファンがかけつけ盛り上がりをみせた。11月26日の記者会見に続き、この日も、小中高のチームメイトでプレミア12代表の戴培峰(富邦ガーディアンズ)ら、高校(平鎮高中)の同期や後輩がシークレットゲストとして登場、古林は「またお前らか、飽きたよ」と憎まれ口を叩きつつ、旧友からの祝福を喜んでいた。

 高校つながりでは、興味深い話題もある。今回、ファイターズで古林の通訳に就任することとなった高麗諒氏は元日本人留学生で、高校時代のチームメイトだ。平鎮高中は、現役の台湾プロ野球選手が50人、高校別人数でトップの強豪だけに、在学時代には、現在プロでプレーする面々と、「もし将来、日本に行くことになったら通訳をするよ」と話していたという。2023年の秋、アジアプロ野球チャンピオンシップの日本戦で古林が好投をみせた際も、冗談半分でその話をしていたそうだが、今回、ファイターズ入りが決まると、古林はただちに高麗氏を通訳に指名、岩本副本部長の協力もあり、通訳就任が正式に決定したという。古林は「新たな環境でプレーするうえで、ファイターズさんが自分にとって近しい存在である彼を通訳にしてくれたことを感謝しています」と話した。

 また、高校時代の2017年の冬、招待大会で来台した千葉県選抜チームに、現在ファイターズの田宮裕涼選手と清宮虎多朗投手がおり、決勝で平鎮高中と対戦。先発した古林と、主将で5番捕手として出場した田宮選手が対決したことも話題となっている。古林本人にその記憶があるか尋ねたところ、「人から教えてもらったんですが、その対決自体は覚えていないんですよ」と苦笑い。そのうえで「でも、不思議な縁ですよね。ぜひ仲良くなってバッテリーを組み、チームにたくさんの勝利をもたらしたいと思います」と期待した。
 
 マウンド上では負けん気の強さをみせつつ、シャイでマイペースな一面もある古林睿煬。幼少時代から一緒に暮らしたおばあちゃん思いの優しい性格の持ち主で、台湾同様、日本でもきっとファンから愛されるはずだ。外国人選手に対するケアは厚く、ムードのいいファイターズだが、それでもやはり、異なる環境でのプレーは苦労もあるだろう。そんな時は、きっと皆さんの温かい声援が力になるはずだ。日台のファンの声援を力に、エスコンフィールドのマウンドで躍動する日が今から楽しみだ。

文・駒田英(情報は1月19日時点のもの)
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