「ポスト・バルサ時代」を迎えたスペイン エンリケが進める変化への第一歩
バルサとスペイン代表が辿る変化の道
バルセロナとスペイン代表は、同じような変化の道をたどっている 【写真:ロイター/アフロ】
フランク・ライカールト時代の初期から顕著(けんちょ)になり、ジョゼップ・グアルディオラとティト・ビラノバによって推進されていった「ポゼッション至上主義」と言える傾向は、ビラノバの後を継いだヘラルド・マルティーノの指揮下で、ゆっくりと衰退しはじめていた。アストゥリアス出身の現スペイン代表監督がバルセロナの再生を託されたのは、そんなタイミングでのことだった。
当時のバルセロナは少しずつ、縦に素早くボールを運ぶチームへと変貌していった。その傾向はエルネスト・バルベルデに監督が代わった後も大きく変わってはいないが、それは監督の意志という以上に、シャビ・エルナンデスやアンドレス・イニエスタといったタレントを持つ選手が次々とチームを去っていったことに起因していた。
そのバルセロナに大きな影響を受けてきたスペイン代表もまた、同様の流れで変化の道をたどってきた。
ルイス・アラゴネスが確立し、ビセンテ・デルボスケが継続してきたショートパス主体のポゼッションスタイルには、2度の欧州選手権(ユーロ)とワールドカップ(W杯)を連続で勝ち取る成功に加え、世界中のフットボールファンを魅了するだけの力があった。だがバルセロナの衰退と同様に、いやリオネル・メッシがいない分だけ、より急速に「ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)」のフットボールにも陰りが見えはじめた。14年のW杯ブラジル大会、ユーロ2016の早期敗退は、その代償だったと言える。
多くのアタッカーを起用し、ゴールに向かってプレー
新たに台頭したイスコ(写真)を中心に、チームを再編していくことが求められる 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
ロペテギが率いた2年間、スペインは再びポゼッションスタイルに磨きをかけつつ、段階を踏んで世代交代を進めてきた。そしてルイス・エンリケの就任により、その流れはさらに加速した感がある。
スペイン代表の黄金期を支えてきたラ・マシア育ちのスペイン人選手が減り、他クラブから買い集めた大物外国人がバルセロナに増えてきたことも、ラ・ロハの変革を促す一因となっている。
シャビやイニエスタ、セスク・ファブレガス、ジェラール・ピケ、ダビド・シルバらが代表を去った以上、異なる選手を用いて以前と全く同じプレーを続けることは不可能だ。これからは新たに台頭したイスコやマルコ・アセンシオ、サウール・ニゲス、ロドリゴ・エルナンデス、ロドリゴ・モレーノらを主役としたフットボールを模索しなければならない。
今もボールを丁寧に扱うというプレーコンセプトは健在だ。テクニックに優れた選手を多く抱えている以上、今後も方向性が大きくブレることはないだろう。しかし、もはやスペイン代表の試合において、ボールポゼッションは絶対ではなくなった。より多くのアタッカーを起用し、ゴールに向かってプレーする。そんな指揮官の意思は、初采配を振るった2試合でも見て取ることができた。
以前のスペインは4−1−4−1を基本システムに、5人のMFたちがボールを左右に動かし、プレーリズムに変化を加えながらライバルの守備陣に揺さぶりをかける遅攻を主としていた。
その際、前線でフィニッシュ役を担うのは1人のセンターFWのみで、他の選手たちは、はじめから前線にいるのではなく、2列目からゴール前に侵入することでフィニッシュに絡んでいた。だが、現在のスペインはより多くのストライカーを前線に配置し、時に4−4−2や3−5−2に近い形に変化しながら、攻撃を仕掛けるようになっている。