ラグビー界の“特別な才能”山沢拓也 今後の日本代表選出の可能性は…
自陣インゴールから見せたスーパープレー
東芝戦で素晴らしいパフォーマンスを見せたパナソニックSO山沢拓也 【斉藤健仁】
9月15日、トップリーグの第3節、王者奪還を狙うパナソニックがフィジカルラグビーが売りの東芝と激突。ランニングやキックを交えてフィールドを駆け抜けて、スキルと判断力の高さを見せつけたのは野武士軍団の司令塔のSO山沢だった。
前半23分、山沢はグラバーキックからチャンスを作り、自らトライとゴールを決めると、圧巻だったのは34分だった。自陣で奧深くまで攻められたが、味方がラックでボールを奪い返すとインゴールでパスを受けた山沢が、通常ならタッチキックを蹴るところをランで仕掛ける。「外からもボールを回してというコールがあったので『ちょっと攻めよう』という意識で前を見たときにスペースがあると思ったのでいきました」
相手のディフェンスラインのギャップをチームも山沢も見逃さなかったというわけだ。50m走6.0秒というスピードが武器の山沢は一気に加速して70メートルを走り、最後は少し内に切って相手を自分に寄せてから、左足で右中間にボールを転がした。
山沢は冷静だった。相手にタックルされる前に首を振って、味方のWTB山田章仁を確認していた。「自分がタックルされたのが最後のディフェンダーで、自分はちょっと疲れちゃって『任せた』と。アキさん(山田)がいるのがわかったので、アキさんの走力にかけた。トライが取れて良かった」と破顔した。
ディーンズ監督「一人が山沢、もう一人はカーター」
山田のトライをアシストした場面では、自陣インゴールから独走し、相手を引きつけてからキックパスを通した 【斉藤健仁】
試合後、スーパーラグビーで5度優勝を経験しているパナソニックのロビー・ディーンズ監督は手放しで山沢を褒めた。
「今週末、2人のワールドクラスのSOがプレーしたと思います。一人が山沢、もう一人が(元ニュージーランド代表で前日に神戸製鋼デビューした)ダン・カーターです。山沢は間違いなく才能を与えられた、ほかの選手ができないことができるプレイヤーだし、いろいろなプレッシャーの中でもチームのために必要な状況判断がどんどんできてきている、成長している選手だと思います」
かつてクルセイダーズでカーターをプロ選手として見出した名将は、山沢を、その世界最優秀選手賞を3度受賞したレジェンドと遜色ない選手として並び称した。
高校時代に日本代表合宿参加も、ケガが続く
ケガが多く、日本代表には定着できていない 【斉藤健仁】
しかし、2014年春、ジュニア・ジャパンの遠征で左膝のじん帯を断裂。復帰したものの、また同じ場所を痛めるなどケガに泣き、2015年度は試合に出場することがかなわなかった。「よりレベルの高い場所で」と、2016年、筑波大学4年時からトップリーグでプレーするという前例のない形でパナソニックに入団した。
昨春は、アジアを戦う若き日本代表に選出され3キャップを獲得したが、その後は代表に呼ばれても出場はかなわず、サンウルブズに参加することもなかった。ただ山沢は今年2月から4月までは、スーパーラグビーで2連覇を達成したクルセイダーズに留学し研鑽を積んだ。同時期にニュージーランドに遠征していた日本代表に準じるジャパンAに選ばれるのでは、と期待していた。
だが山沢は3月末には左肩を負傷し、さらに6月には左膝を痛めており、本格的に復帰したのは8月のことだった。元オーストラリア代表SOベリック・バーンズが負傷したこともあり、今年はトップリーグの開幕から10番を背負った。