ラグビー界の“特別な才能”山沢拓也 今後の日本代表選出の可能性は…

斉藤健仁

「不安を抱えないようにするのが一番」

プレースキックも担当し、チームの中心選手として活躍している 【斉藤健仁】

 久しぶりの先発となった8月31日の開幕戦、パナソニックは15対11とでクボタに勝利したが、山沢は司令塔としてゲームをコントロールすることができなかった。それでも「開幕戦から出られたことは自分にとってはいいこと。今年は試合にたくさん出ていい経験ができるようにしたい」と前を向いた。

 すると第2節では、雨の中でもスキルの高さを見せつつ、タクトを握った山沢は勝利に大きく貢献し、復調して迎えたのがこの第3節だった。以前まで山沢は試合後、「今日は全然ダメでした」、「いいところはほとんどなかった」とネガティブな言葉を並べることがほとんどだった。チームを引っ張るSOとしての責任感と、常に自分自身に高いレベルを要求していることの裏返しでもあった。

 ただ今年の山沢は自身が持っているスキルと判断が噛み合い、2節、3節では高いパフォーマンスを披露した。好調の理由を本人に聞くと「考えても実際に試合になるとどうなるかわからないですし、きりがないのですが、不安になって緊張し過ぎていた。何かするから緊張するので(今年は試合前に)あまり考え過ぎず、不安を抱えないようにするのが一番。周りにすごい選手がいるので迷ったらほかの選手に聞いて、その人たちの判断に任せて、自分で全部背負わないようにしている」と心の持ち方を変えたことを要因に挙げた。

 ディーンズ監督の「(今年の)山沢はパナソニックで、チームメイトのためにプレーすることを楽しんでいると思います」という言葉とも重なる。

ディフェンス面でも成長

東芝戦では独走するリーチ マイケル(右)に追いつき、タックルで倒すなど、ディフェンス面でも成長している 【斉藤健仁】

 トップリーグ3年目を迎え、山沢はタックルでも身体を張るようになり、ディフェンス面でも成長の跡を見せた。一人で背負うことなく、周りの選手の声を聞きつつチームとして戦っている。日本代表やトップリーグで自分のパフォーマンスを出せなかったことの悔しさ、世界選抜やクルセイダーズで世界トップの選手で触れたことが、選手として、SOとして一皮むけさせることにつながった。

 ディーンズ監督は2年前から、「育成と強化」を同時に行いつつ「チームとして機能することが一番大事です。コーチの仕事としては選手が十分にパフォーマンスを発揮できる状況を作ること、そしてそれを妨げないこと」という哲学で山沢らをコーチングしてきたことが花開いた。

19年ワールドカップは「目指すべきところ」

19年ワールドカップに向けて、トップリーグでのアピールが続く 【斉藤健仁】

 当然、高いパフォーマンスを見せた10番にファンが期待するのは、桜のジャージへの復帰だ。だが、9月24〜27日に和歌山で行われる日本代表候補合宿に、残念ながら山沢の名はなかった。開幕節を見ると、まだまだSOとして試合をオーガナイズするという点では不満があるのかもしれない。2019年ワールドカップを1年後に控えて、経験値のある選手、そして複数ポジションでプレーできる選手が優先されたと言えよう。

 ただ日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHCは昨年、山沢を「若くポテンシャルがある」、「あくまでも『チームパーソン』ではなくてはいけませんが、ビックゲームを勝利するには彼のような『Xファクター』が必要」とも評していた。代表候補合宿メンバー47人の中で専門のSOが田村優(キヤノン)のみという現状を考えれば、山沢が今回のようなパフォーマンスを続けさえすれば、2019年への可能性は残っているはずだ。

 山沢はワールドカップに関して「変に考え過ぎないようにしたいですが、ラグビーをやっている以上、目指すべきところ」と言いつつも、「現時点では代表のスコッドにも入っていないので、やれることはトップリーグでいいパフォーマンスをしてアピールすること」と今後も謙虚かつ自然体で、司令塔として、まずはチームのためのプレーを続ける。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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