次なるスナイデルか、ベッケンバウアーか アヤックスが生み出した新時代のMF

中田徹

敵、味方、ボール、空間、数秒後の世界を同時に見られる男

オランダ代表とアヤックスで将来を嘱望されるフレンキー・デ・ヨング 【Getty Images】

 フレンキー・デ・ヨングは、水面を自由に泳ぐミズスマシのように、ピッチの上を自由に走る。ミズスマシは4つの目で水上と水中を同時に見ることができる。デ・ヨングもまた、敵、味方、ボール、空間に加え、数秒後の世界を同時に見ることができる。

 だから、彼がAに出した、一見、何の変哲もない縦パスには意味がある。AはサイドのBにパスをはたき、BとCがワンツーでサイドを崩し、CのクロスがDに通ってゴールが決まったとき、「ああ、なるほど」とわれわれはデ・ヨングの縦パスに感嘆の声をあげるのだ。

 現在21歳のデ・ヨングがセンセーションを起こしたのは2017年12月10日、アムステルダム・アレーナ(現ヨハン・クライフ・アレーナ)で行われたアヤックス対PSVの試合だった。

 センターバック(CB)として先発したデ・ヨングは、最終ラインでボールを持つとパス、ドリブルを使って中盤へ、時にはアタッキングサードへとポジションを上げていった。PSVは2人、3人がかりでプレスをかけるのだが、デ・ヨングはフェイントを駆使してかわしていき、中盤に生まれたスペースへ、スイスイとボールを運んでいく。その勇敢さ、洗練されたテクニック、ダイナミックな走り、クレバーなプレーに、ファンは喝采を送った。

「ベッケンバウアーの改良バージョン」

アヤックスOBで新旧代表監督でもあるR・クーマンやブリントを思わせるリベロ 【Getty Images】

 3−0でアヤックスが完勝した、この試合。オランダのメディアは「フレンキー・デ・ヨングがPSVをぶっ壊した」と報じた。

 PSV戦でファンを魅了した彼のパフォーマンスは、「ノスタルジーを誘うモダンなリベロ」といった感じだった。

 12月12日付け『アルヘメーン・ダッハブラット』紙のスポーツ欄一面は「最終ラインから中盤にボールを持ち上がるスタイルは、ウイングシステム同様、アヤックスのDNAにあるものだ」と記し、アリー・ハーン、ロナルド・クーマン、ダニー・ブリント、フランク・ライカールト、そしてフレンキー・デ・ヨングのプレー写真を並べた。記事の中でハーンは「言ったら笑うかもしれないけれど、彼はフランツ・ベッケンバウアーの改良バージョンだ」とコメントしている。

 最終ラインから一列上がればコントロールMFとなり、さらに一列上がれば“10番”になる。そんなデ・ヨングの姿を昨シーズン、私たちは頻繁に見てきた。

 今から10年ほど前、かつての名選手であり現解説者のウィーレム・ファン・ハネヘムは「オランダ代表は後方からのボールデリバリーを良くするため、ウェスリー・スナイデルをリベロに置くべきだ」とコラムにしたためていた。170センチのスナイデルだが、ファン・ハネヘムは「そんなもの、彼の読みでカバーできる」とも書いていた。もしかしたらデ・ヨングは、ファン・ハネヘムのアイデアを具現化してしまったのかもしれない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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