次なるスナイデルか、ベッケンバウアーか アヤックスが生み出した新時代のMF

中田徹

スナイデルの引退試合はデ・ヨングのファーストマッチ

まるで運命に導かれたように、スナイデルの引退試合で代表デビュー 【Getty Images】

 デ・ヨングは180センチとCBとしては小柄なこともあって、今季はMFに専念している。アヤックスがチャンピオンズリーグ(CL)の予選でシュトルム・グラーツ、スタンダール・リエージュに対して、プレーオフでディナモ・キエフに対して圧巻の内容で勝ち上がっていった中、デ・ヨングは相変わらずのセンスの良さと、デュエルの強さを発揮し続けていた。

 デ・ヨングに対するオランダ国内の期待は高まっている。9月6日(現地時間、以下同)の親善試合、オランダ対ペルーはスナイデルの代表引退試合を兼ねていたが、オランダでは戦前から「スナイデルのラストマッチは、フレンキー・デ・ヨングのファーストマッチ」とうたわれていたのだ。

 ベンチスタートだったデ・ヨングは、大拍手に迎えられて後半開始からピッチに送り出された。

 58分48秒、ヨハン・クライフ・アレーナが「ウェスリー、ウェスリー」とスナイデルを称えるチャントを歌い出し、場内が一斉に盛り上がった。その数10秒後、デ・ヨングがスルーパスがメンフィス・デパイのゴールをアシストし、オランダが1−1の同点に追いついた。そして、ペルーのキックオフで試合が再開される寸前に、スナイデルがスタンディングオベーションを浴びながらベンチに退いた。

アヤックスとデ・ヨングはCLで輝けるか

アヤックスのCL予選プレーオフ突破に貢献。本戦でも輝けるか? 【Getty Images】

 2−1でオランダが勝利したペルー戦から3日後、私はスタッド・ドゥ・フランスで『アルヘメーン・ダッハブラット』紙のマールテン・ワイフェルス記者に「ペルー戦の60分。フレンキー・デ・ヨングのアシスト。そして、スナイデルの交代――。この1分間は、オランダサッカー界にとって何らかのシグナルになるか?」と尋ねた。

「そうなるかもしれない」と、マールテンは答えた。

「マタイス・デ・リフト(19歳/アヤックスのCB)とフレンキー・デ・ヨング……やっと、オランダにも世界レベルのタレントが出てきたね」と私が続けた。

「あと3人ぐらい、そういった選手が欲しいよね。スティーブン・ベルフワイン(20歳/PSVのFW)は未知数だけれど、その可能性を大いに秘めている。ただ1つ、気になるのは、デ・ヨングはもう21歳だということ。スナイデルは21歳の時に、確かオランダ代表で30試合ぐらいはこなしていたはず。それに比べるとデ・ヨングはちょっと遅いよね」

 記録を調べると、21歳までにスナイデルはオランダ代表キャップ「18」を数えていた。しかも、19歳の時にスコットランド戦で1ゴール3アシストを決めて、オランダの絶体絶命のピンチを救ってユーロ(欧州選手権)2004予選突破のヒーローになっていた。

 しかし、「時代は変わった」とも考えられる。今もアヤックスにはジュスティン・クライファート(現ローマ)やデ・リフトのようにティーンエイジャーから華々しく活躍する選手がいる。一方で近年のアヤックスはリザーブチームが機能してオランダ2部リーグで好成績を残している(昨季は優勝)から、そこで経験を積んでからトップチームで活躍すればいい。アブドゥルハーク・ヌーリはそのモデルケースになるはずだった……(※編注:昨年7月に不整脈でピッチで倒れ、脳に重い損傷を負ってしまった)。


 結局、試合はフランスが2−1で勝った。ここ4年、オランダとフランスは頻繁に対戦をしているが、これでオランダの5連敗だ。『レキップ』紙はオランダの選手に採点3、4、5と軒並み落第点を付けたが、デ・ヨングのみ「6」の及第点を与えた。自陣でプレッシングをかけられても、フェイントやストップでひと呼吸ついてから角度やスペースを作り、ボールを前にデリバリーするスキルは、フランス戦でも際立っていたのだ。

 間もなく開幕するCLでアヤックスが、そしてフレンキー・デ・ヨングが、どれだけ欧州の舞台で暴れるか、私は楽しみにしている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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