“ピッチの監督”として輝いたスナイデル カオスの中、オランダがW杯予選でドロー

中田徹

チームとして“弱者”のオランダ

スウェーデン戦では、プレーイングマネジャーを務めたスナイデル(中央)が主役となった 【写真:ロイター/アフロ】

 現地時間6日に行われたワールドカップ(W杯)欧州予選の第1節、スウェーデン対オランダの前半43分、MFケビン・ストロートマンが軽率なプレーでボールをロストし、それがダイレクトに失点につながった時、私は「何度、こいつら(=オランダ代表)はトップチームにあるまじきミスをしでかして、失点することを繰り返すのだ!!」と絶望した。ハーフタイムの15分間、私はこの世の終わりのように情けない思いで過ごしていた。

 しかも、後半立ち上がり早々にも、オランダは右サイドバックを務めたダリル・ヤンマートのマークミスから大ピンチを招いていた。彼はちょうど2年前、ユーロ(欧州選手権)予選の初戦、対チェコ戦で1−2の敗因となるバックパスミスをした選手だった。チェコ戦以降、オランダは不用意なミスから自滅し負けるパターンを繰り返し、ユーロ予選の第8節ではトルコ相手に0−3という歴史的惨敗を喫したのだった。

 ユーロ予選のライバルを振り返ると、グループAでアイスランドだけはチームとして完成期を迎えていたが、チェコ、トルコもオランダ代表同様、チームの過渡期を迎えていた。選手個々の力量を比べた場合、オランダがこの2つの国に対して劣っているということはなかった。むしろ優っていただろう。しかし、チームとしてオランダは“弱者”だった。

 その思いは、1−2で敗れた1日のギリシャとの親善試合でも変わらなかった。今のオランダにはビッグネームこそいないけれど、選手の素材は相手チームを上回っている。だが、センターバックのトラップミスからカウンターを食らってピンチを招き、左サイドバックがマークしている選手を追うのをやめて失点する――何とも締まりのない試合をしてしまうのだ。この自滅癖が、この日のスウェーデン戦でも顔をのぞかせた。

 だが、今回のオランダはスウェーデン相手に1−1で踏みとどまった。主役となったのは左サイドで“偽のウインガー”を務め、チームに中盤の厚みを作ったウェスレイ・スナイデルだった。

スナイデルに託された“ピッチ上の監督”の役割

アディショナルタイムにはバス・ドスト(22)のゴールが取り消された 【写真:ロイター/アフロ】

 前回のコラムで著した通り、8月半ば以降のオランダはディック・アドフォカートコーチが就任からわずか3カ月で退任したのを皮切りに、マルコ・ファン・バステンコーチ(後任コーチが見つからなければ11月のルクセンブルク戦までベンチに入ることになった)、オランダのレジェンドであるルート・フリット、20年間チームマネジャーを務めたハンス・ヨリツマ、KNVB(オランダサッカー協会)の代表チーム責任者ベルト・ファン・オーストフェーンディレクターを絡めた人事スキャンダルが起こっていた。オランダではこれを「オランイェのカオス」と呼んでいる。

 8月末、ブリント監督はスナイデルに「試合に出られないことがあっても、チームのけん引役を務めて欲しい」と語り掛けて新チームの主将に任命し、彼はこれを快諾した。『アルへメーン・ダッハブラット』紙のマールテン・ワイフェルス記者は、32歳になったベテランMFスナイデルの新たな役割を“プレーイングマネジャー”と解説した。アドフォカートコーチが去り、ファン・バステンコーチの退任も決まり、ブリント監督はスウェーデン戦で代表123回目となるスナイデルに、“ピッチ上の監督”となることを要求したのだ。

 嫌な時間帯に失点し、後半立ち上がりにも大ピンチを招いたオランダだったが、その後は顔を上げて勇敢に戦い、ワンサイドゲームと言ってもいいほど、敵地でスウェーデンを押し込んだ。近くにスナイデルがいれば、チームメートは簡単にボールを彼に預けて、そこからパスが散らばり、クロスがスウェーデンをえぐった。後半22分にはヤンマートの左足シュートのこぼれ球を、スナイデルが蹴り込み、オランダは1−1の同点に追いついた。

 オランダの猛攻はとどまることを知らない。アディショナルタイムにはヤンマートのクロスを、途中出場のストライカー、バス・ドストがヘディングでゴール。しかし、このゴールは、ドストがマーカーを押したらしく取り消されてしまった。

「今日のレフェリーは素晴らしい笛を吹いていたが、彼はとんでもないミスを犯した。紛うことなきゴールだった」(ブリント監督)

「自分は間違いなくゴールだったと思う。ヘディングには常に押し合いへし合いがつきもの。あれを反則としてとるなら、もっと笛が吹かれていいはず」(ドスト)

 テレビの解説を務めたユリ・ムルダーやピエール・ファン・ホーイドンクも「間違いなくゴール」と断言した。

オランダはグループ2位になる力は十二分にある

 オランダがスウェーデン相手に放ったシュートは24本。うち16本を後半に集中させたが、結局1点どまりだった。

「3−1、4−1で勝ってもおかしくなかった試合。フランスが引き分けただけに(ベラルーシと0−0)、勝ち点3を取ってリードしておきたかった」(ブリント監督)

「今日、勝利に価したチームはただひとつ。それはわれわれだ。しかし、運はうちにほほ笑まなかった」(スナイデル)

 この試合を見てあらためて思う。フランスだけは別格かもしれないが、オランダの選手個々は、決して相手チームに劣っていないと。スウェーデンも、イブラヒモビッチが去った後のチームビルディングに悩みを抱えているのだ。ユーロ予選から今も続く自滅の連鎖さえストップすることさえできれば、オランダはグループ2位(それからプレーオフを戦う必要がある)になる力は十二分にある。

 最近のオランダ代表の体たらくぶりにファン・ハールをコーチ(もしくはアドバイザー)として招く待望論や、外国からオランダサッカーをよく知る人物(モアテン・オルセン、ヤリ・リトマネン)がチームに加わることを望む声も上がり始めている。

 そんなカオスの中で行われたスウェーデン戦は、スナイデルがプレーイングマネジャーとして真価を発揮した試合だった。アドフォカートのように3カ月で辞める、代表チームへのロイヤリティーのないコーチより、ピッチの上のスナイデルの方が指導者としてふさわしい振る舞いを見せている。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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