“ピッチの監督”として輝いたスナイデル カオスの中、オランダがW杯予選でドロー
チームとして“弱者”のオランダ
スウェーデン戦では、プレーイングマネジャーを務めたスナイデル(中央)が主役となった 【写真:ロイター/アフロ】
しかも、後半立ち上がり早々にも、オランダは右サイドバックを務めたダリル・ヤンマートのマークミスから大ピンチを招いていた。彼はちょうど2年前、ユーロ(欧州選手権)予選の初戦、対チェコ戦で1−2の敗因となるバックパスミスをした選手だった。チェコ戦以降、オランダは不用意なミスから自滅し負けるパターンを繰り返し、ユーロ予選の第8節ではトルコ相手に0−3という歴史的惨敗を喫したのだった。
ユーロ予選のライバルを振り返ると、グループAでアイスランドだけはチームとして完成期を迎えていたが、チェコ、トルコもオランダ代表同様、チームの過渡期を迎えていた。選手個々の力量を比べた場合、オランダがこの2つの国に対して劣っているということはなかった。むしろ優っていただろう。しかし、チームとしてオランダは“弱者”だった。
その思いは、1−2で敗れた1日のギリシャとの親善試合でも変わらなかった。今のオランダにはビッグネームこそいないけれど、選手の素材は相手チームを上回っている。だが、センターバックのトラップミスからカウンターを食らってピンチを招き、左サイドバックがマークしている選手を追うのをやめて失点する――何とも締まりのない試合をしてしまうのだ。この自滅癖が、この日のスウェーデン戦でも顔をのぞかせた。
だが、今回のオランダはスウェーデン相手に1−1で踏みとどまった。主役となったのは左サイドで“偽のウインガー”を務め、チームに中盤の厚みを作ったウェスレイ・スナイデルだった。
スナイデルに託された“ピッチ上の監督”の役割
アディショナルタイムにはバス・ドスト(22)のゴールが取り消された 【写真:ロイター/アフロ】
8月末、ブリント監督はスナイデルに「試合に出られないことがあっても、チームのけん引役を務めて欲しい」と語り掛けて新チームの主将に任命し、彼はこれを快諾した。『アルへメーン・ダッハブラット』紙のマールテン・ワイフェルス記者は、32歳になったベテランMFスナイデルの新たな役割を“プレーイングマネジャー”と解説した。アドフォカートコーチが去り、ファン・バステンコーチの退任も決まり、ブリント監督はスウェーデン戦で代表123回目となるスナイデルに、“ピッチ上の監督”となることを要求したのだ。
嫌な時間帯に失点し、後半立ち上がりにも大ピンチを招いたオランダだったが、その後は顔を上げて勇敢に戦い、ワンサイドゲームと言ってもいいほど、敵地でスウェーデンを押し込んだ。近くにスナイデルがいれば、チームメートは簡単にボールを彼に預けて、そこからパスが散らばり、クロスがスウェーデンをえぐった。後半22分にはヤンマートの左足シュートのこぼれ球を、スナイデルが蹴り込み、オランダは1−1の同点に追いついた。
オランダの猛攻はとどまることを知らない。アディショナルタイムにはヤンマートのクロスを、途中出場のストライカー、バス・ドストがヘディングでゴール。しかし、このゴールは、ドストがマーカーを押したらしく取り消されてしまった。
「今日のレフェリーは素晴らしい笛を吹いていたが、彼はとんでもないミスを犯した。紛うことなきゴールだった」(ブリント監督)
「自分は間違いなくゴールだったと思う。ヘディングには常に押し合いへし合いがつきもの。あれを反則としてとるなら、もっと笛が吹かれていいはず」(ドスト)
テレビの解説を務めたユリ・ムルダーやピエール・ファン・ホーイドンクも「間違いなくゴール」と断言した。
オランダはグループ2位になる力は十二分にある
「3−1、4−1で勝ってもおかしくなかった試合。フランスが引き分けただけに(ベラルーシと0−0)、勝ち点3を取ってリードしておきたかった」(ブリント監督)
「今日、勝利に価したチームはただひとつ。それはわれわれだ。しかし、運はうちにほほ笑まなかった」(スナイデル)
この試合を見てあらためて思う。フランスだけは別格かもしれないが、オランダの選手個々は、決して相手チームに劣っていないと。スウェーデンも、イブラヒモビッチが去った後のチームビルディングに悩みを抱えているのだ。ユーロ予選から今も続く自滅の連鎖さえストップすることさえできれば、オランダはグループ2位(それからプレーオフを戦う必要がある)になる力は十二分にある。
最近のオランダ代表の体たらくぶりにファン・ハールをコーチ(もしくはアドバイザー)として招く待望論や、外国からオランダサッカーをよく知る人物(モアテン・オルセン、ヤリ・リトマネン)がチームに加わることを望む声も上がり始めている。
そんなカオスの中で行われたスウェーデン戦は、スナイデルがプレーイングマネジャーとして真価を発揮した試合だった。アドフォカートのように3カ月で辞める、代表チームへのロイヤリティーのないコーチより、ピッチの上のスナイデルの方が指導者としてふさわしい振る舞いを見せている。
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