「心から応援できる日本代表」と再会 コスタリカとの初陣をしたたかに制す

宇都宮徹壱

いつもとは明らかに様子が異なる初陣

チリ戦が中止となったため、森保新体制での初陣は大阪でのコスタリカ戦に 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

「北海道の震災時はわれわれも札幌にいましたが、サッカーをしてもいいのかという状況だったので、(チリ戦の中止は)仕方がないと思います。この1試合で、招集から過ごした時間を無駄にすることなく、すべてをぶつけたいと思っています」

 9月6日に発生した北海道地震の影響で、キリンチャレンジカップが1試合少なくなったことについて、森保一監督は前日会見でこのように述べている。結局、チリ戦が行われるはずだった7日は札幌市内で紅白戦を行い、翌8日には新千歳空港から大阪の伊丹空港へ移動。パナソニックスタジアム吹田で11日に開催されるコスタリカ戦に臨むこととなった。もっとも、その大阪も台風21号の上陸で大きな被害を受けている。ゆえに森保監督の会見は、台風と地震の被災者へのお見舞いの言葉から始まった。

 かくして森保新体制となった日本代表の初陣は、9月7日の札幌でのチリ戦ではなく、4日遅れた11日の大阪でのコスタリカ戦となった。このこと自体、極めてレアケースではある。もっとも、新しい4年サイクルがスタートするにあたり、森保新体制はレアケースの連続だった。メンバー発表しかり、その前の監督就任会見またしかり。

 8月30日に行われたメンバー発表は、森保監督が兼任するU−21日本代表がアジア大会で勝ち残っていたため、会見が行われたのはインドネシアのジャカルタ。初陣でのメンバー発表は、新監督の「メッセージ」そのものであり、取材する側としても4年に一度の高揚感を抱きながらの取材となる。しかし今回、その高揚感を体感できたのは、アジア大会の現場にいた者に限られた。加えて言えば、森保新監督の就任会見もまた、高揚感に乏しいものとなった。「日本人監督だから」ではない。コーチングスタッフからの内部昇格であり、五輪代表監督との兼務であり、そして何より、当初からの既定路線だったからだ。

 とはいえ、監督就任が既定路線だったのも、メンバー発表が国外で行われたのも、そして札幌での初陣が流れたのも、いずれも森保監督には何ら責任がないことは言うまでもない。いつもとは明らかに様子が異なる、新しい日本代表の初陣。新監督の采配もさることながら、ここから新たな4年サイクルが始まるという意味でも、注目の一戦である。

フレッシュな顔ぶれと4バック

初選出の選手が6人と、フレッシュな顔ぶれになった日本代表。この日は4バックを採用 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 あらためて、今回招集された23人(杉本健勇がけがで離脱したためベンチ入りは22人)のリストを確認しておこう。今回のメンバー選考について、森保監督は「ワールドカップ(W杯)ロシア大会に出ていた選手で、海外でプレーしている選手の招集は、今回は見送りました」とした上で、「リオデジャネイロ五輪世代より下の年代の選手に関しては、海外でプレーしている選手でも、その選手の立ち位置や状況を踏まえながら」招集。これに国内組が加わることとなった。

 実際、先のW杯メンバーのうち、今回招集されたのはわずか4人。そのうち出場機会があったのは、槙野智章のみである。一方、初選出は6人。その中には堂安律や冨安健洋といった、東京五輪世代も含まれている。ちなみに堂安も冨安も、日本がW杯に初出場した1998年生まれ。「W杯が夢のまた夢だった時代」をまったく知らない世代がA代表入りしたことに、時の流れを痛感する。キャップ数で見ていくと、槙野の33が最多で、浅野拓磨の17、小林悠の13、遠藤航の12と続く。それ以外の選手は、キャプテンに任命された最年長の青山敏弘(8)を含めて全員1桁という、実にフレッシュな顔ぶれとなった。

 そんな中、森保監督が選んだスターティングイレブンは以下のとおり。GKは東口順昭。DFは右から室屋成、三浦弦太、槙野、佐々木翔。中盤は守備的な位置に青山と遠藤、右に堂安、左に中島翔哉。そしてツートップは小林と南野拓実。森保監督といえば、五輪代表では3−4−2−1をベースとしていたが、7日の紅白戦では4バックを試したことが話題になった。本番は3バックか4バックか、いささか読みづらいところであったが、指揮官が選んだのは後者。そして佐々木と堂安は、これが代表初キャップとなった。とりわけガンバ大阪出身の堂安は、欧州で成長した自身の姿を、地元で披露したいところだろう。

 対するコスタリカは、韓国での親善試合を終えて来日。台風被害を受けた関西国際空港に入れず、中部国際空港から入国したそうだ。コスタリカといえば、過去2回のW杯では5バックの手堅い守備から鋭いカウンターを炸裂(さくれつ)させるイメージが定着している。韓国戦では4バックが試されたが、この日本戦では元のシステムに戻してきた。日本とコスタリカの対戦は今回が4回目で、最後に対戦したのは今から4年前。W杯ブラジル大会の直前の調整試合で、この時は日本が3−1で勝利している。この試合に出場している唯一の選手が、今回初めて代表の腕章を巻く青山というのも、何とも感慨深い。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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