「心から応援できる日本代表」と再会 コスタリカとの初陣をしたたかに制す

宇都宮徹壱

南野、中島、堂安が躍動した日本の前線

南野は代表初ゴールを奪う活躍を見せ、前線で躍動した 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 先の震災での犠牲者に黙とうを捧げて、19時20分にキックオフ。立ち上がりの日本は、攻撃時にはテンポよくパスが回るものの、守備に回ったときの対応にやや難が見られた。前半12分、コスタリカは右サイドから侵入したランダル・レアルが、佐々木のブロックをかわしてシュートを放つも、GK東口が好セーブを見せた。これで落ち着きを取り戻した日本は16分、中島の右からのCKにニアサイドで佐々木が頭で反応。このボールが、ブライアン・オビエドの頭に当たってゴールインとなる。森保新体制となってのファーストゴールは、意外にもオウンゴールという形で記録されることとなった。

 前半の一番の見せ場となったのは39分。ハーフウェーライン付近から遠藤がロングパスを送ると、これに小林がジャンプして胸でボールを落とす。一連の動きを察知していた南野は、小林と呼吸を合わせるように右足ダイレクトでシュートを放つも、これはコスタリカGKレオネル・モレイラのファインセーブに阻まれてしまう。それにしても、南野、中島、堂安の積極的な仕掛けが実に素晴らしい。そして彼らの躍動を促していたのが、小林の巧みなポジショニングとコンビネーションだ。結局、前半はオウンゴールによる1点に終わったものの、後半に向けて十分期待が持てる試合内容だった。

 後半も日本のチャンスは続く。後半15分、左サイドで遠藤のパスを受けた中島が、鮮やかなターンから中央の小林に預けると、小林は抜け出した堂安に絶妙なラストパスを送る。堂安はGKモレイラの動きを見極めてループ気味のシュートを放つも、ゴールイン直前で相手DFにクリアされてしまう。その4分後、今度は右サイドでのこぼれ球を拾って再び堂安がシュートするも、惜しくもゴール左に外れてしまった。スタメン最年少、しかも初キャップとは思えない積極性を見せていた堂安だが、残念ながらこの日は彼の日ではなかった。

 ようやくカタルシスが訪れたのは、後半21分。遠藤からボールを受けた中島が、縦に走る遠藤にスルーパスで戻す。遠藤はすぐさま中央に折り返し、これを受けた南野が体勢を崩しながらも記念すべき代表初ゴールを挙げた。その後、森保監督は次々と6枚の交代カードを切り、天野純と守田英正が初キャップ。そして迎えたアディショナルタイム、途中出場の伊東純也が自ら右サイドを切り込み、左足でダメ押しの3点目を決める。堂安に代わって入った伊東が、この日、自身唯一のシュートで代表初ゴールを挙げるというのも、何とも皮肉な話だ。ほどなくしてタイムアップとなり、日本は3−0でコスタリカに快勝した。

「チリ戦を戦えなかったこと」で得たもの

森保ジャパンが「チリ戦を戦えなかったこと」で得たものとは? 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 新チームのファーストゴールがオウンゴールとなり、少しだけ微妙な空気に包まれたものの、その後は南野と伊東に代表初ゴールが生まれ、4人の選手が代表初キャップ。またゴールには至らなかったものの、中島と堂安の積極的に仕掛けていく姿勢や、ボランチのポジションから、たびたびチャンスメークしていた遠藤の成長ぶりが見られたのは大きな収穫だった。ディフェンス陣は見せ場こそ少なかったものの、初めて組んだユニットにしてはそれなりに機能していたし、4バックがオプションとなり得ることが証明できたのも心強い。

 一方で7日のチリ戦が中止となり、より多くの選手を試すことができなかったのは、確かに残念ではあった。とはいえ、日本代表が震災を経て今回の試合に臨んだのは、「チーム作り」という面でプラスに働いた部分もある。それは「震災のこともあって(チームとして)ひとつになれたかなと思う」(青山)、「被災された方たちのためにも頑張ろうと森保さんから言われて、ひとつになって戦えた」(小林)といった選手たちのコメントからも察することができよう。想定外のアクシデントを、プラスの方向に変えられるしたたかさ。それもまた、新しい日本代表の強みと言えるのかもしれない。

 森保監督自身「(札幌で)試合ができなかったのは本当に残念」としながらも、「われわれが、いかに多くの人に支えられてプレーできているかということを感じさせてもらいました。そのことは今後のサッカー人生にも生きると思っています」と語っている。このようなコメントは、試合後の会見でなかなか言えることではない。ちなみに森保監督は前月11日に自宅を出て、この日でちょうど1カ月になるのだそうだ。その間に、アジア大会でのタフな7試合があり、札幌での震災があり、そしてA代表監督としての初陣があった。指揮官にとっては、ロシアでのW杯とは違った意味で、極めて濃密な1カ月となったはずだ。

 さて、本稿を締めくくるにあたり、この試合の意義をファン目線でも指摘しておきたい。日本代表の試合が最後に国内で開催されたのは、5月30日のガーナ戦。突然の代表監督交代に0−2という結果が追い打ちをかけ、試合後の日産スタジアムは絶望的なブーイングに包まれたものだ。あれから3カ月半。その間、ロシアでの冒険とさまざまな曲折を経て、ようやくわれわれは「心から応援できる代表」と日本で再会することができた。もちろん「ジャパンズ・ウェイ」を含むJFAの方針すべてをうのみにするつもりはない。それでも、こうして無事に新たな4年のサイクルを迎えたことを、まずは素直に喜びたいと思う。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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