連載:ジャパンウイメンズテニス注目選手たち
日比野菜緒、夢を叶えてぶつかった悩み “外の世界”が教えてくれた人生とテニス
大会に臨む日本女子プレーヤー紹介連載の第3回は、日比野菜緒(ルルルン)だ。グランドスラムを頂点とするテニス界。五輪への意識の高さは選手によって異なるが、日比野にとっては夢の舞台。目標のひとつだった。しかし、2016年リオデジャネイロ五輪に出場し夢を叶えた後、日比野は新たな目標を見つけられずにいた。
ツアー優勝、五輪出場……次々に叶えた夢
ツアー優勝、五輪出場……夢を次々に叶え、それゆえに悩みを抱えた日比野菜緒。しかし今季は、そこから一歩踏み出そうとしている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
20歳でツアー優勝することも、国別対抗戦フェドカップの日本代表として戦うことも、そして憧れ続けた五輪に出ることも……全ては18歳の頃に立てたプラン通りに、驚くまでに実現していく。それにも関わらず……いや、だからこそ、五輪のその先に、彼女が描く未来はなかった。
15年10月のタシュケント・オープンでツアー優勝し、翌年早々にランキングはキャリア最高の56位に到達。何もかもが初めての経験のなかで、16年シーズンは新鮮な興奮に彩られて過ぎていった。
さらには翌年も、日比野は2度のツアー準優勝、そして全米オープンでグランドスラム初勝利をつかみ取る。周囲から見れば、多くの収穫に満ちていたかに思われたシーズン。
だが当人の胸中は、外側から伺えるそれとは、大きく趣を異にしていた。
「ランキングが少しずつ下がっているのを感じていたし、グランドスラムでも全然良いドローをひかないし。自分のテニスの目標や向上心もなく、ただランキングを落としたくないので試合に出るという状態で……」
新たな目標を立てようと、紙に「世界1位」と書いてみても、どこか空々しく映る。ツアーに1年以上身を置き、その道の険しさを知る今となっては、頂点に立つ夢を嬉々(きき)として語るほど無邪気ではいられなかった。
「全然楽しくなかったですね……去年は」
端的な物言いに、彼女は本心を真っすぐ込めた。