22歳日比野、決勝進出の裏に伊達の助言 日本女子テニス界を育む世代の積み重ね
日比野が見た過酷な景色
そんな言い習わしがあるが、その文脈になぞるなら、今回の彼女の快進撃は、積み重ねた過去の上に立脚した“起こるべくして起きた現象”だろう。
22歳の日比野菜緒(ルルルン)が成し遂げた、女子テニス(WTA)ツアーのマレーシアオープン決勝進出。3月5日の決勝では“天才少女”と呼ばれたアシュリー・バーティ(オーストラリア)に敗れたが、日比野にとってWTAツアー決勝は、優勝した2015年のタシケント・オープンも含め、この1年半の間に実に3度も辿り着いた頂上決戦の舞台である。
2015年のツアー初優勝は、日比野にとってブレークスルーの時であると同時に、“住む世界を変える”分水嶺(れい)でもあった。この優勝を機に日比野はトップ100入りし、78位でシーズンを終える。その地位は、今まで主戦場としたツアーの下部大会を抜けだして、WTAツアーやグランドスラムへと彼女を導く切符だった。
しかし新たに足を踏み入れた戦いの舞台は、過酷な景色をも彼女に見せる。
「トップの選手たちは隙がないし、諦めてもくれない……」
下部大会では、自分が良いプレーをしたり気持ちを切らさず戦い抜けば、相手が崩れてくれもする。しかしWTAツアーで凌ぎを削る選手たちには、同じロジックは通用しない。
「1回もチャンスを与えてくれない選手もいれば、一度精神的に沈んでも、すぐにまた戻ってくる選手もいる」
それら強敵に勝つためには、もっと攻撃力をつけるべきか、それとも粘り強く戦うべきか、あるいは、今は全てが勉強だと割り切る時期なのか……?
揺れる想いの中で送った昨シーズンは、ドロー運にも恵まれず、4大大会では全て初戦敗退。いつしか試合前には、「また勝てなかったら、どうしよう」との不安が胸をよぎるようになっていた。
雑念を消し去った伊達公子の助言
それが現在、膝の手術からの復帰を目指し、必死にリハビリに打ち込む伊達公子(エステティックTBC)。コーチの竹内映二氏が伊達の元コーチという縁もあり、以前から伊達と親交の深かった日比野は、元世界4位にメールで悩みを打ち明けたのだ。
果たして返ってきたのは、長く親身で、そして勝負の世界に生きる者ならではのスパイスも利かせた言葉。
「そこに勝負があり、そしてあなたができることは、コートに入って戦うことだけ。だから余計なことは考えない。考えるヒマがあったら練習しなさい……と言われました」。少し恥ずかしそうな笑みを浮かべ、日比野はそう打ち明けた。
その大先輩からのアドバイスは、後のない所まで追い込まれ迎えたマレーシアオープンで、彼女の心の核を成す。今季の日比野は6大会連続で予選敗退、もしくは本戦初戦で敗れ、ランキングも100位以下まで落ちていた。恐らくは今回のマレーシアが、予選を戦わずして本戦入りできる最後のツアートーナメント。
「前々から、これがラストチャンスだと思っていた。逃すまいと必死でした」
その必死さに加え、開き直りに近い境地が、彼女の頭から雑念を払う。
自分のできることに専念し、目の前の試合を戦うだけ――その姿勢が初戦での、価値あるフルセットの勝利につながる。さらに2回戦では、運も彼女に味方した。対戦するはずの第1シードのエリナ・スビトリナ(ウクライナ)が、ケガのため棄権。日比野の前には戦わずして、3回戦への道が開かれた。